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ウェブ連載版『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』 連載・読み物

ウェブ連載版『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』第35回

2月 13日, 2017 松尾剛行

 
(注1)宮下紘「『忘れられる権利』について考える」法学セミナー741号1頁。なお、奥田喜道編『ネット社会と忘れられる権利』(現代人文社、初版、2015)41頁では「『忘れられる権利』とは、一旦世間に公表された個人に関する情報を、世間から忘れてもらうことを個人の権利ないし利益として、世間から忘れてもらう方法として、当該情報の削除を請求するものである」とする。EU法と「忘れられる権利」については同書20頁以下を参照。
(注2)実際には、検索結果だけではなくサジェスト機能で表示されるキーワードが問題になる等多様な実務上の問題が生じ得る。サジェスト機能と忘れられる権利については、奥田『ネット社会と忘れられる権利』72頁以下参照。なお、そもそも犯罪以外の「忘れられる権利」が問題となり得ることは後編で論じる。
(注3)もちろん、削除によってその後のプライバシー侵害がなくなるという意味で予防請求の側面もあることは否定できないが、単純な予防請求とは異なる。
(注4)宮下紘『事例で学ぶプライバシー』(朝陽会、初版、2016)47頁。
(注5)新保史生「EUの個人情報保護制度」ジュリスト1464号39頁注2、今岡直子「『忘れられる権利』をめぐる動向」調査と情報854号1頁。
(注6)EUデータ保護規則は、その後の修正を経て2016年4月に制定された。特に17条は「削除権(忘れられる権利)」として、データコントローラーに対しパーソナルデータの削除を求める権利を規定していることに留意が必要である(http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=uriserv:OJ.L_.2016.119.01.0001.01.ENG&toc=OJ:L:2016:119:TOC)
(注7)宮下紘『プライバシー権の復権』(中央大学出版部、初版、2015)221頁、奥田『ネット社会と忘れられる権利』2頁。
(注8)「収集又は処理の目的との関係において、また時の経過に照らして、不適切で、無関係もしくはもはや関連性が失われ、また過度であるとみなされる場合」のパーソナルデータの削除を一定範囲で承認(http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=CELEX:62012CJ0131&from=EN。なお、Lukas Ströbel,Persönlichkeitsschutz von Straftätern im Internet,Nomos,1.Auflage,2016,S.120 ff.も参照)。
(注9)http://publicpolicy.yahoo.co.jp/2015/03/3016.html
(注10)なお、EUにおいて忘れられる権利はリスト化されない権利として処理されていることにつき、宮下紘「『忘れられる権利』について考える」法学セミナー741号5頁注2参照。
(注11)宮下紘「『忘れられる権利』について考える」法学セミナー741号1頁。
(注12)宮下紘「『忘れられる権利』について考える」法学セミナー741号1頁。
(注13)宮下紘「『忘れられる権利』について考える」法学セミナー741号2頁。
(注14)宮下紘「忘れられる権利と検索エンジンの法的責任」比較法雑誌第50巻1号49頁以下、特に55~56頁。
(注15)宮下紘「『忘れられる権利』について考える」法学セミナー741号2頁。
(注16)「たとえ忘れられる権利を認めたとしても、ウェブサイト上には本件の犯行に関連するオリジナルなウェブや掲示板等の投稿まで削除の対象とはならない。また犯行に関する報道機関による当時の報道記事や報道機関のウェブサイト上における検索結果の削除は、対象とならない。報道機関による表現の自由やこの報道記事に関する国民の知る権利が著しく阻害されるわけではない。」(宮下紘「『忘れられる権利』、日本でも真剣に考える時」(http://webronza.asahi.com/national/articles/2016081000003.html?iref=comtop_fbox_u06))
(注17)宮下紘「忘れられる権利と検索エンジンの法的責任」比較法雑誌50巻1号43頁及び68頁。
(注18)清水陽平=神田知宏=中澤佑一『ケース・スタディ ネット権利侵害対応の実務-発信者情報開示請求と削除請求』(新日本法規出版、初版、2017)14〜15頁。
(注19)清水陽平=神田知宏=中澤佑一『ケース・スタディ ネット権利侵害対応の実務-発信者情報開示請求と削除請求』(新日本法規出版、初版、2017)15頁。
(注20)なお、「仮に、グーグル検索で上の方に表示されるから、みんながそこにたどり着いてしまうという局面であれば、元の表現はともかく、差し当たりリンクを消せという話は、当然ありえます。」という「宍戸常寿東大教授に聞く 「表現の自由」裁判所任せでいいのか」(http://mainichi.jp/articles/20141109/mog/00m/040/004000c)における宍戸常寿教授の発言も参照。
(注21)なお、後編の「検索エンジンの特質」で述べる、削除のハードルをあげる要素、特に、表現の自由や知る権利における検索エンジンの役割等も主張したいだろう。
(注22)なお、経済的理由の場合には「お金を払えばよい」という発想もあるかもしれないが、お金がある人しかプライバシーが保護されないということでよいのか、という問題も検討が必要だろう(清水陽平=神田知宏=中澤佑一『ケース・スタディ ネット権利侵害対応の実務-発信者情報開示請求と削除請求』(新日本法規出版、初版、2017)15頁参照)。
(注23)滝澤孝臣・最高裁判例解説民事篇平成6年度130頁〜131頁。
(注24)ただし、公共性の高い前科については一切プライバシー侵害の問題にならないというアプローチよりも、公共性の高い場合にはプライバシー侵害に対する抗弁が成立するというアプローチの方が適切な様に思われる(佃克彦『プライバシー・肖像権の法律実務』(弘文堂、第2版、2010)197〜198頁)。
(注25)なお、同判決の伊藤正己補足意見は「前科等は、個人のプライバシーのうちでも最も他人に知られたくないものの一つ」とする。
(注26)なお、最高裁は少なくとも前科照会事件と逆転事件では「プライバシー」という表現を使っていないものの、長良川事件における「プライバシー」に関する判示の際に逆転事件に言及しているところからも分かるとおり、最高裁自身も逆転事件等がプライバシーの事件であると考えているようである。
(注27)滝澤孝臣・最高裁判例解説民事篇平成6年度132頁。
(注28)中澤祐一『インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル』(中央経済社、第2版、2016)47頁参照。
(注29)プロバイダ責任制限法実務研究会『最新 プロバイダ責任制限法判例集』(LABO、初版、2016)27頁参照。
(注30)判例タイムズ1188号76〜77頁。
(注31)原審の確定した事実関係によれば、公共の利益に係わらない被上告人のプライバシーにわたる事項を表現内容に含む本件小説の公表により公的立場にない被上告人の名誉、プライバシー、名誉感情が侵害されたものであって、本件小説の出版等により被上告人に重大で回復困難な損害を被らせるおそれがあるというべきである。したがって、人格権としての名誉権等に基づく被上告人の各請求を認容した判断に違法はなく、この判断が憲法21条1項に違反するものでないことは、当裁判所の判例(最高裁昭和41年(あ)第2472号同44年6月25日大法廷判決・刑集23巻7号975頁、最高裁昭和56年(オ)第609号同61年6月11日大法廷判決・民集40巻4号872頁)の趣旨に照らして明らかである。論旨はいずれも採用することができない。
(注32)佃克彦『プライバシー権・肖像権の法律実務』(弘文堂、第2版、2010)173頁。
(注33)八木一洋=関述之編著『民事保全の実務 上』(金融財政事情研究会、第3版増補版、2015)349頁。
(注34)東京地判平成22年10月1日ウェストロー2010WLJPCA10018008 は、「原告は、人格権としてのプライバシーの権利に基づき、被告会社に対し、現に行われている侵害行為を排除することを求めることができると解すべきであるが、一方で、被告会社の報道の自由は、これを不当に制約しないよう最大限の配慮を要する。前記のとおり、本件記事の本文には原告を特定するに足りる情報はないし、公益を図る目的で掲載されたことが認められる。他方、給与の支給明細書等の画像は、原告を特定するに足りる情報も含まれている上、必ずしも公益を図る目的で掲載されているとはいえない。一私人の給与の支給明細書等の実物自体は、正当な社会的関心の対象ともいえない。これら画像が閲覧可能な状態となっていれば、原告のプライバシーを侵害する状態が継続することになる。したがって、原告の本件記事の削除を求める請求は、給与の支給明細書等の画像の削除の限度で認められるべきである。」としており、一見報道の自由に配慮をした比較衡量基準を取ったようにも見えるが、そもそも損害賠償の認定の部分で、プライバシー侵害が認められたのは画像部分であるから、損害賠償を認めるだけのプライバシーの部分と基準を変えたことは窺われない。また、東京地判平成21年5月13日ウェストロー2009WLJPCA05138004 は、大学教授が浮気をした等とブログ等に記載した行為について、「本件各記事が被告の名誉及びプライバシーを侵害するものであることは明らか」として削除を認めているが、「被告について、「ハレンチ教授」、「間男」、「ハレンチな行いを示す」などの表現を行ったことが認められ、これらの事情に照らせば、本件各記事が被告の名誉及びプライバシーを侵害するものであることは明らかであって、原告が本件各記事において被告の実名及び勤務先を明示しなかったことは、上記判断を左右するものではない。」という書き方の全体像を見ると、これは単に「実名等が記載されていないからプライバシー侵害はない」という主張が認められないことを示す表現に過ぎないと思われ、「明らか」なプライバシー侵害がある場合にのみ削除を認めるとまでは読めないと思われる。
(注35)なお、 プロバイダに削除権限がない場合(東京地判平成21年9月11日ウェストロー2009WLJPCA09118005)や本人が例えば証拠保全のため削除しないでくれと言っている場合(東京地判平成20年10月31日ウェストロー2008WLJPCA10318026)に削除義務が発生しないのは当然である。
(注36)訴訟外でプロバイダに削除請求を行うことは少なくない(筆者も実際に削除に成功したことがある)が、削除請求「訴訟」の場合には、行為者本人を被告として損害賠償請求と同時に削除を請求することの方がよく見られ、前者の請求はあまり多くない。
(注37)名誉毀損の事案であるが「掲示板の管理者において、当該投稿が名誉毀損に当たるか否かの判断が困難な場合も少なくない。」とした 東京地判平成20年12月1日ウェブ連載2008WLJPCA10018001 も参照。
(注38)この点で、削除を「差止めと同視」する奥田「ネット社会と忘れられる権利」46頁には必ずしも賛同できない。
(注39)八木一洋=関述之編著『民事保全の実務 上』(金融財政事情研究会、第3版増補版、2015)350頁。
(注40)ただし、石に泳ぐ魚事件は本案の事案でかつ、私小説が市場に出回った後の差し止め請求である点には留意が必要である。
 

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松尾剛行

About The Author

まつお・たかゆき 弁護士(第一東京弁護士会、60期)、ニューヨーク州弁護士、情報セキュリティスペシャリスト。平成18年、東京大学法学部卒業。平成19年、司法研修所修了、桃尾・松尾・難波法律事務所入所(今に至る)。平成25年、ハーバードロースクール卒業(LL.M.)。主な著書に、『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』(平成28年)、『金融機関における個人情報保護の実務』(共編著)(平成28年)、『クラウド情報管理の法律実務』(平成28年)、企業情報管理実務研究会編『Q&A企業の情報管理の実務』(共著)(平成20年)ほか。