library("mlVAR")
library("graphicalVAR")
library("psychonetrics")
library("dplyr")
library("qgraph")
時系列データやパネルデータからのネットワーク推定
2020年3月,新種のコロナウィウルスが急速に拡散したことを受けて,多くの国々がロックダウンの状況に陥った。 ロックダウンの措置はウイルスの拡散速度を抑えるのに役立ち,そのおかげでヘルスケアのキャパシティが保たれた。一方で,社会的な孤立が個々人のメンタルヘルスにネガティブな効果を及ぼすのではないか,ということを危惧する人も多かった。 本章の実践問題では,Fried, Papanikolaou, and Epskamp (2020) が収集したデータを分析してもらう。 このデータセットには,80人のオランダ人学生から経験サンプリング法 (exeperiential sampling method: ESM) で収集した時系列データが含まれている。そのESMでは,メンタルヘルスの問題に関する項目群が毎日4回,2週間にわたって測定された (つまり,合計で56回の測定が行われた)。測定は3月末まで実施されたが,その時期はちょうどオランダでロックダウン期が始まった頃であった。 データや分析,結果についての詳細情報については,著者らが記した論文やブログを参照してほしい。 ここからは,こちらのデータを使用し,個人ごとの時系列ネットワークの演習 (graphicalVARパッケージとpsychonetricsパッケージを活用) と複数名の参加者についての時系列ネットワークの演習 (mlVARパッケージを活用) の両方を実施していこう1
この研究で測定されていた項目群は,以下の通りである。2
項目番号 | 略語 | 記述 |
---|---|---|
1 | id | 参加者ID |
2 | Relax | リラックスするのが困難であった |
3 | Irritable | (とても)イライラした |
4 | Worry | 様々な物事について心配していた |
5 | Nervous | 緊張,不安,苛立ちを感じた |
6 | Future | 先々に楽しみなことが何もないように感じた |
7 | Anhedonia | いかなるポジティブ感情も体験できそうになかった |
8 | Tired | 疲れを感じた |
9 | Alone | 仲間がいないかのように感じたり,他人と親密ではないように感じたりした |
10 | Social_offline | オフラインの有意義な社交に費やした時間は,… であった。 |
11 | Social_online | ソーシャルメディアを使って時間をつぶしていた/やり過ごしていた時間は,… であった。 |
12 | Outdoors | 外出した時間は,… であった。 |
13 | C19_occupied | コロナウイルスのことで占められていた (例:ニュースを見る,コロナについて考える,友達とコロナについて話す) 時間は,… であった。 |
14 | C19_worry | コロナウイルスの関連で,自身自身の健康や,親しい友人や家族の健康について考えた時間は,… であった。 |
15 | Home | 家(親やパートナーの家を含む)にいた時間は,… であった。 |
16 | day | その回答が行われたのは,研究の何日目であったかを示す変数 |
17 | beep | その回答が行われたのは,その日の何回目のビープ(測定機会)においてであったかを示す変数 |
18 | conc | その回答に紐づけられた,ビープの識別番号 |
まず,以下のようにlibrary関数を用いて,必要なパッケージを読み込もう (まだインストールしていないものがあれば,インストールしておくこと)。
以下のように,clean_network.RData
というファイルをOSF からダウンロードし,R に読み込もう。
load("clean_network.RData")
次に,以下のコードを実行してノードのラベルを改良するとともに,論文では活用されなかった項目を除外しよう。
# 検討対象となる変数を指定
<- paste0("Q", 1:18)
vars # ラベル
<- c(
varLabs "Relax", "Irritable", "Worry", "Nervous",
"Future", "Anhedonia",
"Tired", "Hungry", "Alone", "Angry", "Social_offline", "Social_online",
"Music", "Procrastinate", "Outdoors", "C19_occupied",
"C19_worry", "Home"
)
# データ内の列の名称を変更
names(Data2)[names(Data2) %in% vars] <- varLabs
# 不要な項目の除外
<- Data2 %>% select(-Hungry, -Angry, -Music, -Procrastinate)
Data2 <- varLabs[!varLabs %in% c("Hungry", "Angry", "Music", "Procrastinate")] varLabs
これで,あなたのR環境には2つのオブジェクトができたことになる。データを格納したData2
というオブジェクトと,分析対象となる変数名を格納したvarLabs
というオブジェクトである。
\(N = 1\) の時系列分析
\(N=1\)の時系列分析を練習するために,ある単一の参加者のデータだけを読み込もう。以下のコードではID\(68\)の参加者を選択しているが,別の参加者を選んでもよい(分析中にたくさんのエラーが出た場合には,選択した参加者のなかで分散が小さすぎることに起因している可能性がある。)。
<- Data2[which(Data2$id == 68), ] my_data
続いて,あなたの興味に応じて\(3\)個か\(4\)個の変数を選択しよう(参加者一人ひとりについて観測値の数が非常に少ないので,5個以上のノードは分析に含めない方が好ましいだろう)。たとえば,以下のコードを実行してみよう。
<- c("C19_worry", "Future") includevars
C19_worry
とFuture
以外の変数を選んでも構わない。次に,以下のようにgraphicalVAR パッケージを用いて,(正則化を施した場合の)グラフィカルVARモデルを推定しよう。
<- graphicalVAR(
result_graphicalVAR
my_data,vars = includevars,
dayvar = "day",
beepvar = "beep",
gamma = 0.25,
verbose = FALSE # プログレスバーを表示しない
)# 経時的ネットワーク
<- result_graphicalVAR$PDC
temp_graphicalVAR # 同時性ネットワーク
<- result_graphicalVAR$PCC cont_graphicalVAR
あるいは以下のように,psychonetrics パッケージを用いた推定も可能である(この場合は,枝刈りを用いている)。
<- gvar(
mod_psychonetrics
my_data,vars = includevars,
dayvar = "day",
beepvar = "beep",
estimator = "FIML" # 欠損値を上手く推定してくれる
%>%
) runmodel() %>%
prune(
alpha = 0.05
)# 経時的ネットワーク:
<- getmatrix(mod_psychonetrics, "PDC")
temp_psychonetrics # 同時性ネットワーク:
<- getmatrix(mod_psychonetrics, "omega_zeta") cont_psychonetrics
Exercise 1
graphicalVARパッケージとpsychonetricsパッケージの両方を用い,あなたが選択した参加者1名について,任意の変数\(3\)個か\(4\)個を含んだGVARモデルを推定しよう。2つの推定方法それぞれについて,経時的ネットワークと同時性ネットワークをプロットし(なお,円形レイアウトもしくは平均レイアウトを指定し,すべてのネットワークを同一のレイアウトで表示すること),結果を比較しよう。推定された経時的ネットワークと同時性ネットワークについて,短い文章(英文換算で100語以内)で解釈を述べてほしい。
Exercise 2
上記の関数のなかで,引数day
と beep
はどのような働きをしているだろうか。また,「1年間にわたる研究を実施し,平日(週末は除く)に1日1個の観測値を含んだデータセットが得られた」という場面を想像してほしい。この場面において,金曜日の測定値から月曜日の測定値への回帰が生じないようにするためには,どのような引数を用いるとよいだろうか。
その他にも,時点を表す変数を用いれば(今回の場合は,測定時間の代用として変数conc
を用いる),データ内のトレンドをチェックすることができる。たとえば,変数C19_worry
がトレンドを示しているかどうかを検定するには,以下のように時点を独立変数にした線形回帰を実行することができる。
<- lm(C19_worry ~ conc, data = my_data)
lm_c19_worry summary(lm_c19_worry)
Call:
lm(formula = C19_worry ~ conc, data = my_data)
Residuals:
Min 1Q Median 3Q Max
-1.03552 -0.30191 -0.01976 0.16423 1.32564
Coefficients:
Estimate Std. Error t value Pr(>|t|)
(Intercept) 2.103235 0.152314 13.81 < 2e-16 ***
conc -0.022572 0.004542 -4.97 8.58e-06 ***
---
Signif. codes: 0 '***' 0.001 '**' 0.01 '*' 0.05 '.' 0.1 ' ' 1
Residual standard error: 0.5011 on 49 degrees of freedom
(5 個の観測値が欠損のため削除されました)
Multiple R-squared: 0.3351, Adjusted R-squared: 0.3216
F-statistic: 24.7 on 1 and 49 DF, p-value: 8.576e-06
上記のように,トレンドの効果は有意であった。この場合は,以下のようにすれば変数C19_worry
を「デトレンド (detrend)」できる。
$C19_worry[!is.na(my_data$C19_worry)] <- residuals(lm_c19_worry) my_data
Exercise 3
あなたがここまでに選択した変数についてトレンドの有意性を検定し (\(\alpha = 0.05\)),トレンドが有意であった場合にはデトレンドを実施しよう。そのうえで,graphicalVAR パッケージか psychonetrics パッケージを用いてネットワークを再推定しよう。ネットワークの推定結果に,何か変化は生じただろうか。
\(N > 1\) の時系列分析
次に,データセット全体 (Data2
) をmlVARパッケージとともに用いて,マルチレベル・グラフィカルVARを推定しよう。
Exercise 4
mlVAR
関数のヘルプファイルを参照したうえで,\(4\)個から\(6\)個の変数を選択し,データセット全体についてのマルチレベルGVARモデルを推定しよう。
Exercise 5
ヘルプファイル (?plot.mlVAR
) を参照してmlVARパッケージにおけるプロットの方法を確認し,推定された(固定効果の)経時的 (temporal)ネットワーク,同時性 (contemporaneous)ネットワーク,個人間 (between-subjects)ネットワークをプロットしよう。なお,すべてのネットワークを同一のレイアウト(円形レイアウト,もしくは平均レイアウト)でプロットし,有意水準\(\alpha = 0.05\)に満たないエッジを隠す(閾値処理を施す)ようにしよう。また,同時性ネットワークと個人間ネットワークについてはANDルールを適用し,エッジを表示する際のタイプ1エラー率を最小化すること。推定されたネットワークについて,あなたの解釈を短い文章(英文換算で100語以内)で要約しよう。
脚注
なお,もとの研究においては,本書の学習範囲を超えた発展的なデータ処理がいくつか施されているということを留意しておいてほしい。この実践問題で得られる結果は,簡略化したデータ処理に基づくものであるため,Freid et al. (2020) の知見をそのまま再現したものとはならない。↩︎
注意:項目1から15は,すべて1-5の5段階で測定された。項目1から9についての回答の選択肢は,「まったくなかった」「少しあった」「まあまああった」「かなりあった」「極端にあった」の5段階であった。項目10から15についての回答の選択肢は,「0分」「1-15分」「15-60分」「1-2時間」「2時間以上」であった。(訳注:項目10から15については,「項目内容」の欄に記された文面の … の部分に所要時間を代入する形で回答がなされた (例:「オフラインの有意義な社交に費やした時間は,『15-60分』であった」)。)↩︎