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《法律実務書MAP》
ブックガイドPartⅢ一般民事

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大島義則プロデュース《法律実務書MAP》のブックガイドを8回に分けて公開していきます。今回は3回目、一般民事です。ブックガイドはフェア開催店の店頭で無料配布しています。ぜひこの機会にご来店ください。[編集部]
2016年9月12日(月)~10月16日(日) 八重洲ブックセンター本店1階で開催中!
2016年9月19日(月)~10月9日(日) 紀伊國屋書店梅田本店で開催中!
2016年10月1日(土)~10月31日(月) ジュンク堂書店福岡店で開催中!

 

Part Ⅲ 一般民事
written by 大島義則

 
1 民法の基礎知識

我妻コンメ医療過誤、会社訴訟等の専門性を要する紛争類型を除いた一般人相互の民事紛争を「一般民事事件」と呼ぶ。一般民事事件において基本となる法律知識は、何よりも民法である。弁護士であれば、民法の解釈に迷った場合、有斐閣の『注釈民法』(26巻・全27冊)、『新版注釈民法』(22冊)で調査するのが常であるが、デスクにコンパクトな逐条解説である我妻榮=有泉亨=清水誠=田山輝『我妻・有泉コンメンタール民法〔第4版〕』【12】を置いておくと、簡単な調べものくらいであれば事足りることが多い。
 
2 契約交渉・和解交渉

弁護士の仕事というと裁判をイメージされる方が多いと思うが、法律実務は裁判に限られるものではない。むしろ契約交渉や和解交渉といった仕事のほうが、法律家の仕事の割合として多いのが普通である。

契約の理論から交渉方法や基本文例までカバーした契約交渉の教科書として、喜多村勝德『契約の法務』【13】がある。契約書作成の実務と書式契約の法務また契約書の作成・レビューをする際には阿部・井窪・片山法律事務所の『契約書作成の実務と書式』【14】がコンパクトながらも信頼でき、お勧めできる。より広範かつ詳細な契約書作成・レビュー業務に対応するためであれば、大村多聞ほか編『契約書式実務全書 第1〜3巻』【15】を常備しておくのも良いであろう。近年では、ワンテーマを狭く深く掘り下げた契約作成のための実務書も出ており、たとえば森本大介=石川智也=濱野敏彦編著『秘密保持契約の実務―作成・交渉から平成27年改正不競法まで』【16】などはその例である。

契約交渉の過程では内容証明郵便の打ち合いになることも少なくない(内容証明とは「いつ、いかなる内容の文書が誰から誰宛に差し出されたか」を日本郵便株式会社が証明してくれる制度である。)。通常の弁護士であれば内容証明をゼロから起案する能力を有しているが、慣れるまでは叩き台となる文案があったほうが便利な場合もある。たとえば、みらい総合法律事務所『応用自在!内容証明作成のテクニック』【17】は、叩き台となる多数の文例が掲載されており、便利である。

当事者が互いに譲歩をして争いをやめることを和解というが、法律家は和解交渉を取り扱うことも多い。2472204-001基礎からわかる供託裁判所職員総合研修所監修『書記官事務を中心とした和解条項に関する実証的研究』【18】は法曹の必携書であり、和解条項作成の際の最重要文献である。星野雅紀編『和解・調停モデル文例集』【19】も、実務的に使える文例が多数掲載されており、持っておくと良い。

なお、契約交渉・和解交渉の過程において、債務不履行の状態になることを避けるために供託手続を利用することもある。磯部慎吾『基礎からわかる供託』【20】は、供託の申請から還付まで、図解や書式を用いて解説しており、供託初心者に優しい本の作りとなっている。ただ、供託についての基礎知識を既に持っている人が実務上の問題を検討する場合、立花宣男監・野海芳久『雑供託の実例雛形集』(日本加除出版、2004年)、立花宣男監・福岡法務局ブロック管内供託実務研究会編『実務解説 供託の知識167問』(同、2006年)、東京法務局ブロック管内供託実務研究会編『供託実務事例集』(同、2014年)等で処理される方も多いかもしれない。
 
3 債務整理・自己破産

破産申立個人債務整理処理事件多重債務者問題は、弁護士実務において事件数の多い事件類型である。多重債務者問題に対しては任意整理、自己破産、過払金返還請求等の対処を取ることになる。東京弁護士会=第一東京弁護士会=第二東京弁護士会『クレジット・サラ金処理の手引(5訂版補訂)』(2014)には、事件処理の理想形が書かれており、多重債務者問題の最も重要な基本書である。実際の事件処理を行うにあたって用いる書式集やマニュアルとして茨木茂編著『個人債務整理事件処理マニュアル』【21】を持っておくのも良いであろう。

破産の法的手続を選択する場合には、東京弁護士会倒産法部会編『破産申立マニュアル〔第2版〕』【22】が破産申立側の視点で相談、受任及び事件処理の詳細に至るまで記載されているので、参考になる。
 
4 民事訴訟全般

多くの弁護士の主要業務は、やはり民事訴訟であろう。「民事訴訟でどうなるのか」という相場観を知っているからこそ、普段の法律相談や法律顧問業務において適切なアドバイスが可能になる。弁護士の法律専門家としての優位性は、依然として「最後には裁判がきちんとできる」ことにある。

民事裁判実務の留意点民事尋問技術熟練した弁護士であれば必ずしも必要ではないかもしれないが、民事裁判の概要・書式を知るために、圓道至剛『若手弁護士のための民事裁判実務の留意点』【23】は有用であろう。民事裁判における本人尋問・証人尋問の技術については、裁判官の手による加藤新太郎『民事尋問技術(第3版)』【24】を読むと、裁判官の考えていることを理解しやすくなる。また相手方の手持ち証拠を強制的に出させるために文書提出命令の申立を検討することがあるが、その際は山本和彦ほか編『文書提出命令の理論と実務〔第2版〕』【25】を参照して証拠開示の対象となるか否かの相場観を調べると良いであろう。

民事実認定と立証活動訴額算定の手引そのほか細かい話であるが、訴訟提起時には「この訴状にはいくらの印紙を貼れば良いのであろうか」という悩みが結構出てくる。その際は小川英明=宗宮英俊=佐藤裕義編『〔三訂版〕事例からみる訴額算定の手引』【26】を見れば9割方の悩みは解決する。裁判所を説得するための資料として提出することもあるので必携である。

裁判官の事実認定や弁護士の立証活動をテーマとして実務家が座談会形式で論を深めたものとして加藤新太郎編『民事事実認定と立証活動 第Ⅰ・Ⅱ巻』【27】があり、これは訴訟活動で悩みが出たときに読むと良い。また上告理由書等では民事でも憲法論を展開せざるを得ないが、拙著『憲法の地図:条文と判例から学ぶ』【28】は最高裁調査官解説を基軸として憲法の規範的内容を整理したものであり、参考になると思われる。慰謝料算定については千葉県弁護士会編『慰謝料算定の実務』【29】が人気である。憲法の地図慰謝料実務

なお、青林書院の『裁判実務大系〔全30巻〕』、『新・裁判実務大系〔全30巻〕』、『最新裁判実務大系』(刊行中)は、事件類型ごとの重要論点に関して悩みを解決してくれることが多い。すべて取り揃えるのは金銭的・事務スペース的に厳しいという場合、よく取り扱う分野については購入しておいても良いかもしれない。
 
5 民事執行・保全

たまに誤解をされている方がいるが、民事訴訟で勝訴して判決文をもらったとしても、自動的に判決文の内容通りの状態が実現されるわけではない。「お金を払いなさい」という判決が下っても、世の中にはその判決に従わない人がいる。こうした場合には民事執行法に基づき強制執行等をかけていく必要がある。民事執行の実務(不動産執行)民事執行の実務(債権執行)東京地方裁判所の裁判官が書いた東京地方裁判所民事執行センター実務研究会編著『民事執行の実務・不動産執行編(上)(下)〔第3版〕』【30】、同『民事執行の実務・債権執行編(上)(下)〔第3版〕』【31】は、民事執行の基本文献である。

また、民事裁判は訴えの提起から判決の確定まで相当の時間がかかる手続であり、民事裁判が行われている間に、財産が隠匿されたり、係争物が処分されてしまったりする場合がある。こうなると、たとえ民事裁判で勝訴したとしても、債権者は満足を受けられない結果となる。こうした事態を防ぐために仮差押えや仮処分といった民事保全手続をとるべき場合がある。民事保全の実務
 やはり東京地方裁判所の裁判官が書いた八木一洋=関述之編著『民事保全の実務〔第3版増補版〕上・下』【32】が、必読文献であろう。
通常の訴訟と異なり、民事執行・保全は緊急の対応が必要となるケースが多い。事件を受任してから本を買っていたのでは間に合わないので、これらの本はだいたいの法律事務所に常備してある。
 
 

コラム② 法律実務に効くこの1冊!(一般民事編)

 
大島眞一『〈完全講義〉民事裁判実務の基礎-訴訟物・要件事実・事実認定-』(上・下)【33】
 
完全講義民事裁判実務の基礎 書名に「民事裁判実務の基礎」とあることから、多くの方が「実務書ね」とスルーしてしまうかもしれない。しかし、本書は実務家のためだけの本ではない。むしろ法律を学ぶ学生、とくに、民法及び民事訴訟法の基礎を習得している(はずの)法科大学院生にこそ読んで欲しい本である。

本書は著者が神戸大学法科大学院で行った授業をベースにしており、全15講のうち、訴訟物が2講、要件事実が11講、事実認定が2講という構成となっている。また、それぞれ「本文」「One Point Lecture!」「Advance」と分かれており、初学者はまずは「本文」だけを読み進めて要件事実の理解を深めることができる内容となっている。

実は私がロースクールに通っていたときに本書は学生の間で流行っていたのであるが、「分厚いしイヤだな。」「要件事実の基本は『問題研究要件事実』※1と『紛争類型別』※2で十分でしょ。」と思って手にとることが無かった。本書を手にとったのは修習が終わり、実務家になり、受験指導をするようになってしばらくしてからであった…… 遅い! 遅すぎる! 遅すぎた!

本書をもっと早く読んでいれば私の修習のときの民事裁判の成績はもっと良かったであろうし、さらにいえば私の司法試験の民事系の成績ももっと良かったであろう。ああ、遅かった。もっと早く読んでいれば良かった。と、本書の良さは司法試験に合格し、修習を終え、実務家になってからもじわじわ効いてくるのである。

本書は「♣coffee time」というコラムもところどころに掲載されていて、著者のみならず、新人弁護士や修習生も短文を寄せている。これを受験生時代の私が読んでいたら一歩先を進んでいる先輩達の姿に地団駄を踏んで悔しがり、勉強のモチベーションがさらにアップしていたことは間違いない。

要件事実が苦手なままでは実務はできないし、そもそも実務家になれない。実務家になってからも要件事実は基礎中の基礎。実務家の「共通言語」である。要件事実や事実認定の習得のためには本書を強くオススメする。
 
三輪記子(みわ・ふさこ)
弁護士(東洞院法律事務所)。東京大学法学部卒業、立命館大学法科大学院修了。離婚や遺産分割など家事事件を中心に京都で活動中。受験指導も行う。ADR(裁判外紛争解決手続)の普及を願っている。ときどきテレビや雑誌にも出ている。
 
※1 司法研修所編『新問題研究 要件事実』(法曹会、2011年)
※2 司法研修所編『紛争類型別の要件事実 改訂』(同、2006年)

 
 
紹介書籍一覧
【12】我妻榮=有泉亨=清水誠=田山輝明『我妻・有泉コンメンタール民法(第4版)』(日本評論社、2016)
【13】喜多村勝德『契約の法務』(勁草書房、2015)
【14】阿部・井窪・片山法律事務所編『契約書作成の実務と書式』(有斐閣、2014)
【15】大村多聞=佐瀬正俊=良永和隆編『契約書式実務全書(第2版)第1巻・第2巻・第3巻』(ぎょうせい、2014)
【16】森本大介=石川智也=濱野敏彦編著『秘密保持契約の実務』(中央経済社、2016)
【17】みらい総合法律事務所『応用自在!内容証明作成のテクニック』(日本法令、2011)
【18】裁判所職員総合研修所監修『書記官事務を中心とした和解条項に関する実証的研究(補訂版)』(法曹会、2010)
【19】星野雅紀編『和解・調停モデル文例集(改訂増補3版)』(新日本法規出版、2011)
【20】磯部慎吾『基礎からわかる供託』(きんざい、2015)
【21】茨木茂編著『個人債務整理事件処理マニュアル』(新日本法規出版、2012)
【22】東京弁護士会倒産法部会編『破産申立マニュアル(第2版)』(商事法務、2015)
【23】圓道至剛『若手弁護士のための民事裁判実務の留意点』(新日本法規出版、2013)
【24】加藤新太郎編著『民事尋問技術(第3版)』(ぎょうせい、2011)
【25】山本和彦=須藤典明=片山英二=伊藤尚編『文書提出命令の理論と実務(第2版)』(民事法研究会、2016)
【26】小川英明=宗宮英俊=佐藤裕義編『事例からみる訴額算定の手引(三訂版)』(新日本法規出版、2015)
【27】加藤新太郎編『民事事実認定と立証活動 第Ⅰ巻・第Ⅱ巻』(判例タイムズ、2009)
【28】大島義則『憲法の地図』(法律文化社、2016)
【29】千葉県弁護士会編『慰謝料算定の実務(第2版)』(ぎょうせい、2013)
【30】東京地方裁判所民事執行センター実務研究会編著『民事執行の実務・不動産執行編(第3版)上・下』(きんざい、2012)
【31】東京地方裁判所民事執行センター実務研究会編著『民事執行の実務・債権執行編(第3版)上・下』(きんざい、2012)
【32】八木一洋=関述之編著『民事保全の実務(第3版増補版)上・下』(きんざい、2015)
【33】大島眞一『〈完全講義〉民事裁判実務の基礎(第2版)上・下』(民事法研究会、2013)
■紹介書籍について
*大島義則プロデュース・ブックフェア《法律実務書MAP》で無料配布したブックガイドに掲載の書籍を各パートごとにご紹介しております。
*紹介書籍には品切の書籍が含まれている場合があります。ご了承ください。
*「法律実務書」を紹介するフェアですので、基本書や学術論文集は原則として取り上げておりません。またデスクに置いておく法律実務書を想定しており、逐条解説書やコンメンタールの類も必要に応じて取り上げるにとどめております。

【勁草法律実務シリーズ】
shohishagyoseiho_shoei大島義則ほか編著『消費者行政法』
安全法、取引法、表示法、個人情報保護法の分野において、行政庁はどのような法執行を行っているのか。また、その法執行を受ける企業はどのような対応をすべきであるのか。現役消費者庁職員および元職員の弁護士が解説する画期的法律実務書。企業法務担当者、法律実務家、行政職員等必携。2016年8月刊。
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条文を本当に理解するとは、どのようなことをいうのか。実務の現場で条文を使いこなせるようになることを目的として、実際にどのように条文が活用されているのかを明らかにしつつ、丁寧に逐条解説を施す。弁護士、司法書士等の法律実務家、調停委員、ADRにかかわる方必携。2016年1月刊。
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