あとがきたちよみ
『心理学,認知・行動科学のための反応時間ハンドブック』

About the Author: 勁草書房編集部

哲学・思想、社会学、法学、経済学、美学・芸術学、医療・福祉等、人文科学・社会科学分野を中心とした出版活動を行っています。
Published On: 2019/11/28

 
あとがき、はしがき、はじめに、おわりに、解説などのページをご紹介します。気軽にページをめくる感覚で、ぜひ本の雰囲気を感じてください。目次などの概要は「書誌情報」からもご覧いただけます。
 
 
綾部早穂・井関龍太・熊田孝恒 編
『心理学,認知・行動科学のための反応時間ハンドブック』

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はじめに
 
本書のねらい
 反応時間は,現代の心理学における重要な従属変数の一つである。にもかかわらず,閾値や精度(正答率)などの他の従属変数と異なり,反応時間は,計測や解析において独自のテクニックや知識を必要とし,また,解釈においても独自の理論的背景を必要とするため,初学者や他分野の学生・研究者には,とっつきにくいものである。特に,反応時間が心的過程に要した時間を反映するという発想自体がユニークなものであり,その意味するところを専門外の学生,研究者がにわかに理解することは難しい。また,普段の研究で反応時間を利用している学生や研究者なども,その背景や原理などを十分に理解しているとは限らない。
 近年,実験心理学分野だけではなく,社会心理学,発達心理学,臨床心理学などの分野でも,反応時間を用いた研究が増えてきている。また,反応時間が用いられている研究分野は心理学のみならず,脳科学,生理学,医学,人間工学,スポーツ科学,教育学,情報学,インタフェース科学など,広範囲に及ぶ。ゆえに,実際の反応時間ユーザ,あるいは潜在的ユーザも多岐にわたるであろう。
 欧米ではWelford(1980)やLuce(1986)などの反応時間に関する成書がすでに存在するが,我が国においては,それに該当するものはない。また,これらの書籍も発刊後30 年以上が経ち,最新の研究事例や解析方法などはカバーされていない。その後も,欧米の実験心理学のハンドブックなどでは,反応時間について解説した章もあるが,それらも初学者にとっては,ただちに理解することは難しいかもしれない。したがって,多くの学生は,先行研究などを手がかりに,反応時間の計測や解析,結果の解釈などを習得しているのが現状である。そこで,本書は,当該分野の学生,教員,研究者のみならず,初学者や専門外の学生,研究者等が必要に応じて,手軽に参照できるようなハンドブックの形式で,反応時間に関する基礎から実用的な方法論,さらには,その応用例などを網羅することを目指した。
 
本書の構成
 本書は,基本的には,各項目が単独で読めるように工夫した。ただし,他の項目で説明されている概念や用語などについては,その部分を参照する形になっている(参照箇所は矢印と項番号で示されている)。
 各章の概要は以下の通りである。
 第1章では,反応時間の基本的な概念を解説した。反応時間に興味を持ったという読者には,第1章に目を通すことをお勧めする。特に,反応時間においては重要であるにもかかわらず,まとまった解説がなされなかった「構え」について,系統的な解説を行った。
 第2章では,反応時間に関する歴史的な経緯や理論的な背景を解説した。これまで反応時間を用いた研究などを行ってきたという読者にも,今一度,その基礎を体系的に振り返る機会として活用できるであろう。
 第3章では,反応時間実験の方法に関して解説した。これから反応時間を用いた実験を始めたいという読者には,まず,第3章を読んでいただきたい。また,反応時間の計測方法について,疑問がある読者にも第3章は必読である。
 第4章は,反応時間のデータ分析に関する解説である。標準的な方法を詳しく解説するとともに比較的新しい解析方法についても取り上げた。
 第5章以下は,各論となっている。興味や関心に応じて参照してほしい。
 第5章では,反応時間に影響する要因をさまざまな観点からまとめた。
 第6章では,反応時間の個人差を生じさせる実験参加者の属性をまとめた。
 第7章では,反応時間を用いた代表的な実験課題をまとめた。
 また,本文中には記載できなかった,反応時間にまつわる歴史や最近の動向などを「コラム」として取り上げた。
 本書には,紙面の都合上,含めることができなかった項目や内容が少なからずある。また,神経生理学など関連学問領域の成果についても十分にふれることはできなかった。特に,最新の研究については,評価が確立していないものも多く,データ解析に関する部分に関しては,手法が十分に整備されていないものがあり,それらには十分な言及ができなかった。今後の研究の進展を待ちたい。
 
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