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ウェブ連載版『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』

ウェブ連載版『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』第4回

3月 17日, 2016 松尾剛行

 
「鍵かけたから大丈夫でしょ」ってホントですか? SNSの公開範囲限定投稿にも名誉毀損の危険が潜んでいます。[編集部]

SNS上で、「友人限定」で投稿を公開した場合、名誉毀損が成立するのか??

 
 たとえば、たった2人しかいない部屋で、あなたが友達に「(殺人事件の)犯人はお前だ!」と言ったとしましょう(事例1)。この場合、あなたの発言は名誉毀損にはなりません。

これに対し、たくさんの人が周りにいるところで、あなたが友達に「(殺人事件の)犯人はお前だ!」と言えば(事例2)、多くの場合、あなたの発言は名誉毀損になります。

同じ発言をしているのに、なぜ名誉毀損になったりならなかったりするのでしょうか? これは、事例1の場合には、事例2と異なり、「不特定・多数」の人があなたの発言を聞いたとはいえないからです。

名誉毀損というのは、ある特定の人(事例1および事例2では友達)の社会的な評価を低下させることです(注1)。

そうすると、不特定・多数の人があなたの発言を聞いている事例2であれば、友達の社会的評価は低下しますが、事例1では社会的評価は低下しない以上、事例1において名誉毀損が成立しないのは当然ということになるでしょう。

このように、ある表現が不特定・多数の人に知れ渡らないかぎり、名誉毀損にはなりません。これを、名誉毀損の成立のためには、「公然性」が必要であると表現します(注2)。「公然性」がなければ、どのような誹謗的・中傷的な表現をしたとしても名誉毀損が成立することはありません。

では、インターネット上の名誉毀損ではどうでしょうか。

ウェブサイト上で名誉毀損表現を公開した場合には、誰でも自由に閲覧できるのですから、公然性はほぼ間違いなく肯定されます。

問題はメール(注3)やSNSです。

たとえば、Facebookで「友達限定公開」で投稿をした場合や、Twitterで(自分のフォロワーにしか投稿が読めない)鍵アカウントから投稿をした場合、公然性が認められるのでしょうか? 

この問題は、Facebookに書き込むとき「ちょっとセンシティブな投稿だから友達限定にしよう」と公開範囲を考えられた経験のある方や、Twitterの鍵アカウントを使われている方にとって関心が高いのではないかと思われます。

そこで、このような問題を取り上げて議論した東京地方裁判所の判決(注4)を題材に検討してみましょう。

 
*以下の「相談事例」は、本判決の内容をわかりやすく説明するために、本判決を参考に筆者が創作したものであり、省略等、実際の事案とは異なる部分があります。本判決の事案の詳細は、判決文を参照してください(注5)。

 

相談事例:「友達限定公開」での誹謗中傷

 依頼者AがM弁護士のところに相談に訪れた。

甲1が、B1を強姦したのではないかという疑いが生じ、B1が甲1を告訴する等したため、甲1の友人らと、B1の友人らの間で紛争が起こり、相互にインターネット上で中傷の応酬を行っていた。

Aは、甲らと友人関係にあったことから、甲らと一緒になってBらを批判することとし、ミクシィ(注6)上にBらが強姦事件をでっちあげた等としてBらを中傷する投稿を行い(注7)、甲らがこれに対して共感を表明するコメントを投稿した。

Bらは、このような投稿がされたことを知り、Aに対して法的措置を講じると主張した。

M弁護士はAに対し、どのようなアドバイスをすべきか。

 

1.法律上の問題点

甲1がB1を本当に強姦したのであれば、甲1は強く非難されるべきです。

しかし、甲1が何も悪いことをしていないのに、Bらが「B1が甲1によって強姦された」という虚偽の主張をするという、いわゆるでっち上げを行ったのであれば、Bらこそが強く非難されるべきでしょう。

今回は、Bらが甲1に対し、「甲1がB1を強姦した」と触れ回り、甲らは、「Bらが強姦事件をでっちあげた」と触れ回るという形で、相互に相手方を批判しています。

法的には複雑な問題がありますが。概ね、本当は甲1が強姦をしていないのだとすれば主にBらの行為の名誉毀損該当性が問題となり、逆に本当は甲1が強姦をしたのであれば主にAおよび甲らの行為の名誉毀損該当性が問題となります。

ここで問題となったのは、Aの投稿がミクシィというSNSにおいて行われたということです。そして、今回、Aは、投稿を閲覧可能な人の範囲をマイミクに限定していました。

A側は「自分が友人として承認した者(マイミク)以外は自分の投稿を見ることができないのだから、公然性が欠ける」と主張しました。

これに対し、Bらは、マイミク限定であっても公然性は認められると主張しました。たとえば、訴訟が始まってから(注8)Bらが調査をしたところ、Aの現時点におけるマイミクの数は98人もいることが発覚しました。そこで、B側は、概ね、Aの行為は、98人もの多数の人が見ているところで、Bらを中傷した行為と同じであって、これだけ多くの人に閲覧され得るのであれば、公然性が認められるというような主張をしました。

2.裁判所の判断

裁判所は、結論として、Aの主張を認め、本件では公然性が認められないので、名誉毀損の不法行為が成立しないとしました。

裁判所は、まず、ある投稿を「マイミク限定」とすることの意味について検討しました。投稿をマイミクに限定することにより、マイミクの範囲を超えて他の人の目に触れることは原則としてないと推認されるところ、今回の場合にも、これを覆すような事情は認められないとしました。そして、その結果、公然性が認められないため、名誉毀損は成立しないとしました。

もっとも、Aのマイミクの人数は多く、そのようなAの投稿であれば、マイミク外の人の目に触れないとしても、公然性があるとはいえないでしょうか。

たしかに、裁判所は、一般論として、マイミクの人数が多数であれば、公然性が認められる可能性を否定しませんでした。しかし、Bらの提出した、Aのマイミクの人数に関する証拠が不適切であったことを理由に、Bらの主張を認めなかったのです。

先ほど述べたとおり、Bらは、訴訟提起後になってはじめてAのマイミクの人数を調査し、証拠を提出しました。

その結果、Bらは、投稿時から約2年以上が経過した時点で、マイミクが98人であるという証拠を入手したものの、投稿時点においてAのマイミクが何人であるかについての証拠は入手することができませんでした。そこで、裁判所は、投稿時点においてAのマイミクの人数がすでに公然性の要件を満たすもの程度に達していたとは認定できないとしたのです。

つまり、SNSにおいて限定された範囲で投稿を公開する場合には、その投稿を読むことができる人の人数(たとえばマイミクの人数)が何人かが問題となります。投稿の時点ですでに十分な人数が投稿を読むことができたのであれば、公然性があり、名誉毀損が成立する可能性もあります。もっとも、本件のBらは、投稿の時点におけるマイミクの人数に関する証拠を提出することができず、投稿の公然性が認められませんでした。
 
→【次ページ】公開範囲の限定で公然性は……?

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松尾剛行

About The Author

まつお・たかゆき 弁護士(第一東京弁護士会、60期)、ニューヨーク州弁護士、情報セキュリティスペシャリスト。平成18年、東京大学法学部卒業。平成19年、司法研修所修了、桃尾・松尾・難波法律事務所入所(今に至る)。平成25年、ハーバードロースクール卒業(LL.M.)。主な著書に、『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』(平成28年)、『金融機関における個人情報保護の実務』(共編著)(平成28年)、『クラウド情報管理の法律実務』(平成28年)、企業情報管理実務研究会編『Q&A企業の情報管理の実務』(共著)(平成20年)ほか。