後編は過去の裁判例の流れを踏まえ、最高裁決定以降どのような場合について「忘れられる権利」が認められるか/認められるべきかについて詳説します。[編集部]
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忘れられる権利(後編)
5.最高裁決定以前の裁判例の動き
最高裁決定は何の脈略もなく下されたものではなく、いわゆる「忘れられる権利」について既に存在する約20の裁判例の流れを踏まえたものである。そこで、最高裁決定以前の裁判例の動きを理解する必要がある。
最高裁決定以前のいわゆる「忘れられる権利」についての日本の裁判例は以下のとおりである。
これらの裁判例からは、初期の段階においては、検索エンジンは、単に自動的・機械的に表示をするだけであるという点が一つの理由となって削除等が否定されてきたところ(No.4(東京地判平成23年12月21日ウェストロー2011WLJPCA12218030)、No.6(東京地判平成25年12月16日ウェストロー2013WLJPCA12168020)、No.8(京都地判平成26年8月7日判時2264号79頁)等)、近年では、そのような単純な理由で否定するものはなくなり、例えばNo.13(札幌地決平成27年12月7日ウェストロー2015WLJPCA12076001)が「検索の検索結果として、どのようなウェブページを上位に表示するか、どのような手順でスニペットを作成して表示するかなどの仕組みそのものは、債務者が自らの事業方針に基づいて構成していることは明らか」と判示するように、検索エンジン自身の独自性が認識されるようになり、削除が認められる例も増えているという傾向がみられる(注1)。
また、No.9(東京地決平成26年10月9日プロバイダ責任制限法判例集21頁参照)やNo.13(札幌地決平成27年12月7日ウェストロー2015WLJPCA12076001)のように、結論として検索エンジンに対する削除を認めたものも出現していた(No.19の最決平成29年2月1日関係の事件は後で検討する。)。
なお、新たな権利として「忘れられる権利」を承認したり、そのように明言をしていなくとも、検索結果の削除を認めた存在するとはいえ、上記の裁判例を見る限り、不適切な情報や、無関係な情報、もはや関連性が失われた情報、過度の情報等、「違法ではない情報」の削除が認められた例は未だに存在しないようである。そこで、少なくとも日本の裁判例を見る限り、少なくとも従前のプライバシー侵害を根拠とする削除や名誉毀損の削除の議論から大きく乖離した判断はまだ出てきていない状況と評することができた。
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