あとがきたちよみ
『実務成年後見法』 [勁草法律実務シリーズ]

About the Author: 勁草書房編集部

哲学・思想、社会学、法学、経済学、美学・芸術学、医療・福祉等、人文科学・社会科学分野を中心とした出版活動を行っています。
Published On: 2020/2/6

 
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松原正明・浦木厚利 編著
『実務成年後見法』 [勁草法律実務シリーズ]

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はしがき
 
 平成11年に,自己決定の尊重・ノーマライゼーションなどを掲げて成年後見制度が発足して20年が経過し,この間,従来の禁治産・準禁治産制度と比較して飛躍的に利用件数が増加し,一定の成果があがっている.しかし,利用件数が過少にとどまっていること,制度の理念と制度運用の実情との乖離,発足当時には予想し難かった事態が発生するなどの問題点が指摘され,また,家裁における運用方針にも少なからず変動がみられる.
 そこで,成年後見制度のこのような状況を踏まえ,制度利用の適正・迅速を図る趣旨から,制度の理念,運用の指針を解説するとともに,その変遷を述べ,併せて問題点を指摘する趣旨で,本書を出版することとした.類書が多数存する現状において,あえて本書を上梓する趣旨は以下の点にある.
 
1  本書の執筆者は,平成25年から27年まで,横浜家庭裁判所の成年後見部に勤務した5 名の裁判官と1 名の書記官である.成年後見人の家裁実務に携わった者たちが,問題意識を共通にしつつ種々の事案解決に当たった経験を一つの書籍にまとめることには意義があると考える.
2  本書は,成年後見制度の理念ないし法制度のあり方を踏まえたうえで,問題点を指摘しつつ実務の運用を解説する.事件処理の実際のみを叙述するものではない.制度の効率的な運用を図る必要があることは言うまでもないが,問題点を把握しないまま実務を紹介することは適切でないと考える.
3  本書は,上梓までの間に公刊された,成年後見人事件に関する判例及びこれに影響を及ぼすと考えられる判例について,できる限り解説を試みた.成年後見制度の多くは争訟性を伴うものではないので,その運用の適正が判例によって担保されることは少なく,そもそも判例数も多くはない.しかし,これらの判例は,成年後見制度の理念や基本的な制度の運用に触れており,あるいはこれを前提にしていることが明白であることから,制度の運用のあり方を考える際に欠かせないと考える.
 
 本書の意図は以上の点にあるが,どこまで斯界に寄与できたかはなはだ心許ないが,大方の叱正に待ちたい.
 最後に,事件処理で多忙な中,趣旨に賛同してご執筆していただいた筆者の方々に感謝するとともに,企画から出版まで思わぬ時日を要したにもかかわらず,編集の労を惜しまなかった山田政弘氏に謝意を表したい.
 
2020年1 月
松原 正明
浦木 厚利
 
 
序章 各章の概要
 
 本書は,第1 章から第10章で構成されている.共同執筆者による責任執筆であり,一部記述が重なる部分があるが,各章間の調整により,内容は統一されている.
 ここで,序章として,各章の内容の要点を概観しておく.
 
第1 章「成年後見制度の概要及び課題」
 成年後見制度の発足の経緯,概要及び現在の課題が論述される.
1  成年後見制度の成立
 平成11年12月1 日,成年後見制度が改正され,成年後見制度関連四法が成立し,同年12月8 日に公布され,平成12年4 月1 日から施行された.四法とは,①民法の一部を改正する法律,②任意後見契約に関する法律,③民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律,④後見登記等に関する法律である.
2  促進法及び円滑化法の成立
 成年後見関連四法の成立によって創設された成年後見制度であるが,国民に十分に利用されていない現状にあるとして,「成年後見制度の利用の促進に関する法律」(利用促進法)が,また,実務の運用における不十分な改善するべく「成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」(円滑化法)が制定されるに至った.
 
第2 章「成年後見事件等の開始」
 成年後見事件等の開始についての類型ごとに対象者,申立手続等及び留意点が論述される.
1  成年後見事件等の類型ごとの対象者
2  成年後見人・保佐人・補助人のそれぞれの権限及び資格
ア 成年後見人
 成年後見は,後見開始の審判により開始する(民法838条2 号).成年後見開始の審判を受けた者は,成年被後見人とし,これに成年後見人を付する(民法8 条).成年後見人は,家庭裁判所が成年後見開始の審判をする際に,職権で選任する(民法843条1 項).
イ 保佐人
 保佐は,保佐開始の審判により開始する(民法876条).保佐開始の審判を受けた者は,被保佐人とし,これに保佐人を付する(民法12条).保佐人は,家庭裁判所が保佐開始の審判をする際に職権で選任する(民法876条の2 第1 項). 保佐人を選任する際における考慮事項は,成年後見の場合と同様である(民法876条の2 第2 項,843条4 項).
ウ 補助人
 補助は,補助開始の審判により開始する(民法876条の6 ).補助開始の審判を受けた者は,被補助人とし,これに補助人を付する(民法16条).補助人は,家庭裁判所が補助開始の審判をする際に職権で選任する(民法876条の7 第1項).
 補助人を選任する際における考慮事項は,成年後見の場合と同様である(民法876条の7 第2 項,843条4 項).
3  類型ごとの申立権者 
ア 成年後見開始の申立権者
 民法上の申立権者は, 本人,配偶者,四親等内の親族,未成年後見人,未成年後見監督人,保佐人,保佐監督人,補助人,補助監督人,検察官である(民法7 条).本人は,自己決定権の尊重の見地から申立権者とされているが,申立てが認められるのは事理弁識能力を回復しているときに限られる.
イ 保佐の申立権者
 本人,配偶者,四親等内の親族,後見人,後見監督人,補助人,補助監督人,検察官が申立権者とされている(民法11条本文)
ウ 補助開始の申立権者 
 本人,配偶者,四親等内の親族,後見人,後見監督人,保佐人,保佐監督人,検察官が申立権者とされている(民法15条本文).
4  申立手続
5  審判等
ア 成年後見等開始の審判
 任意後見制度と法定後見制度の調整の問題がある.
6  成年後見等開始の審判による資格制限等
 成年後見等開始の審判が確定すると,成年後見人等が就職し,成年被後見人等の援助の職務を開始をする一方,成年被後見人は民法7 条,被保佐人は民法13条1 項, 2 項,被補助人は民法17条1 項による行為能力の制限を受ける.
7  審判前の保全処分
 成年後見等開始の審判を申し立てても,審判が確定して効力が発生するまでの間に本人の財産の管理や身上監護について手当をしなければ,本人に取り返しのつかない損害が生じるおそれがあったり,本人の日常生活に不便が生じる場合がある.そのような場合に,本人の財産の保全や身上監護のため,必要な処分ができるようにしたのが審判前の保全処分である.
8  渉外事件
 近時の社会の国際化に伴い,裁判においても,外国人が当事者となる事件や外国に居住する日本人が当事者となる事件が増加しており,後見の分野も例外ではない.このように,当事者の国籍,住所,常居所,居所等の法律関係を構成する諸要素が複数の国に関係を有する事件を渉外事件という.
 
第3 章「成年後見人等の職務と権限」
 成年後見人等の類型ごとに果たすべき職務,そのために有する権限,受けるべき報酬等の問題が具体的に論述される.
1  選任直後の実務
 成年後見人は,成年被後見人の生活,療養看護及び財産の管理に関する事務を行うものである(民法858条).成年後見人がその権限を適切に行使するためには,就任後早期に,成年被後見人の財産等を管理している者からその引継ぎを受け,成年被後見人の財産状態を正確に把握した上で,収支の計画を立てる必要がある.そのため,成年後見人は,まず,成年被後見人の財産の調査をするとともに,収支の計画を立て,後見事務計画書及び財産目録を作成しなければならない(民法853条1 項).
2  財産管理
 成年後見人の職務は,成年被後見人の生活,療養看護及び財産の管理に関する事務を行うことである(民法858条).中でも,財産管理は,成年後見人の職務の中核をなすものである.この事務を行うため,成年後見人は,成年被後見人の財産の管理権(民法859条1 項前段)を有するとともに,成年被後見人の財産に関する法律行為についての代理権(民法859条1 項後段)及び成年被後見人が行った法律行為の取消権(民法9 条本文)を有する.成年後見人が事務を行うにあたっては,成年被後見人の意思を尊重し,かつ,その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない(民法858条).
3  身上監護
 成年後見人は,成年被後見人の財産の管理のほか,生活,療養看護の身上監護に関する事務を行う(民法858条).身上監護の事務としては,①介護・生活維持に関する事務,②住居の確保に関する事務,③施設の入退所,処遇の監視・異議申立て等に関する事務,④医療に関する事務,⑤教育・リハビリ等に関する事務等がある.成年後見人の職務は,これらに関する法律行為及びこれに当然伴う事実行為に限られ,食事の世話や実際の介護等の事実行為は含まれない.すなわち,これらに関する契約の締結,相手方の履行の監視,費用の支払い,契約の解除等が成年後見人の事務の内容となる.
4  費用・報酬等
ア 費用
 成年後見人は,その就職の初めにおいて,成年被後見人の生活,療養看護及び財産の管理のために毎年支出すべき金額を予定しなければならない(民法861条1 項).生活費は,成年被後見人の生活に要する費用であって,食費,医療費,水道光熱費,家賃・地代,固定資産税・住民税,健康保険料,介護保険料等がある.療養看護費は,成年被後見人の療養看護に要する費用であって,医療契約,介護契約,施設入所契約等に関する費用がある.
イ 報酬
 家庭裁判所は,成年後見人及び成年被後見人の資力その他の事情によって,成年被後見人の財産の中から,相当な報酬を成年後見人に与えることができる(民法862条).
5  事務報告等
 家庭裁判所は,成年後見人に対し,いつでも後見事務の報告,財産目録の提出を求めることができる(民法863条1 項).家庭裁判所は,成年後見人に対し,定期的に,①後見事務報告書,②財産目録,③収支報告書及び④添付資料の提出を求めている.
6  福祉制度等の利用
 高齢者・障害者・生活に困窮する者を支援する法制度を紹介する.社会的弱者である成年被後見人の援助にも役立ち得るものである.
7  トラブルへの対応
 成年後見人の職務に従事していると,成年被後見人が様々なトラブルに巻き込まれることがある.また,トラブルを抱えた本人を救済するために成年後見が開始されることもある.成年被後見人が遭遇するトラブルには様々な種類のものがあるが,そのうち代表的なものの対処方法を紹介する.
8  保佐人・補助人の実務
 保佐人は,被保佐人の日用品の購入その他日常生活に関する行為を除く民法13条1 項各号に定められた行為及び同条2 項により家庭裁判所の審判により別途定められた行為について同意権を有するとともに,これらの行為について保佐人の同意又はこれに代わる許可(民法13条3 項)を得ないで被保佐人がした行為について取消権を有する(民法13条4 項,120条1 項).補助人は,民法13条1 項に規定する行為の一部のうち,家庭裁判所の審判により定められた行為について同意権を有する(民法17条1 項)とともに,被補助人が補助人の同意を要するにもかかわらず,補助人の同意又はこれに代わる家庭裁判所の許可(民法17条3 項)を得ないでした行為について取消権を有する(民法17条4 項).
 
第4 章「後見等監督」
 選任された成年後見人について,家庭裁判所が選任後もその監督に当たるが,その具体的な在り方が論述される.
 家庭裁判所は,適切な成年後見人等を選任するとともに,その権限の行使につき,選任後も適正に行われているかを監視し,問題がある場合に是正するなどして,成年後見制度の運用の実効性を担保する責務を有している(民法863条,876条の5 第2 項,876条の10第1 項).このように,家庭裁判所による成年後見人等への監視及び監督作用を総称して後見監督等と呼んでいる.
 家庭裁判所は,上記のように後見人等の職務が適正に行われているかなどを監視及び監督し,ひいては成年後見人等の不正行為を防止するため,①後見等の事務の状況を審査する後見等監督処分事件と②後見人等に報酬を付与する報酬付与事件を処理している.後見人等に対し報酬付与をする際には,後見等の事務の状況を審査することになるため,この機会が不正防止の役割を果たしている.家庭裁判所は,後見等監督にあたり,後見人等が自己又は第三者の利益のために本人の財産を不当に消費する行為に対する対処を行い,次に,後見人等が行う後見人等事務としては不相当と考えられる行為についても,将来の不正行為を防止するために必要な範囲で,家庭裁判所が後見等監督の中で後見人等に対し指導,是正することが必要であり,行われている.
 
第5 章「成年後見人に対する家庭裁判所の監督責任」
 成年後見人が不正行為を行なった場合,その塡補責任に任ずるのは成年後見人自身であるが,併せてその監督に当たる家庭裁判所の責任が問題となり,その要件等が論述される.
 成年後見人が成年被後見人の財産を使い込んだ等,成年後見人の不祥事が問題となる事案が少なからずみられるようになっている.いうまでもなく,その責任は当該成年後見人が負うべきものといえるのであり,通常は,当該成年後見人について解任の審判がなされ,新たに選任された成年後見人が,成年被後見人を代理する形で,前成年後見人に対して損害賠償請求をすることになる.しかしながら,現実には,前成年後見人が使い込んだ金員を保有し続けていることは想定しにくく,着服直後に自己の利益のために費消していることが大半であろう.そのため,前成年後見人に対して損害賠償請求訴訟を提起し,認容判決を得ても,回収の見込みが立たなくなってしまう.ところで,事案によっては,前成年後見人による使い込みという事態を招いたことについて,家庭裁判所の責任も問題となるところである(民法863条,家事法124条,180条参照).その場合,成年被後見人(実際には新たに選任された成年後見人)は,国に対し,国家賠償法に基づく損害賠償を請求することが考えられる.
 
第6 章「成年後見の終局」
 成年後見等が終局する原因及びその際に生ずる問題等が論述される.
1  終了事由等
 成年後見等の終了には,後見等が必要なくなったため後見等そのものが終了した場合(絶対的終了)と,後見等そのものは終了していないが,後見人等の交代が生じて後見人等の任務が終了した場合(相対的終了)とがあるとされる.
 絶対的終了の場合は,後見等そのものが終了するため,成年後見人等は,終了の登記を申請し,管理していた財産を本人あるいは相続人に引き継ぐ義務が生じる.この場合,家庭裁判所は,成年後見等の終了認定を行い,成年後見等記録を保存に付することができる.
 相対的終了の場合は,成年後見等そのものは終了してないので,家庭裁判所は,新たな成年後見人等を選任する必要が生じる(民法840条,843条2 項,876条の2 第2 項,876条の7 第2 項).
2  民法及び家事事件手続法の一部改正
 平成28年4 月,成年後見事務の円滑化を図るため,民法及び家事事件手続法の一部が改正され,郵便物の取扱いと死後事務について,法律上の手立てがされた(平成28年10月13日施行)
 
第7 章「任意後見契約」
 法定後見制度の他に,当事者の自己決定権を尊重する制度として任意後見制度があり,その契約内容や法定後見制度との関係等が論述される.
 任意後見制度とは,自身が被保護状態に陥る前に,財産管理や身上監護に関する自己の意思,具体的には,誰にどのような方法による財産管理等をしてもらいたいのかを明示して,将来財産管理等を行う者との間で契約を取り交わしておき,自身が要保護状態に陥った後に,契約の他方当事者がこの事前の指示・合意に基づいて後見活動をするという制度であり,「任意後見契約に関する法律」(平成11年法律150号)(任意後見契約法)によって創設されたものである.任意後見制度は,自己決定の尊重の理念を非常に重要視し,福祉制度の利用者を「行政措置の対象」ではなく「契約の当事者」という能動的な主体としてとらえ直そうとするものであったといえるのであり,いわば現代型の社会福祉理念に親和する制度としての期待を担って登場したものであった.それと同時に,高齢化社会が加速度的に進展し,その経費負担が増大している現状にかんがみると,潜在的な要保護者を含めて何らかの保護を必要とする者全員について法定後見制度によるカバーをすることは,現実には相当困難な状況にあるといわざるを得ず,そのため,経費負担が可能な程度に所得を有する層に対して,報酬の支払という形態で応分のコスト負担を求めることが,任意後見制度の活用という形で期待されていたことも,付言しておかねばならないところである.
 
第8 章「後見制度支援信託と後見制度支援預金制度」
 成年後見人による不正行為を事前に防止する制度として後見制度支援信託と後見制度支援預金制度があり,その仕組みが論述される.
1  後見制度支援信託
 後見制度支援信託とは,被後見人の財産のうち,日常的な支払をするのに必要十分な金銭を預貯金等として後見人が管理し,通常使用しない金銭を信託銀行等に信託し,その払戻し,解約等には家庭裁判所の指示書を必要とするという仕組みである.包括的な代理権を有する後見人であっても,家庭裁判所が発行する指示書がなければ信託財産の払戻しができないことから,本人の財産保護の確実性が高い点が最大の特徴である.
 高齢社会の進展に伴い,成年後見制度に関する事件数が増加する一方,後見人等による不正行為は後を絶たず,家庭裁判所にとって,後見人等による不正行為への対処は喫緊の課題であり続けてきた.
 後見制度支援信託は,被後見人の財産の適切な管理・利用を図り,親族後見人による不正を事前に防止するために家庭裁判所が採り得る選択肢(オプション)の一つとして,平成24年2 月から導入された.
2  後見制度支援預金制度
 後見制度支援預金とは,本人の財産のうち,日常的な支払をするのに必要十分な金銭を預貯金として後見人が管理し,通常使用しない金銭を後見制度支援預金口座に預け入れる仕組みである.通常の預貯金と異なり,後見制度支援預金口座に係る取引(入出金や口座解約)をする場合には,あらかじめ裁判所が発行する指示書を必要とすることで後見制度支援信託と同様に,本人が日常的に利用してきた信用組合や信用金庫で開設することができるため,近くに信託銀行等がない場合でも利用しやすくなった.
 
第9 章「成年後見等事件の記録の閲覧・謄写」
 成年後見等事件の記録を閲覧及び謄写をする手続及び要件が論述される.
 成年後見,保佐,補助及び任意後見契約法に関する審判事件(本章では「後見等事件」ということがある)は,家事法の別表第一に掲げる家事審判事件であり,その記録の閲覧等(本章では,記録の閲覧若しくは謄写又は記録中の録音テープ又はビデオテープ等の複製を指すものとする)は,家事法において家事審判事件の記録の閲覧等を規定する47条の規定に服する.
 家事法47条は,記録の閲覧等の申請者が家事審判事件の当事者であるのか,当事者ではなく利害関係を疎明した第三者であるのかによって,規律を区別しており,閲覧等を許可すべきか否かの要件と,閲覧等を(全部又は一部)却下する決定に対する即時抗告の可否を異ならしめている.これは,家事審判事件の当事者が記録の閲覧等を申し立てた場合について,従来の家審法時代の規律を,当事者の手続保障を拡充する方向に改正したものである.
 
第10章「成年後見登記制度」
 戸籍とは別に創設された成年後見登記制度の仕組みが論述される.
 成年後見登記制度は,登記所において,法定後見における後見開始などの審判内容や任意後見に関する事項をコンピュータシステムを利用して登記し,登記官が登記事項を証明した登記事項証明書を発行することにより,登記された情報を開示する制度である.
 現行の成年後見登記制度は,「後見登記等に関する法律」(平成11年法律第152号)(後見登記法)に基づいて,それまでの戸籍への記載に代わる公示方法として新設された.
 従来の禁治産宣告(現在の「後見」に相当するもの)や準禁治産宣告(現在の「保佐」に相当するもの)に関する事項は,本人(禁治産者や準禁治産者)の戸籍に記載されていたが,禁治産宣告などを受けたことなどが戸籍に記載されることについてはその者のプライバシーが公にされることから心理的な抵抗感を抱く者が少なくなく,禁治産・準禁治産制度の利用が広がらなかった一因とされている.また,現行の成年後見制度では,保佐や補助などの類型において,各人の判断能力や状況に応じた支援を可能とするため様々な代理権を付与することができるが,これを戸籍に反映させる方法では対応できないとの理由から,現行の成年後見登記制度が採用された.
 
 
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