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《法律実務書MAP》
ブックガイドPartⅣ固有の法務分野

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大島義則プロデュース《法律実務書MAP》のブックガイドを8回に分けて公開していきます。今回は4回目、固有の法務分野です。ブックガイドはフェア開催店の店頭で無料配布しています。ぜひこの機会にご来店ください。[編集部]
2016年9月12日(月)~10月16日(日) 八重洲ブックセンター本店で開催中!
2016年10月1日(土)~10月31日(月) ジュンク堂書店福岡店で開催中!

紀伊國屋書店梅田本店でのフェアは終了しました

 

Part Ⅳ 固有の法務分野
written by 大島義則

 
1 不動産

多くの弁護士が不動産紛争を取り扱っている。不動産紛争には、不動産売買をめぐる訴訟、借地・借家関係の訴訟・借地非訟事件、不動産登記関係、近隣住民同士の紛争から生じる相隣関係など、多様な事件類型が存在する。借地借家法の体系的な解説書は存外に少ないが、稲本洋之助=澤野順彦『コンメンタール借地借家法[第3版]』【34】は、定評のあるコンメタールとして、リサーチする際に役立つ。
51hjifd9el41i9z5audhl-_sx298_bo1204203200_また特に建物賃貸借については、裁判例に基づく込み入った論点の調査が必要となることが多いが、そうした場合には裁判例を丹念に調査した渡辺晋『建物賃貸借 建物賃貸借に関する法律と判例』【35】を見ると良い。多様な借地借家事件を処理するマニュアル本は何か一冊欲しいところであるが、清水俊順=高村至編『借地借家事件処理マニュアル』【36】は、借地借家事件の相談・受任、事案の確認・検討、解決のための手続、民事保全・執行までフローチャートや書式付きで解説されており、事件処理の典型パターンを知ることができる。

不動産関係の紛争の中でも私道や土地境界をめぐる法律紛争は、意外と多い。典型的な問題に答えてくれるものとして、野辺博編著『私道・境界・近隣紛争の法律相談』【37】は参考になる。

06746z特に都市部でトラブルが多いのが、マンション管理をめぐる問題である。稲本洋之助=鎌野邦樹『コンメンタールマンション区分所有法[第3版]』【38】及び稲本洋之助=鎌野邦樹編著『コンメンタール マンション標準管理規約』【39】は、マンション関係の定評あるコンメンタールとして、代表的な論点とそれについての判断指針を知ることができる。

なお、不動産紛争に伴い建築基準法の解釈・運用も問題になることが多いところ、条文解釈については逐条解説建築基準法編集委員会編著『逐条解説 建築基準法』(ぎょうせい、2012年)、判例・裁判例についてはやや古いが法務省訟務局行政訟務第一課職員『判例概説建築基準法』(同、1994年)を参照すると良いが、ここでは紹介するにとどめておく。
 
2 交通事故

民事事件の中でも比較的多い事件類型が、交通事故である。交通事故紛争の基本処理パターンを学べるものとして、01601佐久間邦夫=八木一洋編『交通損害関係訴訟』【40】が有用である。

交通事故訴訟における損害賠償額を算定するための必携書として日弁連交通事故センター東京支部『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準 上巻(基準編)・下巻(講演録編)』(いわゆる「赤い本」)、日弁連交通事故相談センター本部『交通事故損害額算定基準−実務運用と解説−』(いわゆる「青本」)がある。赤い本は毎年2月に改訂版、青本は隔年で改訂版が発行されるので、改訂のたびに最新版を購入する必要がある。

また、交通事故訴訟における過失相殺率を計算するための必携書として、『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準[全訂5版]』(別冊判例タイムズ38号、2014年)を持っておく必要がある。
 
3 消費者

消費者保護を目的とする消費者行政法規は、消費者安全法、特定商取引法、景品表示法、個人情報保護法等と多様であるが、私が企画し編集に加わった大島義則ほか編著『消費者行政法:安全・取引・表示・個人情報保護分野における執行の実務』【41】が手前味噌となるが、必携であろう。

2385404-7857-2387-3消費者問題の事件処理の必要な知識と典型的なトラブル事例の解決の手引書として、東京弁護士会消費者問題特別委員会編『消費者相談マニュアル〔第3版〕』【42】がある。広範な消費者関係法規の解説に目配りが利いているだけではなく、アポイントメントセールス、キャッチセールス、展示会商法等の悪質商法の種類に即した解説が便利である。

消費者紛争を民事的に解決する場合、消費者契約法に基づき消費者契約の取消しや無効を主張して戦っていくことが多いが、消費者庁消費者制度課編『逐条解説 消費者契約法〔第2版補訂版〕』【43】は消費者契約法の所管省庁の解釈を確認することができ、実務の指針になる。

4-7857-2164-04-7857-2283-8訪問販売、通信販売、電話勧誘販売等の取引を規律する特定商取引法に関する相談があった場合には消費者庁取引対策課=経済産業省商務流通保安グループ消費経済企画室編『平成24年版 特定商取引に関する法律の解説』【44】、不当表示や不当景品から一般消費者の利益を保護するための法律である景品表示法に関する相談があった場合には真渕博編著『景品表示法[第4版]』【45】を参照する必要がある。消費者庁ほか編『逐条解説 消費者安全法〔第2版〕』(商事法務、2013年)も重要であるが、消費者安全法に関しては日常業務の中ではあまり触れない方も多いかもしれない。

また、製造物の欠陥により消費者に損害が生じた場合、製造業者等に対して製造物責任を追及することになるが、製造物責任法施行後20年間の判例・学説の展開を踏まえて書かれた土庫澄子『逐条講義 製造物責任法』【46】が条文解釈を考える上で役に立つ。
 
4 労務

労働紛争では、使用者(企業)側を代理する場合と労働者側を代理する場合の双方のパターンがある。民間企業の法務担当者も、労働法の知識を知っておかねば、思わぬ紛争に巻き込まれることがあろう。217406978-4-502-07210-9_240労働法の基本書としては菅野和夫『労働法』【47】が「聖典」となっているが、法律実務書として定評があるのは安西愈『トップ・ミドルのための採用から退職までの法律知識』【48】である。また、労働基準法のコンメンタールとしては厚生労働省労働基準局『平成22年版 労働基準法 上・下巻(労働法コンメンタールNo.3)』【49】がある。

残業代請求に特化したマニュアルとしては、たとえば旬報法律事務所編『未払い残業代請求 法律実務マニュアル』【50】がある。
 
5 税務

税務としては、合法的な節税計画を立てるタックスプランニング、税務署による税務調査に対する法務対応、不服申立・訴訟対応等があり、これらの税務に専門性を有するブティック系の法律事務所もある。978-4-502-11171-6_240221909ただ、一般民事の弁護士業務をやっていても、依頼者から「こういう場合には課税されるのですか?」と聞かれることや、契約書等の書き方1つで税金の額が変わってくるシチュエーションもある。込み入った知識については税理士とうまく連携して税務相談に回答していくことになるが、やはり弁護士として税務面に配慮した対応ができるようにしておくべきであろう。

租税法の定評ある基本書として金子宏『租税法〔第21版〕』【51】があり必携であるが、契約書作成において税務面で配慮すべきことをまとめた森・濱田松本法律事務所税務プラクティスグループ編『取引スキーム別 契約書作成に役立つ 税務知識Q&A』【52】も持っておくと良い。
 
6 知的財産法務

知的財産の問題は、企業法務で重要な問題となるだけではなく、一般民事でも、誰もが文字での表現活動を行うインターネット時代においては、重要性が増している。訴訟にならないまでも、日常的に常に「これはセーフだろうか、アウトだろうか」ということが気になる法分野である。知的財産法は多種多様な法律が含まれるが、実務上は、著作権法、商標法、不正競争防止法、特許法との関係がよく問題となる。

知的財産法の中でも特に著作権法は、日常的な法律相談や会社の顧問業務の中でよく問題になるので、詳細な逐条解説書を常備しておく必要があろう。著作権法の立案担当者の逐条解説である加戸守行『著作権法逐条講義 六訂新版』(著作権情報センター、2013)も重要文献であるが、より多角的かつ広範な範囲をカバーする半田正夫=松田政行編『著作権法コンメンタール1〜3 第2版』【53】は必携である。
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商標法については小野昌延=三山峻司『新・商標法概説』【54】、不正競争防止法については小野昌延=松村信夫『新・不正競争防止法概説〔第2版〕』【55】、特許法については、中山信弘『特許法[第3版]』【56】を持っておけば、簡単な法律相談であれば十分対応できるであろう。ただ、この分野は各種逐条解説書が充実しているため、必要に応じて、金井重彦=鈴木將文=松嶋隆弘『商標法コンメンタール』(レクシスネクシス・ジャパン、2015)、経済産業省知的財産政策室編著『逐条解説 不正競争防止法 平成23・24年改正版』(有斐閣、2012)、小野昌延編『新・注解 不正競争防止法〈上・下巻〉』(青林書院、2012)等を利用したリサーチを行うことも多い。

4-7857-1983-8217875知的財産の問題は、権利化や権利侵害の場面だけではなく、契約による知的財産活用の側面もまた重要である。映画、音楽、マネージメント、ゲーム、出版等の業界慣習を踏まえた内藤篤『エンタテインメント契約法〔第3版〕』【57】は、エンタメ業界の法務、特に契約法務に携わる前に読んでおくと参考になる。

なお、単なる法律相談、交渉を超えて知的財産訴訟対応を行うのであれば、知財高裁の著名裁判官の著した高部眞規子『実務詳説 著作権訴訟』(きんざい、2012年)、『実務詳説 商標関係訴訟』(同、2015年)、『実務詳説 特許関係訴訟【第3版】』(同、2016年)を持っておくとよい。さらに余裕があれば、牧野利秋ほか編『知的財産訴訟実務大系 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ』(青林書院、2014年)も持っておきたい。
 
7 独占禁止法

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 実務では、独占禁止法や下請法等が問題となる場合も少なくない。これらの法律の特徴は「両当事者が合意しているのだからいい」訳ではなく、特別の公法的規制をかけているところにあるだろう。

独占禁止法の定評のある実務書として菅久修一編著『独占禁止法[第2版]』【58】をお勧めしたい。
 
8 インターネット・個人情報・マイナンバー

パソコンやスマートフォンの普及した現代日本社会において、インターネットの法務は、法律家であれば誰もが取り扱う領域となりつつある。リアルスペースの法律問題の応用として考えれば足りる法律問題が多いが、インターネット法関連の優れた法律実務書をいくつか紹介しておこう。松尾剛行『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』【59】は4-7857-2338-5internetmeiyokison_shoeiインターネット上における名誉毀損について膨大な裁判例の紹介・分析がなされており、リサーチする手間をかなり省くことができる書籍である。

情報法関係の法律実務で相談が多いのが、個人情報やマイナンバー関係である。個人情報保護法の概説書として日置巴美=板倉陽一郎『平成27年改正個人情報保護法のしくみ』【60】、マイナンバー法の概説書として水町雅子『やさしいマイナンバー法入門』【61】が有用である。
 
 
紹介書籍一覧
【34】稻本洋之助=澤野順彦編『コンメンタール借地借家法(第3版)』(日本評論社、2010)
【35】渡辺晋『建物賃貸借に関する法律と判例』(大成出版社、2014)
【36】清水俊順=高村至編『借地借家事件処理マニュアル』(新日本法規出版、2016)
【37】野辺博編著『私道・境界・近隣紛争の法律相談』(学陽書房、2016)
【38】稻本洋之助=鎌野邦樹『コンメンタール マンション区分所有法(第3版)』(日本評論社、2015)
【39】稻本洋之助=鎌野邦樹編著『コンメンタール マンション標準管理規約』(日本評論社、2012)
【40】佐久間邦夫=八木一洋編『交通損害関係訴訟(補訂版)』(青林書院、2013)
【41】大島義則=森大樹=杉田育子=関口岳史=辻畑泰喬編著『消費者行政法』(勁草書房、2016)
【42】東京弁護士会消費者問題特別委員会編『消費者相談マニュアル(第3版)』(商事法務、2016)
【43】消費者庁消費者制度課編『逐条解説 消費者契約法(第2版補訂版)』(商事法務、2015)
【44】消費者庁取引対策課=経済産業省商務流通保安グループ消費経済企画室編『平成24年版 特定商取引に関する法律の解説』(商事法務、2014)
【45】真渕博編著『景品表示法(第4版)』(商事法務、2015)
【46】土庫澄子『逐条講義 製造物責任法』(勁草書房、2014)
【47】菅野和夫『労働法(第11版)』(弘文堂、2016)
【48】安西愈『トップ・ミドルのための採用から退職までの法律知識(十四訂)』(中央経済社、2013)
【49】厚生労働省労働基準局編『平成22年版 労働基準法(上)(下)』(労務行政、2011)
【50】旬報法律事務所編『未払い残業代請求法律実務マニュアル』(学陽書房、2014)
【51】金子宏『租税法(第21版)』(弘文堂、2016)
【52】森・濱田松本法律事務所税務プラクティスグループ編『取引スキーム別契約書作成に役立つ税務知識Q&A』(中央経済社、2014)
【53】半田正夫=松田政行編『著作権法コンメンタール1~3(第2版)』(勁草書房、2015)
【54】小野昌延=三山峻司『新・商標法概説(第2版)』(青林書院、2013)
【55】小野昌延=松村信夫『新・不正競争防止法概説(第2版)』(青林書院、2015)
【56】中山信弘『特許法 (第3版)』(弘文堂、2016)
【57】内藤篤『エンタテインメント契約法(第3版)』(商事法務、2012)
【58】菅久修一編著/品川武=伊永大輔=原田郁著『独占禁止法(第2版)』(商事法務、2015)
【59】松尾剛行『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』(勁草書房、2016)
【60】日置巴美=板倉陽一郎『平成27年改正個人情報保護法のしくみ』(商事法務、2015)
【61】水町雅子『やさしいマイナンバー法入門』(商事法務、2016)
■紹介書籍について
*大島義則プロデュース・ブックフェア《法律実務書MAP》で無料配布したブックガイドに掲載の書籍を各パートごとにご紹介しております。
*紹介書籍には品切の書籍が含まれている場合があります。ご了承ください。
*「法律実務書」を紹介するフェアですので、基本書や学術論文集は原則として取り上げておりません。またデスクに置いておく法律実務書を想定しており、逐条解説書やコンメンタールの類も必要に応じて取り上げるにとどめております。

【勁草法律実務シリーズ】
shohishagyoseiho_shoei大島義則ほか編著『消費者行政法』
安全法、取引法、表示法、個人情報保護法の分野において、行政庁はどのような法執行を行っているのか。また、その法執行を受ける企業はどのような対応をすべきであるのか。現役消費者庁職員および元職員の弁護士が解説する画期的法律実務書。企業法務担当者、法律実務家、行政職員等必携。2016年8月刊。
internetmeiyokison_shoei松尾剛行著『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』
時に激しく対立する「名誉毀損」と「表現の自由」。どこまでがセーフでどこからがアウトなのか、2008年以降の膨大な裁判例を収集・分類・分析したうえで、実務での判断基準、メディア媒体毎の特徴、法律上の要件、紛争類型毎の相違等を、想定事例に落とし込んで、わかりやすく解説する。2016年2月刊。
keiyakunohomu喜多村勝德著『契約の法務』
契約法の基礎、契約書文例の詳細な検討はもちろん、裁判例の考え方を丁寧に紹介しつつ、契約法における民事訴訟法上の論点を解説する。さらには、ユニドロワ原則、債権法改正、契約交渉のポイントも加え、契約法務の全体像を立体的に示す。法曹以外の読者も想定し、法的概念の基本から丁寧に説き起こし、あらゆる場面に応用可能な「契約力」の土台をつくる。2015年8月刊。
kazokuhokommentar大塚正之著『臨床実務家のための家族法コンメンタール(民法親族編)』
条文を本当に理解するとは、どのようなことをいうのか。実務の現場で条文を使いこなせるようになることを目的として、実際にどのように条文が活用されているのかを明らかにしつつ、丁寧に逐条解説を施す。弁護士、司法書士等の法律実務家、調停委員、ADRにかかわる方必携。2016年1月刊。
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太陽光、風力、中小水力、地熱、バイオマス等、多様な再生可能エネルギーについて、関連法令等の制度面を中心に、導入・運用(住民に対する説明からファイナンスまで)のポイントまでを解説。企業、地方自治体、市民、金融機関、事業者を法的にサポートする法律家等関係者必読の実務書。2016年改正再生可能エネルギー特別措置法対応。2016年9月刊。
genshiryokusonbai第一東京弁護士会災害対策本部編『実務 原子力損害賠償』
東日本大震災、それにともなう福島第一原子力発電所事故から約5年、この間が積み上げた「原子力損害賠償紛争解決センター」への申立てによる賠償問題解決のノウハウを示す。避難指示による避難・自主避難による損害、営業損害、風評被害、避難関連死等、気になるポイントをわかりやすいQ&A形式で解説。2016年2月刊。

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