著者の山田俊弘さんからメッセージが届きました。[編集部]
読者のみなさんへ
みなさんはどのような「地球」のイメージをもっていますか。宇宙からの映像が、陸や海の分布、オーロラや台風の動き、氷河のありかといった自然の様相だけでなく、夜の半球に輝く都市の光から人間の活動も教えてくれます。さらに図鑑や地図が、地下の構造や、地震や火山といった大地の変動、人間の土地利用について、多くの情報を与えます。しかし、何気なく暮らしているこの大地を、「地球」という一つのまとまりをもった惑星天体として意識することは意外に少ないのではないでしょうか。
こうしたことを考えた昔の人々の重要な問題の一つは、地球が歴史をもつかどうかということでした。それは地震や火山噴火がどの歴史時代に起こったかという問題にとどまりません。自然それ自体が一つの歴史をもつという考え方と関係し、神話や聖書の物語もからんできます。今日では地球史がおよそ46億年の経過をたどっていることを科学が教えてくれますが、自然史の一部としての地球史という考え方はいつ起こりどのようにして定着したのでしょうか。
この本では、やや遠回りですが、ヨーロッパのルネサンス期に「ジオコスモス」として捉えられた地球がどのように変化していったのかをたどることから始めます。日本史でいえば、ポルトガル人が種子島に鉄砲を伝えたり、イエズス会が布教を開始したりした時期です。ジオコスモスとは、マクロコスモス(大宇宙)とミクロコスモス(小宇宙、人体)と照応しながら、あたかも一つの生命体のように活動する「大地の世界」をあらわしています。
注目したいのが、ガリレオやニュートンの活躍した17世紀の「科学革命」の時代です。この時期には、少し極端ないい方をすれば、一方では地球を一つの機械になぞらえるデカルトの見方があり、他方では地球を一つの生命体になぞらえるキルヒャーの見方があります。この両極端の世界の見方のなかで、古代からの学問である地理学や気象学が、自然学とともに変容して、新しい知識のあり方を模索していったのでした。
物語の案内人として、デンマーク出身の解剖学者ニコラウス・ステノに登場してもらいます。デカルトやガッサンディの影響を受け、キルヒャーやウァレニウス、フック、スピノザといった同時代の思潮と格闘しながら、ステノは地球の歴史を科学的に組み立てる原理を見出していきます。その主な内容は今日の地質学(ジオロジー)の体系に組み込まれますが、実はもっと大きな時代の流れを背景とするものでした。
デカルトやスピノザ、ライプニッツは、いうまでもなく初期近代の有名な哲学者です。彼らの哲学に含まれている地球論にかかわる部分はほとんど注目されていませんが、このなかにステノを置くことで、彼らが地球の歴史研究についても重要な貢献をしていたことが分かってきました。実際、スピノザとはデカルト主義と聖書解釈の問題について、さらにライプニッツとは鉱山開発や化石の解釈について、ステノは非常に重要な意見交換をしていたのです。ライプニッツはステノといっしょにハノーファーの宮廷に仕え、歴史研究もしていましたから、17世紀の終わりには自然の歴史が、聖書の歴史や世俗の歴史の探究とあわせて議論されるようになっていたわけです。
今日の私たちが「地球」や「地球史」と聞いて抱くイメージや知識ができあがってくる過程には、もともと以上のような科学思想上の知的なダイナミズムと変遷がありました。こうした人と自然のドラマを感じ取っていただければと思っています。
山田俊弘
山田俊弘著/ヒロ・ヒライ編集
『ジオコスモスの変容:デカルトからライプニッツまでの地球論』
A5判・304ページ・本体4,800円
『ジオコスモスの変容:デカルトからライプニッツまでの地球論』
刊行記念トークショー
日時:2017年3月8日(水) 19:00より
会場:本屋EDIT TOKYO(東京・銀座)
トークショーの詳細は【こちら】へ。ぜひお越しください。
*たくさんの方のご来場、ありがとうございました。