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《法律実務書MAP》ブックガイドPartⅧ行政

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大島義則プロデュース《法律実務書MAP》のブックガイドを8回に分けて公開していきます。今回は8回目、行政です。[編集部]
2016年10月1日(土)~11月18日(金) ジュンク堂書店福岡店で開催中! ※好評につき延長となりました!
八重洲ブックセンター本店、紀伊國屋書店梅田本店で開催しましたブックフェアは好評のうち終了しました!ありがとうございました。

 

PartⅧ 行政
written by 大島義則

 
 行政事件の例としては、国又は公共団体から行政処分を出される前の事前行政手続(聴聞手続や弁明の機会の付与)への対応、行政処分を争う行政不服申立手続や行政事件訴訟、行政の行為により被った損害を填補するために提起する国家賠償請求や損失補償請求などが挙げられる。00000000082229kまた、住民側を代理して住民監査請求や住民訴訟を提起したり、地方自治体側の立場から自治体法務を支援したりする弁護士も多い。

事前行政手続は、行政手続法や行政手続条例により規律されている。官公庁は、行政手続法についてはIAM=一般財団法人行政管理研究センター編『逐条解説 行政手続法 改正行審法対応版』【94】に依拠して行政手続を行っており、事前行政手続に関する法務に携わる場合には必携である。

行政不服申立をする場合には日本弁護士連合会行政訴訟センター編『改正行政不服審査法と不服申立実務』【95】、行政事件訴訟を提起する場合には南博方原編著、高橋滋=市村陽典=山本隆司編『条解行政事件訴訟法(条解シリーズ)〔第4版〕』【96】が力になってくれるであろう。

18552641g3i03xpl-_sx339_bo1204203200_また、行政事件訴訟を提起する場合には、国又は地方公共団体の責任を問うために国家賠償請求を併合提起することも多い。西埜章『国家賠償法コンメンタール 第2版』【97】は、国家賠償法に関する最も分厚い逐条解説であり、必携である。

住民側を代理して住民訴訟を提起する場合には井上元『住民訴訟の上手な活用法―監査請求から訴訟までの理論と実務』【98】、自治体法務に携わる場合には松本英昭『新版 逐条地方自治法 第8次改訂版』【99】が役立つであろう。
 
 

コラム⑥ 法律実務に効くこの1冊!(行政編)

 
定塚誠編著『行政関係訴訟の実務』【100】
 
4-7857-2245-6 行政関係訴訟の実務では、行政手続法【94】、行政不服審査法【95】、行政事件訴訟法【96】、国家賠償法【97】、地方自治法【98、99】に関する知識が求められることはいうまでもない。しかし、ひとことで行政関係訴訟といっても、公的年金給付をめぐる紛争などのように市民にとって身近な問題から、租税回避行為の「否認」をめぐる紛争などのように企業法務における最先端の問題まで、さまざまな紛争類型がある。

各分野について、関連法令や通達、実務上の取扱いなどをまとめた書籍や、逐条解説なども出版されているが、訴訟選択や仮の救済、審理における実務上の問題点などについて解説したものは、意外と乏しい。司法研修所編『改訂 行政事件訴訟の一般的問題に関する実務的研究』(法曹会、2000年)は、行政事件訴訟の実務において最も役立つものであるが、2004年改正行政事件訴訟法による実務上の取扱いの変化に対応していない点が惜しまれる。

そのような状況において、最も法律実務に「効く」1冊といえば、定塚誠編著『行政関係訴訟の実務』【100】であろう。

本書は、東京地裁行政訴訟専門部などに所属していた経験を有する裁判官によるものであり、実際の訴訟を念頭において解説したものである。取扱い分野も幅広く、外国人、社会保障、租税、建築、公用負担、運転免許、営業・事業許可、営造物、情報公開、住民訴訟など多岐にわたり、通常想定される紛争類型をほぼ網羅しているといってよい。

各章は、法制度の概要、最高裁判例等による判断枠組み、審理・判断の方法、主張立証責任、原告側の主張立証上の注意点、裁判例、参考文献等から構成されており、必要な限度で、仮の救済、訴えの利益、その他の法的論点についても記載されているなど、基本的な知識が効率的にまとめられている。

たとえば、難民認定手続に関する紛争において本国における逮捕状や裁判関係書類などを提出しても、地域によっては偽造や売買が横行しているため、審理では信用性が慎重に検討されるというような知識は、弁護士の立場からすると、受任前に見通しを判断するために極めて有益である。受任後は、各分野の逐条解説や先行研究、さらには関係する裁判例の原文にあたらなければならないが、本書の脚注はそれらの「ハブ」にもなる。

専門部の裁判官らにより執筆された本書の性質上、その当否は別として、裁判所が異なる取扱いをすることは想定し難いことも踏まえると、まさに、行政関係訴訟の必読書であるといえる。
 
伊藤建(いとう・たける)
弁護士(琵琶湖大橋法律事務所)、関西大学法科大学院講師(非常勤、公法実務演習担当)。慶應義塾大学法務研究科修了。司法試験・予備試験の受験雑誌である「受験新報」(法学書院)における短期集中連載「憲法の流儀」・「行政法の流儀」は、多くの司法試験受験生からの支持を得ている。現在は、同誌で「憲法 論文の流儀」を連載中(2015年11月号~)。実務家としても、近江八幡市の交通事故で無罪判決を得たほか、生活保護問題に積極的に取り組み、再審査請求で費用徴収決定処分の取消しを勝ち取ったこともある。インターネットメディアや週刊誌などで、憲法に関するインタビューも掲載。主な共著は『基本憲法Ⅰ』(日本評論社、近刊)等。

 
 
紹介書籍一覧
【94】IAM=一般財団法人行政管理研究センター編集『逐条解説 行政手続法』(ぎょうせい、2016)
【95】日本弁護士連合会行政訴訟センター編『改正行政不服審査法と不服申立実務』(民事法研究会、2015)
【96】南博方原編著/高橋滋=市村陽典=山本隆司編『条解行政事件訴訟法(第4版)』(弘文堂、2014)
【97】西埜章『国家賠償法コンメンタール(第2版)』(勁草書房、2014)
【98】井上元『住民訴訟の上手な活用法』(民事法研究会、2009)
【99】松本英昭『新版 逐条地方自治法(第8次改訂版)』(学陽書房、2015)
【100】定塚誠編著『裁判実務シリーズ7 行政関係訴訟の実務』(商事法務、2015)
■紹介書籍について
*大島義則プロデュース・ブックフェア《法律実務書MAP》で無料配布したブックガイドに掲載の書籍を各パートごとにご紹介しております。
*紹介書籍には品切の書籍が含まれている場合があります。ご了承ください。
*「法律実務書」を紹介するフェアですので、基本書や学術論文集は原則として取り上げておりません。またデスクに置いておく法律実務書を想定しており、逐条解説書やコンメンタールの類も必要に応じて取り上げるにとどめております。

【勁草法律実務シリーズ】
shohishagyoseiho_shoei大島義則ほか編著『消費者行政法』
安全法、取引法、表示法、個人情報保護法の分野において、行政庁はどのような法執行を行っているのか。また、その法執行を受ける企業はどのような対応をすべきであるのか。現役消費者庁職員および元職員の弁護士が解説する画期的法律実務書。企業法務担当者、法律実務家、行政職員等必携。2016年8月刊。
internetmeiyokison_shoei松尾剛行著『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』
時に激しく対立する「名誉毀損」と「表現の自由」。どこまでがセーフでどこからがアウトなのか、2008年以降の膨大な裁判例を収集・分類・分析したうえで、実務での判断基準、メディア媒体毎の特徴、法律上の要件、紛争類型毎の相違等を、想定事例に落とし込んで、わかりやすく解説する。2016年2月刊。
keiyakunohomu喜多村勝德著『契約の法務』
契約法の基礎、契約書文例の詳細な検討はもちろん、裁判例の考え方を丁寧に紹介しつつ、契約法における民事訴訟法上の論点を解説する。さらには、ユニドロワ原則、債権法改正、契約交渉のポイントも加え、契約法務の全体像を立体的に示す。法曹以外の読者も想定し、法的概念の基本から丁寧に説き起こし、あらゆる場面に応用可能な「契約力」の土台をつくる。2015年8月刊。
kazokuhokommentar大塚正之著『臨床実務家のための家族法コンメンタール(民法親族編)』
条文を本当に理解するとは、どのようなことをいうのか。実務の現場で条文を使いこなせるようになることを目的として、実際にどのように条文が活用されているのかを明らかにしつつ、丁寧に逐条解説を施す。弁護士、司法書士等の法律実務家、調停委員、ADRにかかわる方必携。2016年1月刊。
%e5%86%8d%e7%94%9f%e5%8f%af%e8%83%bd%e3%82%a8%e3%83%8d%e3%83%ab%e3%82%ae%e3%83%bc%e6%b3%95%e5%8b%99第一東京弁護士会環境保全対策委員会編『再生可能エネルギー法務』
太陽光、風力、中小水力、地熱、バイオマス等、多様な再生可能エネルギーについて、関連法令等の制度面を中心に、導入・運用(住民に対する説明からファイナンスまで)のポイントまでを解説。企業、地方自治体、市民、金融機関、事業者を法的にサポートする法律家等関係者必読の実務書。2016年改正再生可能エネルギー特別措置法対応。2016年9月刊。
genshiryokusonbai第一東京弁護士会災害対策本部編『実務 原子力損害賠償』
東日本大震災、それにともなう福島第一原子力発電所事故から約5年、この間が積み上げた「原子力損害賠償紛争解決センター」への申立てによる賠償問題解決のノウハウを示す。避難指示による避難・自主避難による損害、営業損害、風評被害、避難関連死等、気になるポイントをわかりやすいQ&A形式で解説。2016年2月刊。

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