ウェブ連載版『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』第22回

About the Author: 松尾剛行

まつお・たかゆき 弁護士(第一東京弁護士会、60期)、ニューヨーク州弁護士、情報セキュリティスペシャリスト。平成18年、東京大学法学部卒業。平成19年、司法研修所修了、桃尾・松尾・難波法律事務所入所(今に至る)。平成25年、ハーバードロースクール卒業(LL.M.)。主な著書に、『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』(平成28年)、『金融機関における個人情報保護の実務』(共編著)(平成28年)、『クラウド情報管理の法律実務』(平成28年)、企業情報管理実務研究会編『Q&A企業の情報管理の実務』(共著)(平成20年)ほか。
Published On: 2016/7/28By

 

2.裁判所の判断

相談事例1と相談事例2では、一見矛盾するとも思われるような判断が下されています。

相談事例1では、「いいね!」を押したAの責任が否定されました。つまり、「いいね!」は賛同の意思を表するにすぎず、それに対して責任を負うものではないとしたのです(注3)。

これに対し、相談事例2では、リツイートをしたAの責任が肯定されました。「リツイートも、ツイートをそのまま自身のツイッターに掲載する点で、自身の発言と同様に扱われる」として、裁判所は、Aの発言と同視したのです(注4)。
 

3.判決の教訓

これらの判決は一見矛盾するように思われます。しかも、これらの判決文にはその判断に至る理由が明確には、書かれていません。

1つの整理としては、転載者(A)の責任については2つの異なる価値観があり、裁判所はこれらの価値観の間で揺れ動いているというものです(注5)。

もっとも、最近(平成27年の11月)、いわゆる非公式リツイートについて東京地方裁判所で新たな判決が下されており、これをあわせて考察すると異なる整理ができるかもしれません(注6)。

この事案では、非公式リツイートについての責任が問題となりました(注7)。裁判所は、「リツイートは、既存の文章を引用形式により発信する主体的な表現行為としての性質を有するといえるから、本件ツイート等の名誉毀損性の有無を判断するに際しては、リツイートに係る部分をも判断対象に含めるのが相当」との判断をしています。

この判決文のうち、特に重要と思われるのは「引用形式により発信する主体的な表現行為」であるか、つまり、元投稿を自らの発信内容にしていると言えるかではないでしょうか。

たとえば、シェアやリツイートをすれば、B自身のウォール(Facebook)やプロフィールページ(ツイッター)上にも(甲の)元投稿が表示されることから、Bが元投稿を自らの発信内容にしているといいやすいでしょう。

これに対し、「いいね!」は、その趣旨として、むしろ元投稿に対する賛成・共感を表明しただけのことが多いようにも思われ、Bとして、それを積極的に拡散したいという意思までは認められない場合も多いのではないでしょうか(注8)。

たしかに、リツイートも、その文脈によっては、元投稿を自らの発信内容にしている趣旨ではないと判断されることもあるかもしれません(注9)。また、同様に「いいね」についても、元投稿を自らの発信内容にしている趣旨であるといえる場合もあるかもしれません。

しかし、現在の3つの関連する裁判例を整合的に説明するという方向性からは、
 

・「いいね!」をしただけでは原則としてそれを積極的に拡散したいという意思までは認められず、元投稿を自らの発信内容とする趣旨とまでは認められないので、単に「いいね!」だけでは元投稿者と同様に名誉毀損の責任を負うとはいえない(ただし特段の事情がある場合には異なる判断になりうる)
・(シェアや)リツイートをすれば、原則として元投稿を自らの発信内容とする趣旨が認められることから、原則として元投稿者と同様に名誉毀損の責任を負う(ただし特段の事情がある場合には異なる判断になりうる)

 
という整理をすることができるようにも思われます。

このような整理をすることについては異論があるかもしれませんが、実務的な教訓としては(注10)、シェアやリツイート行為については自らもその内容について責任を問われるおそれを踏まえ、特に慎重であるべきということになるでしょう。


 
(注1)東京地判平成26年3月20日ウェストロー2014WLJPCA03208009
(注2)東京地判平成26年12月24日2014WLJPCA12248028
(注2)本判決ではSNSの名称が記載されていないものの、mixiではないかと推測される。
(注3)「△△上のイイネ機能は,△△上のつぶやきなどの発言に対して、賛同の意を示すものにとどまり、上記発言と同視することはできないから、仮に上記つぶやきなどが名誉を毀損するなどの内容であったとしても、このつぶやきに対して「イイネ!」のタグをクリックしたということをもって、いまだそのつぶやきなどの内容について不法行為責任を負うことはないというべきである。また、原告に同発言の削除を求めるべき法的義務も認められない。」
(注4)「これに対し、原告X2は、リツイートは、原告X2自身が発信したものでない旨主張し、それを前提に、被告Y7及び被告Y6の反訴請求が不法な請求又は二重提訴であると主張する。しかし、リツイートも、ツイートをそのまま自身のツイッターに掲載する点で、自身の発言と同様に扱われるものであり、原告X2の発言行為とみるべきであるから,リツイートについて名誉毀損等が成立するとして損害賠償請求をすることが直ちに不法な請求として違法になるものではなく、また、リツイートは元となるツイートと同内容ではあるものの、別の発言行為であるから元のツイートについて不法行為が成立するとして賠償請求がされていても、リツイートした人物に対し同様に不法行為が成立するとして賠償請求をすることが二重提訴となるものでもないから、原告X2の上記主張には理由がない。」
(注5)連載第11回参照
(注6)東京地判平成27年11月25日第一法規29015193
(注7)この事案は、AがもともとBについて「一方的に悪質な嫌がらせをなさっているのはBさんなのですが」とツイートしたところ、甲がこれを引用した上で「そこのところを具体的に」とコメントを加えて投稿し、Bはさらにこれを引用した上で「私のことも言ってないことを言ったとした偽メールを送られています」とのコメントを加えて投稿したもの。
(注8)たとえば「●●さんが『いいね!』しました」といった形で拡散されることはあることから、「いいね!」に拡散効果があることは否定できないものの、むしろその「主たる」趣旨が問題であろう。
(注9)たとえばリツイートの直後に、当該リツイートされた元ツイートの内容に対して否定的なコメントをしており、文脈上、当該リツイートを自らの発信内容にしていると言えない場合もあるかもしれない。
(注10)だからといって、「いいね!」は気軽に押してもいいということではなく、やはり一定程度の注意は必要であろう。
 


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時に激しく対立する「名誉毀損」と「表現の自由」。どこまでがセーフでどこからがアウトなのか、2008年以降の膨大な裁判例を収集・分類・分析したうえで、実務での判断基準、メディア媒体毎の特徴、法律上の要件、紛争類型毎の相違等を、想定事例に落とし込んで、わかりやすく解説する。
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まつお・たかゆき 弁護士(第一東京弁護士会、60期)、ニューヨーク州弁護士、情報セキュリティスペシャリスト。平成18年、東京大学法学部卒業。平成19年、司法研修所修了、桃尾・松尾・難波法律事務所入所(今に至る)。平成25年、ハーバードロースクール卒業(LL.M.)。主な著書に、『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』(平成28年)、『金融機関における個人情報保護の実務』(共編著)(平成28年)、『クラウド情報管理の法律実務』(平成28年)、企業情報管理実務研究会編『Q&A企業の情報管理の実務』(共著)(平成20年)ほか。
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