めいのレッスン ~ふいてつぶして(2)
サイェが、ペットボトルに下唇をあて、音をだそうとしている。すーすーと息の音ばかりする。 そうなんだよな、なんか、ペットボトルだとうまくいかない。いい音がしないんだ。
サイェが、ペットボトルに下唇をあて、音をだそうとしている。すーすーと息の音ばかりする。 そうなんだよな、なんか、ペットボトルだとうまくいかない。いい音がしないんだ。
あ、 何か、 が、足もとをとおってゆく。 とっさに、ふい、とからだはよけるが、何かが何なのかわかるまでにはちょっと時間がかかった。
――おじさんにみせてらっしゃい、って。 サイェがねこの絵柄のトートバッグから手渡してくれたのは、大判の全体が黒い絵本だった。
実家の庭、となりのうちとの境にたてられている塀に沿い、片づけがゆきとどかないせいもあって、まるでそのあたりに吹きだまっているかのように枯れた盆栽、割れたりそのままだったりする植木鉢、金属製でところどころに錆のでたじょうろが無造作に放りだされている。
ジーンズがだいぶくたびれて、藍色が薄くなってきた。ストーン・ウォッシュとまではいかないが、ところどころ擦り切れている。
デパートでポワソン・ダヴリルをみつけた。 正確にいうなら、高名な洋菓子店がデパートにだしているガラスケースのなかにさりげなくあった。四月まではあと半月という頃だったろうか。
返事はちゃんとするのに、サイェはなかなかやってこない。ごはんだよ、と声をつよくしても、気のない返事がかえってくるばかり。もう30分以上、三つの部屋をルンバのあとについて歩いている。
シンガポールに出張してきた友人と会った。
雷の音がずっとしててね。 いくぶん唐突にサイェは話しだす。 いつものように。
新しい店なのに、前から知っているような。 カトラリーは真新しいのに、壁や天井や柱やカウンターは手の感触がある。 工業製品、ではなく、手作業の、か。