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ウェブ連載版『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』

ウェブ連載版『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』第9回

4月 21日, 2016 松尾剛行

 
論評サイトを偽装してライバル商品を貶める? それはだめでしょ。[編集部]
 

アフィリエイトサイトにおいて名誉毀損が問題となった事案から、公益を図る目的(公益性)について探る

 
 前回(連載第8回)説明したとおり、「大丈夫?」という表現でも名誉毀損にならず責任を免れる「名誉毀損の免責法理」として最も重要なものが、いわゆる「真実性の法理」です。たとえある表現が他人の社会的評価を低下させる場合であっても、①「公共の利害に関する事実」に関するもので(公共性)、かつ、②専ら「公益を図る目的」に出ているのであれば(公益性)、③摘示された事実が真実であると証明された場合(真実性)には、免責されます。

たとえば、政治家の不品行な行為をネットに投稿しても、政治家の資質に関する事柄は選挙で誰に投票するかという公共的な問題にかかわりますから、公共性があるわけです。そして、公益性は投稿者の内心(「公益を図る目的」)が問題となりますが、裁判官には投稿者の内心そのものはなかなかわかりません。そこで、公共性があれば、そのような内容の投稿をすることは「公益を図る目的」に出ている、つまり公益性があると推認されることが多いのです。これは「ほかに特に公益性を否定するような事情がなければ、公益性が肯定される」ということです。その意味では、公益性が単独で問題となる事案はあまり多くありません。

しかし、アフィリエイトサイトに関し、公益とは異なる目的があったのではないか、激しく争われた事案があります(注1)ので、東京地方裁判所の判決を題材に、どのような場合に公益性が否定されうるのかを検討してみたいと思います。
 
*以下の「相談事例」は、東京地方裁判所の判決の内容をわかりやすく説明するために、判決文を参考に筆者が創作したものであり、省略等、実際の事案とは異なる部分があります。東京地方裁判所で問題となった事案の詳細は、判決文をご参照ください。

 

相談事例:アフィリエイトサイトの表現

 Aに名誉を毀損されたとして、BがM弁護士のところに相談に来た。

Bは英会話教材を出しており、その教材はベストセラーになっている。英会話教材業界では有力な教材がいくつかあるが、Bの英会話教材と甲という英会話教材の2つが双璧と言ってもおかしくなかった。

Aが運営するウェブサイトでは、英会話教材を徹底比較するという建前となっているが、実際には甲という英会話教材を絶賛する反面、Bの教材については、効果がまったく見られず英会話学習には不適切であるうえ、Bの宣伝手法が意図的に誤解するような宣伝文句を使用した詐欺的、欺瞞的なものであり、そのためBの教材に対する消費者からのクレームが多発している等と指摘している。

ところで、Aのウェブサイトには、甲教材を販売するサイトへのリンクが貼られている。Aを見て甲教材を購入した人がいると、その購入価格の数パーセントがAに対して支払われるという、いわゆるアフィリエイトサイトであった。

Bは、Aの行為がBの名誉を毀損するものであるとして、法的措置を講じたいとしている。

M弁護士はBに対しどのように助言すべきか。

 

1.法律上の問題点

そもそも、Aの指摘がBの名誉を毀損するかが問題となります。たとえば、「Bの教材を使ったけれども、自分にとっては効果があるように感じられなかった」という単なる個人の感想レベルの記載であれば、それをもって、Bの社会的評価を低下させる名誉毀損とまで見るべきではないでしょう。

しかし、感想の域を超え、Bが詐欺を行っているというような記載まで存在することに鑑みれば、Aの投稿は、Bの社会的評価を十分に低下させているといえるでしょう(注2)。

もっとも、このような教材の比較というのは、一定程度公共性があると思われます。すなわち、公刊されている教材の潜在的な購入者(英語を勉強したいと考えている人)にとっては、批判的内容を含むさまざまな口コミがあることそのものがその選択において重要だといえます(注3)。ですので、そのような公刊されている教材の比較は、多くの人に利害関係がある、つまり公共性があるとして、真実性の法理の第一要件を満たします(注4)。

しかし、東京地方裁判所では、公益性が重要な問題となって、議論されました。

上記のとおり、公益性というのは、「公益を図る目的」、より日常的な言葉でいえば、多くの人の利益のためにそのような投稿をしたということです。しかし、Aのウェブサイトはアフィリエイトサイトです。

Bは、(仮に教材への論評に公共性があるとしても)アフィリエイトサイトの投稿であり、アフィリエイト報酬を得るためのものであるから公益性が否定されると主張しました。

ここで、1点注意しておかなければならないのは、「利益を得ている」という一事をもって、公益性が否定されるわけではないということです。新聞社やテレビ局等のマスメディアは、報道によって読者から(定期)購読料をもらったり、広告主から広告費等をもらっています。しかし、それだけで公益性が否定されるのであれば、マスメディアは批判的な報道ができなくなりかねません。そこで、単に「利益を得ている」というだけでは公益性は否定されないと一般に考えられていますし、そう考えるべきでしょう(注5)。

→【次ページ】ほんとに公益性がある……?

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松尾剛行

About The Author

まつお・たかゆき 弁護士(第一東京弁護士会、60期)、ニューヨーク州弁護士、情報セキュリティスペシャリスト。平成18年、東京大学法学部卒業。平成19年、司法研修所修了、桃尾・松尾・難波法律事務所入所(今に至る)。平成25年、ハーバードロースクール卒業(LL.M.)。主な著書に、『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』(平成28年)、『金融機関における個人情報保護の実務』(共編著)(平成28年)、『クラウド情報管理の法律実務』(平成28年)、企業情報管理実務研究会編『Q&A企業の情報管理の実務』(共著)(平成20年)ほか。