松井裕美

松井裕美

まつい・ひろみ  東京大学大学院総合文化研究科准教授。博士(美術史)。専攻は、フランスを中心とする近現代美術。著書に『キュビスム芸術史:20世紀西洋美術と新しい<現実>』(名古屋大学出版会、2019年)、翻訳にデイヴィッド・コッティントン『現代アート入門』(名古屋大学出版会、2020年)など。

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掌の美術論
第8回 美術史におけるさまざまな触覚論と、ドゥルーズによるその創造的受容(前編)

掌の美術論 9月 12日. 2023

今回と次回の記事では、ドゥルーズの美術論における「触覚」の議論を取りあげたい。ドゥルーズは、前回の記事で触れたリーグルの『末期ローマの美術工芸』(1901年)における触覚論の革新性に注目した人物のうちの一人である。1981年に出版された彼の『フランシス・ベーコン 感覚の論理学』(図1)を読むと、何よりも驚かされたのは、第14章「それぞれの画家が自分なりの方法で絵画史を要約する」以降の、アクロバティックなロジックの展開である。

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掌の美術論
第7回 リーグルの美術論における対象との距離と触覚的平面

掌の美術論 8月 18日. 2023

美術史家による観察において、視覚が重要な感覚となることは言うまでもないが、触覚についてはどうなのだろう、と、ふと疑問に思い、この連載では第5回目の記事から19世紀末に遡って美術史家の著述における触覚についての記述を再読している。すると、「触覚」が意味する感覚の、意外なまでのヴァリエーションに、戸惑いを感じることがある。

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掌の美術論
第6回 時代の眼と美術史家の手
――美術史家における触覚の系譜(後編)

掌の美術論 6月 29日. 2023

前回の記事ではハインリヒ・ヴェルフリンの『美術史の基礎概念』(1915年)を取り上げながら、触覚的な価値に基づくイメージ分析について紹介した。実のところそうした方法論自体は、バーナード・ベレンソンやアロイス・リーグルといった美術史家たちが19世紀末から20世紀初頭にかけて書いたものに見られたものだった。ではこうした傾向は、どのような思想的系譜のうえに位置づけられるだろうか。

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掌の美術論
第5回 時代の眼と美術史家の手
――美術史家における触覚の系譜(前編)

掌の美術論 5月 30日. 2023

2020年春から、コロナ禍で国内外の多くの展覧会が開催を見合わせたり延期したりした。代わりに多く見かけるようになったのが「ヴァーチャル・ミュージアム」と呼ばれる企画だ。インターネットに繋いだパソコンやタブレットさえあれば、家にいながらにして幾つかの海外の企画展の展示室風景を3Dの再現で見ることができた。そうした特設サイトでは、気に入った作品をクリックすればその詳細画像とキャプションを読むことができる工夫もなされていた。自粛期間が続くあいだ、美術館のこうした取り組みは重要な気晴らしの時間を提供してくれた。

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掌の美術論
第4回 機械的な手と建設者の手

掌の美術論 4月 26日. 2023

手が勝手に動いて、思いもよらないような線を描くという体験は、誰にでもあるはずだ。幼い子供はある段階から、線を描きながら、その線に意味を与えていくことができるようになる。丸のようなものを描く。そして子供はそこに、順番に名前を与えてく。「このまるはたまごだよ。たまごじゃないよ。さなぎだよ。さなぎじゃないよ。なまえなの」。

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