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憲法学の散歩道

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憲法学の散歩道 4月 21日, 2020 長谷部恭男

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第6回 二重効果理論の末裔

 日本の最高裁の得意技の一つに、付随的制約の法理がある。表現の自由を典型とする精神的自由は、内容に基づいて制約される場合には、その正当化の成否は厳格審査に服するというのが、標準的な考え方である。表現内容に着目した制約は、背後に特定の思想を抑圧しようなどといった不当な動機が隠されている蓋然性が高いし、内容中立的な制約に比べて多様な情報の公正な流通を歪めるリスクも高いからである。
 しかし、……

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憲法学の散歩道 3月 31日, 2020 長谷部恭男

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第5回 宗教上の教義に関する紛争と占有の訴え

 2019年11月に刊行された『憲法判例百選〔第7版〕』は、宗教上の教義に関する紛争が問題とされた二つの事件を収録している。184事件と185事件である。
 184事件でとり上げられた最高裁判決(最判昭和56・4・7民集35巻3号443頁)は、具体的権利義務ないし法律関係に関する紛争の形式をとる訴訟であっても、その訴訟を解決するために、宗教上の教義に関する判断をすることが必要不可欠である場合には、その訴訟は法令の適用による終局的な解決が不可能であり、したがって、裁判所法3条にいう法律上の争訟にあたらないとする。つまり、訴えは却下される。……

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憲法学の散歩道 3月 02日, 2020 長谷部恭男

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第4回 ルソー『社会契約論』における伝統的諸要素について

 ジャン・ジャック・ルソーの『社会契約論 Du contrat social』は、さまざまな謎を含んでいる。現代人にとっては縁遠い伝統的な諸観念のために生ずる謎であることが、しばしばある。
 
 たとえば、彼の言うloiはしばしば法律と訳される。しかし、現代国家における法律とは全く違うものである。……

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憲法学の散歩道 2月 03日, 2020 長谷部恭男

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第3回 通信の秘密

 モーシェ・ベン・マイモン(英語名:モーゼス・マイモニデス)は、著名なユダヤ神学者・哲学者である。
 1138年*1、イスラム支配下のスペイン・コルドバに生まれたマイモニデスは、1148年、同地がイスラムの過激な解釈を奉ずるアルモハッド派に奪取されたことを契機に、一族とともにコルドバを離れ、モロッコを経て地中海を船でパレスチナへと渡り、1166年にはファーティマ朝の支配するエジプトに居を移す。1171年にファーティマ朝はアイユーブ朝に取って替わられた。貿易商として一族の生計を支えた弟ダーヴィドがインド洋で水死したのち、マイモニデスは1204年に逝去するまで、アイユーブ朝の宮廷医として一族の生計を支え、そのかたわら、同地のユダヤ人コミュニティの指導者として活動した。……

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憲法学の散歩道 1月 06日, 2020 長谷部恭男

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第2回 戦わない立憲主義

 テクサス大学のゲイリー・ジェイコブソン教授が提示した概念に、戦う立憲主義(militant constitutionalism)と従順な立憲主義(acquiescent constitutionalism)の区別がある。戦う立憲主義は、従前の社会のあり方、政治のあり方を変革し、新たな政治社会を樹立しようとする。従順な立憲主義は、それまでの社会秩序、政治体制をそのまま受け入れ、それを成文化する。ある国の憲法典をとり上げたとき、それが100%戦う憲法であることは稀であろうし、逆に100%従順であることもまず考えられない。とはいえ、おおよその傾向を区別することはできる。
 日本国憲法は、相当程度、戦う憲法である。……

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