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ウェブ連載版『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』

ウェブ連載版『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』第4回

3月 17日, 2016 松尾剛行

 

3.判決の教訓

SNS上で投稿を行う場合、どうすれば名誉毀損リスクを減らすことができるでしょうか。例えば、投稿の公開範囲を友達等に限定しておけば、「公然性」が否定され、名誉毀損が否定されることがあります。その意味では、公開範囲の限定が、ある程度名誉毀損リスクを低下させるということはできます。

この事件は、SNS上の投稿について、現実に公然性を否定して名誉毀損を否定したものとして重要です。

もっとも、公開範囲の限定は万能ではありません。

たとえば、相談事例と少しだけ事案を変えて、投稿時のAのマイミクの人数が98人であったことを、Bらが立証できていたらどうでしょうか。

これは、たとえば、投稿直後にマイミクの人数に関する証拠を取得しておいて、それを裁判所に提出することができた場合です。

もし、投稿時点で98人もの読者がAの投稿を読むことができていたのであれば、これだけの人数が閲覧できたのであれば、公然性の要件を満たすと認定されるでしょう(注9)(注10)。

事例におけるAも、たとえば友達の人数が数人等であれば、公然性が否定される可能性があり、その場合には、Bらによるでっち上げの有無を問わず名誉毀損が否定されます。しかし、数十人ないし100人以上であれば、基本的には公然性を否定することは困難であり、公然とBらを批判したことで社会のBらに対する評価が低下したことを前提に、「本当にBらはでっちあげをしていた」等と免責を主張することになると思われます(注11)。

その意味では、「投稿の公開範囲を友達/フォロワーに限定さえしていれば、名誉毀損は成立しない」と考えている方がいらっしゃれば、それは間違いであり、考えを改めていただく必要があります。

たとえば、Facebookで友達限定の投稿をする場合、「友達」が数十人以上いる人であればかなり多くの場合において(注12)、「友達」が100人以上いる人であればほぼ確実に公然性があると認められます。そのような人にとっては、投稿がたとえ友達に限定されたものであっても、もはや「内緒話」ではなく、「世間(社会)に向けて公開したものと同じとみなされる」といえばわかりやすいでしょうか。

Twitterの鍵アカウントの人も、「フォロワー」が数十人以上ないし100人以上いれば、名誉毀損の判断においては、公開アカウントと同様に扱われると考えるのがよいでしょう。「鍵アカウント」の投稿が名誉毀損とされる可能性は十分にありますので、注意してください。

SNSと名誉毀損については、これ以外にもさまざまな問題がありますが、この点に関心をお持ちの方は、『最新判例によるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』35頁以下、81頁以下、および370頁等を参照してください。


(注1)ただし、その低下の程度があるラインを超えなければならないことは、連載第3回を参照してください。
(注2)実は、民事名誉毀損には微妙な問題があり、最近でも、東京地判平成26年1月22日ウェストロー2014WLJPCA01228002、判例秘書L06930176のように、これを不要とするものがあるものの、結論としては、公然性必要説が実務の大勢といえます。この点については『最新判例によるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』110頁以下を参照してください。
(注3)メールとSNS上のメッセージはほぼ同様の問題があるところ、『最新判例によるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』331頁以下の第3編ケース1の説明が参考になります。
(注4)東京地判平成26年12月24日ウェストロー2014WLJPCA12248028
(注5)特に、今回は、さまざまな表現が問題となったところ、そのうち本判決が争点6(2)として検討した表現を念頭においています。
(注6)本判決では平成22年のことと認定されている。
(注7)判決では、別紙2にAによる投稿内容が掲載されているところ、ウエストローでは別紙2が省略されており、名誉毀損が問題となった投稿の文言は判然としません。そこで、「相談事例」における投稿内容は、あくまでも筆者の創作であることに留意が必要です。
(注8)平成25年のことと認定されている。
(注9)では、何人いれば多数なのかというと、これは難しい問題がありますが、概ね、5人前後以下であれば少数と判断されることが多いことは、『最新判例によるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』118頁以下をご参照ください。
(注10)また、ミクシィの投稿に関して本判決は簡単に名誉毀損を否定していますが、たとえば、ある投稿を極端な話一人だけが読めるようにしていたとしても、その人から第三者に伝わり、結果としてその投稿内容が多くの人に伝わり得るような場合には、なお公然性があるとされています。これは「伝播性の理論」といわれます。正確性をある程度犠牲にして比喩的に説明すれば「噂好きの人一人に伝えれば、その結果として何十人、何百人へと伝わるのだから、自分自身で何十人、何百人へと伝えたのと同様に公然性があるとして名誉毀損が成立する」という感じでしょうか。これをSNSに適用して公然性を認めたものとして東京地判平成26年8月18日ウェストロー2014WLJPCA08188003や東京地判平成27年2月17日ウェストロー2015WLJPCA02178005、判例秘書L07030366等があります。詳しくは『最新判例によるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』122頁を参照してください。
(注11)これはいわゆる「真実性」の問題です。この点については、『最新判例によるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』159頁以下を参照してください。
(注12)なお、数十人という大人数でも例外的に公然性を否定する一連の裁判例については、『最新判例によるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』120頁以下を参照してください。
 
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時に激しく対立する「名誉毀損」と「表現の自由」。どこまでがセーフでどこからがアウトなのか、2008年以降の膨大な裁判例を収集・分類・分析したうえで、実務での判断基準、メディア媒体毎の特徴、法律上の要件、紛争類型毎の相違等を、想定事例に落とし込んで、わかりやすく解説する。
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松尾剛行

About The Author

まつお・たかゆき 弁護士(第一東京弁護士会、60期)、ニューヨーク州弁護士、情報セキュリティスペシャリスト。平成18年、東京大学法学部卒業。平成19年、司法研修所修了、桃尾・松尾・難波法律事務所入所(今に至る)。平成25年、ハーバードロースクール卒業(LL.M.)。主な著書に、『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』(平成28年)、『金融機関における個人情報保護の実務』(共編著)(平成28年)、『クラウド情報管理の法律実務』(平成28年)、企業情報管理実務研究会編『Q&A企業の情報管理の実務』(共著)(平成20年)ほか。