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ウェブ連載版『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』 連載・読み物

ウェブ連載版『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』第28回

10月 27日, 2016 松尾剛行

 
インターネットは国境を超えますが、国際的名誉毀損は複雑な論点が多いですね。[編集部]
 
 

国際的名誉毀損

 

1.はじめに

最近は『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』を公刊したこともあってか、名誉毀損の案件を受任させていただくことが多くなりました。その中でも国際名誉毀損の案件は少なくありません。このような国際名誉毀損に関する重要判決(注1)については、昨年評釈を寄稿しましたが(注2)、本年同判決に関する最高裁の判断も出たところであり、これを織り込みながら、国際名誉毀損について簡単に説明したいと思います。

 

相談事例1:アメリカでの投稿が日本人の名誉を毀損したか

Aはアメリカに住んでいるアメリカ人である。

AはSNSで日本に住んでいる日本人であるBと知り合いになり、当初は世界経済や株価、投資の技法等についての共通の話題について親しく交流をしていた。ところが、双方の関係が悪化し、Aは、SNS上で設定を公開とした上で、

「Bはインターネットで投資名目でお金を集めているが、これは詐欺であって、集めたお金は投資されず、Bの家や車のために使われている。」
と投稿した。

Bは、Aを訴えたい。

 
 

相談事例2:日本での投稿がアメリカ人の名誉を毀損したか

Aは日本に住んでいる日本人である。

AはSNSでアメリカに住んでいるアメリカ人であるBと知り合いになり、当初は世界経済や株価、投資の技法等についての共通の話題について親しく交流をしていた。ところが、双方の関係が悪化し、Aは、SNS上で設定を公開とした上で、
「Bはインターネットで投資名目でお金を集めているが、これは詐欺であって、集めたお金は投資されず、Bの家や車のために使われている。」
と投稿した。

Bは、Aを訴えたい。

 

2.国際的名誉毀損の基本的な考え方

インターネットは国境を超えるので、名誉毀損が国際的な問題となることも多いのですが、国際的な名誉毀損事件の場合には、国内の場合と異なり、どこの裁判所で、どこの法律を適用して審理するのかという、別個の問題も解決しなければなりません。

まず、相談事例1では、Bは日本の裁判所に訴えることを考えるでしょう。この場合に、日本の裁判所は訴えを受け付けてくれるのか、それともこれを断るのか、これが管轄の問題です。

次に、仮に日本の裁判所が判断をしてくれるとしても、日本法に基づいて判断するのか、それとも、例えばアメリカ法(注3)に基づいて判断するのか、これが準拠法の問題です。

各国(正確には「各法域」)の裁判所は、その国の準拠法に関する規定(日本なら法の適用に関する通則法)を適用して準拠法を決めます。そこで、まずはどの国の裁判所に管轄があるかを考えた上で、当該国の準拠法に関する規定を適用するという順番で考えることになります。

以下で具体的に上記2つの事例を基に考えてみましょう。

【次ページ】どこの裁判所で、どの法律で?

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松尾剛行

About The Author

まつお・たかゆき 弁護士(第一東京弁護士会、60期)、ニューヨーク州弁護士、情報セキュリティスペシャリスト。平成18年、東京大学法学部卒業。平成19年、司法研修所修了、桃尾・松尾・難波法律事務所入所(今に至る)。平成25年、ハーバードロースクール卒業(LL.M.)。主な著書に、『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』(平成28年)、『金融機関における個人情報保護の実務』(共編著)(平成28年)、『クラウド情報管理の法律実務』(平成28年)、企業情報管理実務研究会編『Q&A企業の情報管理の実務』(共著)(平成20年)ほか。