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『EUデータ保護法』

 
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石井夏生利 著
『EUデータ保護法』

「[推薦文]個人情報保護法改正論議の必読書」「はしがき」(pdfファイルへのリンク)〉
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[推薦文]個人情報保護法改正論議の必読書
 
堀部政男(一橋大学名誉教授・元個人情報保護委員会委員長)
 
 石井夏生利著『EU データ保護法』をEU のデータ保護法の全体像を理解するための書として、また、特に個人情報保護法改正論議の必読書として推薦する。
 著者の石井夏生利さんは、これまでに個人情報保護法関係の多くの力作を著してきている。本書の奥付にもその一部が記されている『個人情報保護法の理念と現代的課題─プライバシー権の歴史と国際的視点』(勁草書房、2008年)及び『新版 個人情報保護法の現在と未来─世界的潮流と日本の将来像』(勁草書房、2017年)は、その例である。後者は、新版となっているが、旧版は、『個人情報保護法の現在と未来─世界的潮流と日本の将来像』として2014年7 月に勁草書房から出ている。また、最近では、共著であるが、小向太郎・石井夏生利著『概説GDPR』が、2019年9 月に、NTT 出版から刊行されている。
 中央大学大学院法学研究科において博士学位を取得したのが2007年であるから、そこを起点とすると、12年余の間に単著だけでも、本書を含め、4 冊書き、しかもどれも数百頁に及ぶ大著であることに注目したい。これは、著者のこの分野における専門家としての力量が十分に発揮された結果であると言えよう。2019年1 月23日に、日本と欧州連合との間で、個人データの円滑な流通を可能とする、相互の十分性認定(mutual adequacy recognition)が実現した。これは、世界初であり、2019年10月にアルバニアのティラナで開催された、第41回データ保護プライバシー・コミッショナー国際会議においてもかなり話題になった。日本の個人情報保護委員会を中心とする日本政府と欧州委員会との80回300時間に及ぶダイアログを経て実現したことに責任者として関わってきた者としては、特に本書の第4 章に注目した。
 著者は、第4 章において、それまでの研究成果を踏まえて、「EU データ保護法改革と日本」について論じている。
 第4 章の冒頭で、本書を要約し、EU のデータ保護法は、GDPR、刑事司法指令、ePrivacy 規則案の総称であるとし、それを俯瞰的に捉えるための素材を整理し、考察を深めるべき制度上・解釈上の論点を提示することを目的としている、と述べている。その上で、「本章では、 2019年10月段階で検討が進められている個人情報保護法の改正を巡る論点に焦点を絞り、若干の考察を行うこととする」としている。
 2015年改正個人情報保護法附則第12条第3 項は、「政府は、前項に定める事項のほか、この法律の施行後三年ごとに、個人情報の保護に関する国際的動向、情報通信技術の進展、それに伴う個人情報を活用した新たな産業の創出及び発展の状況等を勘案し、新個人情報保護法の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする」と定めている。
 このような規定が設けられた背景には、変容する国際的動向や進展の著しい情報通信技術、個人情報を活用した新たな産業の創出・発展の状況等に適合的な法がボーダーレスの現代社会においては不可欠であるという要請があるからであるが、2020年の通常国会に提出されるであろうと予測される、個人情報保護法の改正法がどのようなものになるかは、日本国内においてばかりでなく、外国においても注目されている。
 石井氏の考え方をここで網羅することは、もとより不可能であるが、EU データ保護法との関係では、「GDPR は、日本でも高い注目を集め、それに関する先行研究は枚挙にいとまがない。他方、GDPR はEU のデータ保護法の中心でありつつ、複数存在するデータ保護法の1 つであるという側面も忘れてはならない」と指摘している。
 著者は、先に挙げた「三法は、EU 基本権憲章第8 条1 項及びEU 機能条約第16条1 項に基づく個人データ保護の権利を基本的思想とし、独立監督機関の専門性と広範な法執行権限、制裁制度を用意している点で共通する。全体的には強力な保護制度であることに異論はない」と説明している。
 それらを踏まえて、日本の個人情報保護法制に対して、総括的な提言とともに、個別の論点に関する意見を表明している。
 日本の今回の法改正は、EU のデータ保護法との関連で議論されなければならない側面があることを銘記する必要がある。そのことを認識するならば、本書は、個人情報保護法の今回の改正論議において必読の書である。それとともに、将来の論議においても、参照されなければならない文献である。その意味では、個人情報保護法改正論議の必読書である。また、EU データ保護法の全体像を知り、研究・実務に活かしたい人にも薦めたい文献である。
 
 
はしがき
 
 本書は、欧州連合(European Union, EU)のデータ保護法を俯瞰的に捉えるための素材を整理し、考察を深めるべき制度上・解釈上の論点を提示することを目的としている。日本では、2012年1 月25日に欧州委員会から一般データ保護規則(General Data Protection Regulation, GDPR)が提案されて以降、専らGDPR が事業者に与える影響や、いわゆる十分性認定の行方に注目が集まってきた。GDPR に関する国内外の先行研究は膨大な数に及ぶ。しかし、GDPR はEU のデータ保護法の中心でありつつ、複数存在するデータ保護法の1 つであるという側面も忘れてはならない。また、情報という捉えどころのない対象への法的規律は、とかくパズルのように難解になる傾向があるため、明快な法体系を維持するには、グローバルな視点、俯瞰的視野を欠かすべきではない。
 本書では、こうした認識を踏まえ、GDPR の規定及び解釈を改めて整理することに加え、電子通信プライバシー規則案及び刑事司法指令の概要をまとめることで、より広い視野からEU のデータ保護法を概観することを試みた。
 制度面に目を向けると、日本の情報法分野の研究者が果たすべき役割は、国外の法制度を国内に正しく伝えることと、国内の法制度を国外に発信することの2 つがある。本書は専ら前者に貢献しようとするものである。後者について、日本の個人情報保護制度は、2019年1 月23日に取得した十分性認定及びその過程において、初めて国外から評価を受けることとなった。十分性認定を維持するためには、今後も様々な課題に真摯に取り組まなければならない。
 第1 章では、GDPR の規定及びその解釈指針について、可能な限り最新の状況を取り上げて概説を行った。本章の内容は、拙著『新版 個人情報保護法の現在と未来─世界的潮流と日本の将来像─』(勁草書房、2017年)の第2 章を大幅に改訂をしたものである。
 第2 章では、GDPR の特別法である電子通信プライバシー規則案の概要について、欧州委員会提案を中心に整理した。この規則案は2019年11月末日時点で規則として採択されていないため、同章は同年9 月までの内容で構成されている。電子通信プライバシー規則案は、規則としての採択時には大幅な修正を加えられていると予測されるものの、採択までのプロセスの一部を取り上げる意味はなお存在すると考え、本章をまとめることとした。
 第3 章では、GDPR と同日に採択された刑事司法指令を整理した。同指令は、刑事犯罪及び刑事罰の執行に関するデータ保護を規律しており、GDPR とあわせてEU データ保護改革パッケージを構成する。
 第4 章では、日本における個人情報保護制度の見直しに係る論点について、筆者の考えを論じた。第2 章及び第3 章を取り上げるのであれば、電気通信分野や刑事法分野の個人情報保護制度を包含する形で論じるべきである。しかし、個人情報保護制度の見直しだけでも多くの検討事項を生ぜしめるため、今回は、同制度の見直しに焦点を当てて考察した。日本の個人情報保護に関する法制度は、法律の名称に「個人」や「個人情報」を冠しているものにとどまらない。個人情報保護法を巡っては、特に「個人情報の保護に関する法律」の制度論に議論が偏りがちではあるが、より広範な視野から検討することが望ましい。この点は今後の筆者の課題としたい。
 本書の執筆に関する研究活動の過程では、筆者が中央大学大学院法学研究科に在籍していた時代から、指導教授である堀部政男先生(一橋大学名誉教授・元個人情報保護委員会委員長)にご指導を頂いてきた。堀部先生には、筆者が単著を上梓する度に推薦の言葉を賜ったことに心から謝意を表する。
 また、本書の出版に際しては、勁草書房の鈴木クニエ氏に丁寧かつ迅速な編集作業を行って頂いた。この場を借りて改めてお礼を申し上げる。
 情報技術を巡る国内外の環境が不断に変化する中で、本書が多少でも情報法の研究領域に貢献できることを願っている。
 最後に、本書の執筆に際して、温かく見守り支援をしてくれた家族に感謝する。
 
2019年12月7 日
石井夏生利
 
 
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