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ウェブ連載版『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』 連載・読み物

ウェブ連載版『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』第37回

3月 09日, 2017 松尾剛行

 
(注1)「なおこの「みだりに」については、「みだりに」というのは、当該情報の開示が一般人の感受性を基準にして私生活上の平穏を害するような態様で行われることが必要であり、当該情報の内容、開示の態様を総合考慮して違法性の有無を判断するという従前の枠組みを逸脱したものではない」(平成20年最高裁判例解説民事編161頁注12)参照。
(注2)二関辰郎「個人情報の第三者提供と不法行為の成否」法時2006年7月号94頁、板倉陽一郎「個人情報保護法違反を理由とする損害賠償請求に関する考察」情報ネットワークローレビュー11号2頁。なお、園部編「個人情報保護法の解説」(2005年、ぎょうせい、改訂版)43頁も参照。
(注3)これに対し、加藤隆之「個人情報保護制度の遵守とプライヴァシー権侵害」亜細亜法学46巻1号84頁以下は、個人情報を開示すべき場合として法令上例外が認められている場合に、不法行為責任を負うとすれば、個人情報取扱事業者は個人情報を開示しない方向に行動し、法令上の例外の趣旨が没却される等の理由で峻別論に疑問を呈しており、傾聴に値する。理論的な研究としては、板倉陽一郎「個人情報保護法違反を理由とする損害賠償請求に関する考察」情報ネットワークローレビュー11号8頁以下の議論が参考になる。同9頁では「個人情報保護違反があり、個人情報の管理状況を中心として、著しい違反又は社会相当性を欠くような違反と評価されるような場合は、損害賠償請求を認める余地があると考えることができよう」とされている。
(注4)平成20年最高裁判例解説民事編160頁注11。
(注5)なお、大阪地判平成24年1月26日(平成23年(レ)第701号)の原審である大阪簡裁判決(板倉陽一郎「個人情報保護法違反を理由とする損害賠償請求に関する考察」情報ネットワークローレビュー11号3頁参照)は、直截に個人情報保護法を理由に不法行為の成立を認めているものの、控訴審である大阪地判平成24年1月26日(平成23年(レ)第701号)ではプライバシーのみを理由に判断している。
(注6)大阪地判平成27年6月24日判例秘書L07051235はガイドラインに違反することが直ちに被用者である原告に対する労働契約上の債務不履行又は不法行為を構成するものではないとしたが、大阪高判平成27年12月4日判例秘書L07020693は結論として不法行為を認めている。
(注7)なお「他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。」の可能性はある。Q1-22参照。
(注8)なお、後述の東京地判平成22年10月20日ウェストロー2010WLJPCA10208006、福岡地判平成23年3月16日裁判所ウェブサイトや東京地判平成20年4月22日ウェストロー2008WLJPCA04228014、判例秘書L06331198も参照。
(注9)大阪高判平成22年12月21日判時2104号48頁及び同東京地判平成23年7月21日判タ1400号260頁、ウェストロー2011WLJPCA07218001等参照。その他個人情報保護違反と不法行為につき東京地判平成23年5月26日ウェストロー2011WLJPCA05268022や東京地判平成19年6月27日D1-Law28132199、東京地判平成25年2月28日ウェストロー2013WLJPCA02288013も参照。
(注10)なお、行為者の会社内の事情なのでできなかったのかもしれない。
(注11)東京地判平成25年11月12日ウェストロー2013WLJPCA11128022も参照。
(注12)東京地判平成22年8月10日ウェストロー2010WLJPCA08108005、判例秘書L06530474参照。この観点からは東京地判平成21年8月31日労判995号80頁には疑問が残る。
(注13)なお、東京地判平成25年5月23日ウェストロー2013WLJPCA05238010も参照。
(注14)なお、Q3-4は「個人情報を含む情報がインターネット等により公にされている場合、それらの情報を①(注:当該情報を単に画面上で閲覧する場合)のように単に閲覧するにすぎない場合には「個人情報を取得」したとは解されません。」とする。
(注15)ただし、Q3-4では「当該情報を転記の上、検索可能な状態にしている場合」「当該情報が含まれるファイルをダウンロードしてデータベース化する場合」といった明らかに取得に該当する場合のみを「取得に該当する」としており、その中間的場合(転記したが検索可能としていない場合等)については態度を明確にしていない。
(注16)仙台地判平成25年10月2日金判1430号34頁、青森地八戸支判平成25年11月27日金判1434号24頁等。
(注17)原審福岡地久留米支判平成26年8月8日判時2239号88頁、D1-Law28224340、最決平成28年3月29日D1-Law 28241277で上告棄却・上告受理申立て不受理。
(注18)なお、東京地判平成25年2月28日ウェストロー2013WLJPCA02288013も参照。
(注19)なお、利用目的については東京地判平成21年4月14日ウェストロー2009WLJPCA04148006も参照。
(注20)例えば宇賀克也『個人情報保護法の逐条解説』(有斐閣、第5版、2016)156頁。
(注21)平成24年8月31日ウェストロー2012WLJPCA08318002、さいたま地川越支判平成22年3月4日判時2083号112頁等。
(注22)東京高決平成23年6月22日ウェストロー2011WLJPCA06226001、東京地判平成22年8月10日ウェストロー2010WLJPCA08108005、判例秘書L06530474等参照。なお、京都地判平成25年10月29日金法2024号107頁ウェストロー2013WLJPCA10296007は大阪高判平成26年8月28日判タ1409号241頁ウェストロー2014WLJPCA08286006で破棄されているが、この部分を否定する趣旨ではないと思われる。
(注23)最近の否定例に東京地判平成26年9月10日ウェストロー2014WLJPCA09108014、判例秘書L06930784、D1-Law28231987(なお、控訴審の東京高判平成27年5月20日D1-Law 28231990は一応同旨だが、「仮に」として開示が認められると解した場合について件としている)等。
(注24)具体的には以下のものである。
1 ●●●マイレージ●●カード(番号〈省略〉)を利用して以下の年月日及び金額により購入された商品の内容,購入先(商品発注先)及び届け先(商品受取先)

(1) 2008年(平成20年)3月12日 200円

(2) 2008年(平成20年)3月24日 33万9600円

2 ●●●●●●●-●●●●カード(番号〈省略〉)を利用して以下の年月日及び金額により購入された商品の内容,購入先(商品発注先)及び届け先(商品受取先)

(1) 2008年(平成20年)3月29日 200円

(2) 2008年(平成20年)5月22日 44万2000円

3 上記1及び2のカードを決済手段として作成された被告におけるアカウントに係る以下の情報

(1) 作成日

(2) 事業情報

氏名、メールアドレス、住所、電話番号(自宅)、電話番号(ビジネス)、パスワード、セキュリティに関する質問、事業情報、マーチャントアカウントID

(3) 財務情報

銀行口座、デビッドカード及びクレジットカード、●●●●残高、事前承認支払い、その他の財務設定(マーチャント手数料、月別アカウント明細)

(4) 設定

アカウントタイプ、チェックアウト設定、モバイルチェックアウト設定、通知、問い合わせ用ID、●●●●でログイン、使用言語、タイムゾーン

(5) 発信されたIPアドレス
(注25)決済サービス業者は「本件アカウントを開設し同アカウントにおける取引を行った者が原告以外の第三者であることを前提とすると、当該第三者への権利侵害のおそれがあり開示しないことができる場合に当たる」と主張したが、裁判所は「本件アカウントを開設し同アカウントにおいて取引を行った者が、Bを含む原告以外の第三者であるか否かは本件記録から必ずしも明らかでないが、原告名義の金融機関の口座を引き落とし口座とする本件クレジットカードが決済手段となっている本件アカウントについて、原告が同アカウントの基本情報等の開示を求めることを拒む理由は見出し難く、これが第三者により開設され取引に使用されているとしても,上記開示が同第三者の権利を侵害することになるものとは認められないというべきである。」とした。
(注26)採点項目、採点基準や採点結果等が記載されており、これを受験者本人に開示すると、開示された採点項目、採点基準やこれらに対応する採点結果についての質問や苦情が大幅に増加することが予想され、試験委員にふさわしい人物を試験委員として確保することが困難な事態が生じた場合には、保育士試験の実施が困難となったり、本来試験委員としてふさわしいと判断することができない人物を試験委員として選任し、実技試験において試すことが想定されている受験者の能力を正しく評価することができないという事態が生じ、保育士試験の適正な実施を確保することができなくなって、被告の業務に著しい支障が生ずることとなること、実技試験の採点表に記載された情報は、前記のとおり、単に点数や採点項目のみならず、具体例も含めた採点基準等が採点項目と一体として記載されている部分もあり、その一部を部分的に開示することは困難であると認められること等を理由とした。
(注27)例えば司法試験について「司法試験第二次試験論文式試験の科目別得点を開示した場合は、司法試験予備校による分析等において、当該試験で高得点を得たとされる答案の再現が一層容易になることから、各受験者が、司法試験の受験準備の過程において、ますます、高得点を得たとされる答案の書きぶり、論述の運びなどの外形を模倣することに力を注ぐこととなり、その結果として、答案のパターン化、画一化に一層の拍車がかかり、論文式試験を通して、各受験者の有する学識のみならず、その理解力、推理力、論理的思考、説得力、文章作成能力等を総合的に評価して採点するという論文式試験の選抜機能が一層低下し、司法試験事務の適正な遂行に支障を及ぼす弊害が増大するであろうことは明らかというべき」として論文試験の科目別得点開示は否定したが、「論文式試験合格者の総合順位を開示した場合においては、そもそも総合順位の高順位者であったとしても、その者が当然に各科目における高得点を取得したとの前提が成り立ち得ないことを考えれば、論文式試験受験者の科目別得点が開示されない以上、総合順位の高順位者が再現した答案であることから、直ちにそれが各科目における高得点答案であったということにはならない」として総合順位の開示を認めた東京高判平成17年7月14日ウェストロー2005WLJPCA07149007等参照。
(注28)東京地判平成23年7月28日ウェストロー2011WLJPCA07288007は誤記があった回答書につき後で訂正をしたことを理由に開示義務を怠っていないとした。
(注29)東京地判平成23年1月27日判タ1367号212頁等参照。
(注30)東京地判平成21年1月30日ウェストロー2009WLJPCA01308011、横浜地判平成26年12月25日ウェストロー2014WLJPCA12256013、判例秘書L06950788、東京地判平成27年10月14日D1-Law29014550等。
 

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松尾剛行

About The Author

まつお・たかゆき 弁護士(第一東京弁護士会、60期)、ニューヨーク州弁護士、情報セキュリティスペシャリスト。平成18年、東京大学法学部卒業。平成19年、司法研修所修了、桃尾・松尾・難波法律事務所入所(今に至る)。平成25年、ハーバードロースクール卒業(LL.M.)。主な著書に、『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』(平成28年)、『金融機関における個人情報保護の実務』(共編著)(平成28年)、『クラウド情報管理の法律実務』(平成28年)、企業情報管理実務研究会編『Q&A企業の情報管理の実務』(共著)(平成20年)ほか。