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『格差社会のなかの自己イメージ』

 
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数土直紀 編著
『格差社会のなかの自己イメージ』

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はしがき
 
 本書は,格差社会を主題にしている.格差社会を問題として取り上げている図書は少なくないが,本書と類書の異なる点は,本書が格差の実態を直接的に問題にしているのではなく,格差社会を生きる人びとの意識を問題にしている点である.格差社会が問題だというのは,とうぜん格差によって道理に合わない苦難を強いられている人びとが存在するからである.とうぜん,そうした人びとの苦難を実証的に明らかにし,解決のための道筋を明らかにすることには大きな意味がある.しかし,私たちが社会を生きるうえで問題を抱え込むのは,雇用身分の不安定さ,所得の低さ,社会保障の不完全さといった目にみえる部分だけにあるのではない.実際は,可視化することの難しい私たちの内面にも格差社会の影響は及んでいる.私たちの意識も,(格差)社会のあり方を反映しており,そしてそのことでさまざまな問題を生じさせてもいる.したがって,格差の現実態を明らかにすることも重要だが,そこに加えて“私たちが格差社会の下で何を考え,そして何を意識しているのか”を明らかにすることもまた大切になる.そうした問題意識の下,本書では,総中流社会から格差社会への変化を象徴的にあらわしているものとして特に階層帰属意識に焦点をあてつつ,格差社会の下での人びとの階層意識を明らかにしようとしている.
 また本書での議論は,2015 年の冬から春にかけて実施された2015年「階層と社会意識全国調査」(第1 回SSP 調査)のデータに依拠している.第1回SSP調査は,吉川徹(大阪大学)が中心になって展開されているSSP(Stratification and Social Psychology)プロジェクトの一環として実施された.ちなみに,第1回SSP調査は,従来の社会調査データとの比較可能性を担保しつつ,新しい調査方法を積極的に導入した革新的な社会調査である.具体的には,大規模全国調査にCAPI法と呼ばれるコンピュータ(タブレット端末)を用いた個別聴取面接法を野心的に採用している.実際に,この方法を採用することで,調査データのコーディングやデータクリーニングの効率が格段にあがり,調査実施後の比較的早い時期からさまざまな学術的な成果を上げることが可能になった(詳細については,SSP プロジェクトのwebサイトであるhttp://ssp.hus.osakau.ac.jp/を参照してほしい).
 もちろん,ほんとうに重要なのは結果であり,方法ではないことは十分に承知している.私たちとしては,与えられたデータのなかに意味のある結果をみいだせるよう最善の努力を積み重ねてきた.そしてその一部を書籍という形で公開できることに喜びを感じている.本書を通じて,日本社会が抱えている多くの問題を,たとえその一端でも伝えることができていればと願っている.
 
執筆者を代表して
数土直紀
 
 
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