連載・読み物 ベルクソン 反時代的哲学

『ベルクソン 反時代的哲学』3

1月 06日, 2016 藤田尚志
§26. 多様性と有機組織化のあいだにある強度

こうして五つの段階([A]-[E])を経た後で、いよいよベルクソンは数量化可能性や空間性のみから計測可能性を捉える精神物理学者たちの混同をその理論的核心部分において撃つことになる。「計測を可能にするためにまずもって外的事物から排除されるこの質的な要素こそ、精神物理学者が保持し、かつ計測すると称するところのものなのである」(44/46)。ここまでかなり細かくベルクソン『試論』第1章の足取りを追ってきたが、それはただ一つのことを示すためであった。すなわち、ベルクソンは決して科学的ないし論理的な態度を単に放棄しているわけではなく、むしろ捉えられる対象の本性そのものを損なうことなく捉えるための計測方法、新たな計測の論理を探しているのだということである。より正確に言えば、量的多様性/質的多様性という区別は、空間化された時間/持続という概念対に到達するための新たな概念的創出であるが、それらメジャーな概念を下支えしているものこそ、《計りえぬものを計る》ための計測のマイナーな論理ないし、私たちがリズム-計測(rythmesure)と呼ぶものに他ならない。さて、心理的状態の分析において、ベルクソンは、物理的=身体的要素の影響を排除しつつ、固有の意味で質的な次元を確保しようとしているように思われた。そのために彼は、深層の感情、例えば美的感情などから議論を始めたのであった。だが、質的なものないし心的なものの核心部分において、抜きがたくある種の身体性が現れてきていた。優雅さの最終段階を発生させるものとしてのリズム性や、自由の始まりとしての情緒的感覚などがそれである。たしかに、強度と深さの境界線ははっきりさせたものの、私たちはまだ意識の深奥部には降り立っていない。しかし少なくとも、以上で、意識を貫く時間と自由の重要な側面たる、心理状態の「表現的あるいはむしろ暗示的」な側面が、すでにこの『試論』第1章から顔をのぞかせていたことは示せたと思う。

言い換えれば、強度の大きさ(grandeur intensive)に関して発見されるべき唯一の尺度があるのではなく、強度に関する二つの異なる眼差しがあるのだ。「以上のことを要約して、われわれとしてはこう言いたい。すなわち、強度の概念は、研究されているのが外的な原因を表象するところの意識状態であるか、それとも、それ自体で自足した意識状態であるかによって、二重の相のもとにその姿を現す、と。〔…〕つまり、強度の観念は、二つの流れの合流点に位置しているのだ。すなわち、外部から外延的な大きさの観念をわれわれにもたらす流れと、内的多様性のイメージを意識の深みに迎えに行って、それを表面へと導く流れとの合流点に」(50/54)。この第二の観点こそがベルクソンの観点であるが、「われわれは、ある根本的状態の只中に見分けられる単純な心理的諸事象の多様性の大小を強度と呼ぶ」。ここで、多様性と強度が並行的に置かれているのは明らかである。つまり、第1章にとっての強度が、第2章にとっての多様性なのである。「表象的な感覚について、われわれは、かかる感覚の原因の観念を導入しない場合、その強度とは何であるのかと問うてきたのだが、それと同様に、今やわれわれは、空間――持続は空間へと展開される――を捨象した場合に、内的状態の多様性はどうなるのか、持続はいかなる形態をまとうのかを探究しなければならないだろう」(51/54-55)。第1章前半の言葉を引いておけば、「美的感情の相継起する強度は、われわれのうちに不意に生じる状態の変化に対応し、深さの度合いは、根本的な情動における基礎的な心理的諸事象――ただし、それらは判明な仕方で取り出されるわけではない――の数の大小に対応している」(15/13)。これら〈外延的=拡がりをもつもの/内包的=強度的なもの〉の区別と〈強度/深さ〉の区別を結びつけているのがまさしくリズムである。このことが意味しているのは、ベルクソンは『試論』第2章において、強度の問題すなわち継起の問題(したがってリズムの問題)を検討することになるということであり、深さの問いすなわち魂の高揚(リズムの彼岸)の問いは、第3章で初めて本格的に検討されることになる。

ここまでをまとめよう。『試論』第1章に関する私たちの分析を通じて、リズムと催眠暗示は、実際、心理状態の「強度」と「多様性」を捉える一種の計測装置として機能しつつ、「純粋持続」や「異質的連続性」といった諸概念を準備するのに役立っているということが明らかにされた。とりわけ「美的感情」に関するセクションにおいて、リズムと催眠暗示は、「強度」を発見し、それを「深さ」と区別することを可能にしてくれていることを確認した。ここから『試論』の残る二つの章の読解方針が引き出される。

1)『試論』第2章、とりわけ「持続は計測可能か?」および「内的多様性」と題されたセクションにおいて、リズムは、持続を積極的に規定するものとして機能していることを確認する。そこでは、質的多様性の「リズム的な有機組織化」の検討が問題となる。

2)『試論』第3章、とりわけ「心理学的決定論」および「自由行為」に関するセクションにおいて、催眠暗示は、自我の深さと自由に対する無力として現れることで、その自由の度合いに与えられる一種の基準を導入するものとして消極的な形で機能していることを確認する。
 
 


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[第3回初出:2013年6月18日]
【編集部より】本連載の第29回までは、2013年4月15日から2015年12月28日にわたり、勁草書房サイトに掲載されていたものを移行いたしました。未読の方は、ぜひ第1回からお読みください。第30回からは編集部サイトでの掲載が初出になります。*注は省略してあります。

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藤田尚志

About The Author

ふじた・ひさし  九州産業大学准教授。1973年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。リール第三大学博士課程修了。Ph.D. 専門はフランス近現代思想。共著に、久米博・中田光雄・安孫子信編『ベルクソン読本』(法政大学出版会)、金森修編『エピステモロジー』(慶應義塾大学出版会)、西山雄二編『人文学と制度』(未來社)、共訳に、ゴーシェ『民主主義と宗教』(トランスビュー)など。