ウェブ連載版『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』第34回

About the Author: 松尾剛行

まつお・たかゆき 弁護士(第一東京弁護士会、60期)、ニューヨーク州弁護士、情報セキュリティスペシャリスト。平成18年、東京大学法学部卒業。平成19年、司法研修所修了、桃尾・松尾・難波法律事務所入所(今に至る)。平成25年、ハーバードロースクール卒業(LL.M.)。主な著書に、『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』(平成28年)、『金融機関における個人情報保護の実務』(共編著)(平成28年)、『クラウド情報管理の法律実務』(平成28年)、企業情報管理実務研究会編『Q&A企業の情報管理の実務』(共著)(平成20年)ほか。
Published On: 2017/1/26By

 
(注1)東京高判平成24年4月18日判例秘書L06720189
(注2)東京地判平成26年11月7日ウェストロー2014WLJPCA11078011、東京地判平成26年3月28日ウェストロー2014WLJPCA03288023、東京地判平成25年12月20日ウェストロー2013WLJPCA12208022
(注3)東京地判平成22年6月30日ウェストロー2010WLJPCA06308009、東京地判平成23年1月11日ウェストロー2011WLJPCA01118005
(注4)東京高決平成27年4月28日D1-Law28234615・原審東京地決平成27年3月10日D1-Law28234612
(注5)実際の事案は発信者情報開示であることに留意されたい。
(注6)「本件投稿は、「おっと、URLが削れてた。あげ直し。」との記載とともに、中間ウェブページのURLを記載してリンクを張るものであり、その外形的、客観的な記載内容それ自体が債権者の名誉を毀損するものではない。この点、債権者は、本件投稿を実質的に見ると、中間ウェブページ及び本件ウェブページの記載内容を取り込んでいるといい得るから、本件投稿の流通によって債権者の権利が侵害されたと主張する。しかしながら、本件投稿は、中間ウェブページ及び本件ウェブページとは別個の投稿である以上、特段の事情のない限り、中間ウェブページ及び本件ウェブページを取り込んでいると認めることはできない。そして、〈1〉本件投稿は、本件ウェブページとの間に中間ウェブページを介在させており、直接本件ウェブページにリンクを張ったものではないこと、〈2〉中間ウェブページの記載は、F(神の意思)なるものについての言及であって債権者に関する投稿を紹介する内容ではないこと、〈3〉本件ウェブページの内容は、紙のデータで191頁にも及ぶものの、その中で債権者に関する記述は冒頭の記事の中のわずか3行にすぎないことからすると、中間ウェブページが、本件ウェブページのうち債権者に関わる記事をことさらに取り上げる趣旨とはいい難いことを併せ考えると、本件投稿が中間ウェブページを介して本件ウェブページの記載内容を取り込んでいるといえる特段の事情があると認めることはできない。」
(注7)なお、上記の(3)の部分を「本件PDFファイルは、プリントアウトすると191頁にも及ぶ長大なものであるが、その中で、暴行行為等を指摘して抗告人の名誉を毀損した記述は冒頭の記事の中のわずか3行にすぎないこと、〈4〉本件PDFファイルには、上記冒頭部分以外に、抗告人の通称名である「X’」が148か所に現れているが、それらの記載の中で、抗告人の名誉を毀損していると認められるものはなく、全体の大部分を占めるそれ以外の記載は、「X’」と関連しないものである」と改めていることには注意が必要です。
(注8)東京地判平成27年1月29日2015WLJPCA01298028
(注9)「原告は、本件各投稿の閲覧者は同投稿に貼り付けられたリンクをクリックすることにより容易に本件リンク先記事を閲覧することができるから、リンクを貼り付ける行為は、本件リンク先記事そのものを書き込む行為と同視できる旨主張する。しかしながら、本件投稿507においては、「地味に残ってるナリ」との記載はあるものの、その意味は不明であり、少なくとも原告に関する何らの記載もなく、ただ単にリンクが貼り付けられていたものであり、本件投稿518においては、上記のような記載すらなく、ただ単にリンクが貼り付けられていたものにすぎない。確かに、本件各投稿に貼り付けられたリンクをクリックすることにより本件リンク先記事を閲覧することは可能であるが、本件各投稿の体裁に照らしてみると、それを閲覧した者がリンクをクリックして本件リンク先記事に移行することが通常であるとはいい難いから、リンクを貼り付ける行為を本件リンク先記事そのものを書き込む行為と同視することはできない。なお、甲2、36、37によれば、本件各投稿に貼り付けられたリンクをクリックすることにより本件リンク先記事を閲覧した者がいたことは認められるが、このことは上記説示を左右するものではない。したがって、本件各投稿が原告の名誉権・名誉感情を侵害する事実を摘示しているとは認められない。

よって、その余の点を検討するまでもなく、本件各投稿によって原告の権利が侵害されたことが明らかとは認められない。」
(注10)東京地判平成28年1月26日D1-Law29016355
(注11)「本件引用スレッドのリンクを掲載すること自体が本件引用スレッドに掲載されている原告を誹謗中傷する記事を再掲載することと同視することができる旨を主張している。しかしながら、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として考えると、本件投稿1における本件引用スレッドのリンクの掲載は、リンク先である本件引用スレッドの投稿記事の中に原告の役職者を名乗った問題のある投稿記事があることを示すためにされたものであることが明らかであって、本件引用スレッドに掲載されている原告を誹謗中傷する記事の内容を摘示したものとみることはできない。」
(注12)なお、直接ハイパーリンクそのものの名誉毀損性にかかわるものではないが、ハイパーリンクを内容とするSNSへの投稿の削除義務を否定したものとして東京高判平成28年6月22日D1-Law28242986及びその原審である東京地判平成27年12月22日D1-Law29015879も参照。
(注13)東京地判平成28年7月21日D1-Law29019497
(注14)東京地判平成27年12月21日D1-Law29015571
(注15)東京地判平成27年12月25日D1-Law29015628
(注16)その他東京地判平成27年11月24日D1-Law29015478等も参照。
(注17)松尾剛行「書評:プロバイダ責任制限法実務研究会『プロバイダ責任制限法判例集』」『自由と正義』2017年1月号90頁
(注18)ただし、東京地判平成27年1月29日の後半部分の趣旨は、リンク先の記事の違法性を認めた上で、当該リンク先の特定に資する情報としてリンクを貼った者の情報の開示を認めているのであって、リンク設定行為の違法性とは違う問題であるように思われる。
 
次回更新、2017年2月9日(木)予定。
 
 


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時に激しく対立する「名誉毀損」と「表現の自由」。どこまでがセーフでどこからがアウトなのか、2008年以降の膨大な裁判例を収集・分類・分析したうえで、実務での判断基準、メディア媒体毎の特徴、法律上の要件、紛争類型毎の相違等を、想定事例に落とし込んで、わかりやすく解説する。
書誌情報 → http://www.keisoshobo.co.jp/book/b214996.html

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まつお・たかゆき 弁護士(第一東京弁護士会、60期)、ニューヨーク州弁護士、情報セキュリティスペシャリスト。平成18年、東京大学法学部卒業。平成19年、司法研修所修了、桃尾・松尾・難波法律事務所入所(今に至る)。平成25年、ハーバードロースクール卒業(LL.M.)。主な著書に、『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』(平成28年)、『金融機関における個人情報保護の実務』(共編著)(平成28年)、『クラウド情報管理の法律実務』(平成28年)、企業情報管理実務研究会編『Q&A企業の情報管理の実務』(共著)(平成20年)ほか。
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