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権丈善一 著
『ちょっと気になる社会保障 V3』
→〈「V3 刊行にあたって」(pdfファイルへのリンク)〉
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ウェブ公開「あとがきたちよみ」にあたって
編集者のところに先日、著者から連絡が届きました。
最近は、第10章の社会保障がはたす3つの機能から話をしはじめています――特に、所得再分配機能。
図表36に見るように社会保障は購買力を広く全国に分配する大きな灌漑施設。このチャネルを狭めると地域経済が疲弊する。図表40にみるように社会保障は格差を防ぐ重要な社会制度。これを抑制すると格差が大きくなる。僕たちにとって当たり前のことが、世の中にはあまり知られていないことを、最近実感中です(笑)。
今ひとつ、著者より。
長年やってきた授業内容をまとめた本ですので、テキスト指定しています。ご参考までに「社会保障論」の講義要項です。
本科目では、社会保障という、現代の政府が行っている最大プロジェクトの役割と意義を理解してもらうことを目的とします。社会保障への正確な理解は、みなさんの人生の選択肢を拡げ、みなさんの生活を豊かにします。そして民主主義社会の中で生きるみなさん、のみならず資本主義社会の中で生きているみなさんにとって、この国の政治経済のあり方を決定づける社会保障への理解は、投票者のひとりとしても不可欠であります。
年金をはじめ、社会保障に関しては残念ながら誤解が多いのも事実です。そうした誤解を自ら考える力を身につける過程で解いてもらう形で講義を進め、社会保障の役割と意義を理解しながら、この国の将来を考えてもらいたいと思います。
V3 刊行にあたって
ある日,次の連絡が出版社から届く.
さきほど営業部より連絡があり,『ちょっと気になる社会保障 増補版』もおかげさまで在庫僅少となり重版を検討しているとのことです.増補から2 年経ちますので,近々改訂のご予定はあるか先生に伺ってほしい,とのことでした.
んっ?
この本,別に年金の本として書いたわけではないんだけど,不覚にもいつの間にか,年金の本だと世間では思われてしまったんですよね.この本を出したらすぐに,出版社から,次は,医療と介護もいかがですかっと言われたりして,『ちょっと気になる医療と介護』を書いてしまったし.仕方ない……となれば,年金の令和元年財政検証が発表されたし……年金本だと思われているんだから,バージョンアップするしかないっしょ.ということで,早速返事を
増補版に続く,V3 の作成に取りかかります.令和元年財政検証を反映させます.
この前,オンラインに「人はなぜ年金に関して間違えた信念を持つのか」をアップしていまして,そこにある,年金大好き度テストも紹介できればと思います.
以前は,「ちょっと気になるシリーズ」を,「再分配政策の政治経済学シリーズ」(慶應義塾大学出版会)という航空母艦から飛び立つ戦闘機と位置づけていたのですが,最近はオンライン記事という,時々うん10 万人の読者に届く,超の付く機動的な飛び道具を手に入れて遊んでいます.そこで,このV3 には,「ちょっと気になるシリーズ」にあったコーナー「知識補給」に加えて,「オンラインへGO!」という新コーナーを作りました.たとえば,上述のオンライン記事は,本文中で,次のように紹介していきます.
オンラインへGO!!
人はなぜ年金に関して間違えた信念を持つのか──もうすぐ始まる年金報道合戦に要注意『東洋経済オンライン』(2019 年8 月19 日)
ちなみに,この本にでてくるオンライン記事は,
kenjoh.com/online/
に収納していますので,お気に入りにでも入れておいてください.
先ほど書いた「公的年金大好き度テスト」もこのオンライン記事の中に入っているので,これで,紹介は終了……といきたいところですけど,それではツライという人もいるかと思いますので,このテストだけ,ここに貼り付けておきますね.
あなたが,〈師範〉になれるかどうかは,この本を手にするかどうかにかかってます──冗談でなかったりして(笑)!
ところで,オンライン記事は,他にも,『Web 年金時代』で,年金の専門家と酒を飲みながら年金の話で盛り上がるという,ちょっとというか,かなりふざけた企画「居酒屋ねんきん談義」というのも始めていますので,これも時々,登場します──いや,居酒屋談義ではありますが,日本の年金論議の最先端をいっているってウワサも(業界筋では)あったりもします.
公的年金大好き度テスト
〈初級〉□公的年金は保険である──民間の貯蓄性商品とは根本的に異なるなんて話は.何をいまさら当たり前でしょうっと思っている……
〈初段〉□公的年金は65 歳で需給しなければならないものでもない.60 歳~70 歳の(受給開始年齢)自由選択制である.
〈二段〉□支給開始年齢の引上げと,受給開始時期(年齢)の自由選択の意味・違いが分かる.
〈三段〉□マクロ経済スライドの意味・意義が何となく分かる.
〈四段〉□将来の給付水準は絶対的なもの,固定的なものではなく、可変的なもの、経済環境等によっても変わっていくが,自分たちの選択や努力によっても変えていけるものだということが分かる.
〈五段〉□対物価の実質価値と,対賃金の実質価値の違いが分かる.
〈六段〉□5 年に一度行われる財政検証で行っているのは現状の未来への投影(projection)であり,将来の予測(forecast)ではないことを理解している.
〈七段〉□年金はPDCA サイクルで定期的に状況を確認しながら改革を行い続ける制度であり,100 年間何もしなくても良い(安心)ということでなく,100 年位を見通して,持続可能性を保つためにシステムの再設計を繰り返していくことが組み込まれた制度だということが分かる.
〈八段〉□積立金がおよそ100 年先までの公的年金保険の給付総額に貢献する割合は1 割程度であることを知っており,積立金運用に関するスプレッドの意味が分かり、名目運用利回りでの議論は間違いであることを理解して,人に説明できる.
〈九段〉□Output is central の意味を知っており,積立方式も賦課方式も,少子高齢化の影響から独立ではいられないことを人に説明できる.
〈師範〉□年金改革の方向性を知るためにはオプション試算に注目すべきことを知っており,オプション試算が行われるようになった歴史的経緯を人に説明できる.
久しぶりに本書を読み直してみて,大きく数字が変わった……たとえば単年度の予算額とかはアップデートしました.最も気になったのは僕の年齢だったのでそれも上げました……おかげで,66 頁にある僕の年齢での死亡率は初版の時よりも1.2 倍に高くなってます……久しぶりに読み返してみたのですけど,書いたことをすっかり忘れていることがたくさん書かれていて,ほうっ,こんなことも書いていたのかっと,とても勉強になりました.忘れるという人間の特技は,長い人生に新鮮なトキメキを与えてくれるものです(笑).
それから,この本は「社会保障」と書いてあるのに,あまりにも年金の本だと思われるのは悔しいので,医療介護の一体改革の説明を充実させたり,『ちょっと気になる医療と介護』を出した後に盛り上がっていった医師の働き方の話など,知識補給をいくつか加えています.もちろん,令和元年財政検証をめぐる様々な議論を理解するための説明を本文の中に組み込んでいたり,年金に関する知識補給を加えたりもしています.ここだけの話,V3 は,知識補給が,初版と比べて15 個,増補版よりも9 個増えていたりもします.おまけに,初版からあった知識補給「公的年金の財政検証,そして平成26 年財政検証の意味」は「──平成26 年,令和元年財政検証の意味」とタイトルを拡張して,2 頁減って7 頁増えたりしてますし,「スプレッドへの理解」もV3 での加筆が入って,3 頁も増えています.
だから値段が上がりました! 日銀のせいでインフレが起こったんじゃないです……。と言っても,V3 で外したのもあります.「右側の経済学,左側の経済学」も外しました.
というのも,話せば長くなりますが(?)──実は,2016 年に初版『ちょっと気になる社会保障』を出して3 週間ほど後には,「知識補給 右側の経済学,左側の経済学」を書き上げて,いつか,重版の機会を得れば,これを加えて,増補版を出そうと思っていたんですね.だって,この知識補給に出てくる,「社会保障と関わる経済学の系譜」のような,ものの考え方というか,経済学の流派というか,思想というか,そういうことを知らないことには,社会保障・所得再分配という経済政策を理解するのが難しいからです.
そして幸いに,「知識補給 右側の経済学,左側の経済学」という4 頁分の文章を加えた,増補版を出すことができたのですけど,やはり短い文章で理解してもらうにはムリがあると思い,この本の次に書いた『ちょっと気になる医療と介護』では,ひとつの章を設けて,18 頁に及ぶ「手にした学問が異なれば答えが変わる」を書いてしまいました.しかーし,やはりそれでも言葉を節約しているために,まだ難しく感じるかもと思い,一冊の本『ちょっと気になる政策思想』を書くに及んだわけです.したがって,この本の「増補版」にはあった「知識補給 右側の経済学,左側の経済学」はなくなってしまいました……と言っても,いま説明したように,こうした話が大事じゃないということではなく,本一冊分くらい重要ってことですからね( ̄。 ̄)ボソ……
2016 年に初版を出した『ちょっと気になる社会保障』から書いていたことは,財政検証で重要な試算はオプション試算であり,この試算で示される,将来世代の年金給付水準を上げる方向に年金改革が行われるためには,どうしても世論の後押しが必要になるということでした.いや,もっと言えば,次の年金改革をするために財政検証があり,その改革のシナリオはオプション試算に書かれているっと思った方が,年金の周りで今何が起こっているのかを理解しやすいですね.
僕が書く文章には,「正確な情報に基づく健全な世論」という言葉がよく出てきます.その意味を,このへのへの本を手にした人たちに理解してもらえればと願っています.
前回の改革,平成28 年年金改革では,マクロ経済スライドの見直しが行われました.この改革については,さっそく,「知識補給の番外編」? として紹介しておきましょう──普通は,知識補給は後の方にあるものなんですけどお許しを.
知識補給・番外編
「平成28 年年金改革」に寄せて
『企業年金総合プランナー』2017 年3 月第29 号
“親思う,心にまさる親心……”
吉田松陰,辞世の句の前半部分です.子が親を思う気持ちよりも,親が子どもを思う心の方がまさっている,そして……と続きます.
昨2016(平成28)年,年金改革法案が国会で審議されていた頃,その様子を多くのメディアが報じていました.記者たちは,おそらく40 代,50 代でしょう.報道の様子を眺めながら,冒頭の句を思い浮かべていました.
今回の年金改革論議の特徴は,メディアがこぞって,民進党の「年金カット法案」というネガティブキャンペーンを批判し,与党の法案を,支持はするが,その改革では不十分だという論調でそろっていることでした.年金報道において,このようにメディアの論調が整然と並ぶのを目にするのは,長く年金の世界をながめてきた私にとっては,初めてのことでした.
記者達の親は年金の受給世代,同時に,彼ら記者達は子ども世代の将来も考えている人たちであったはずです.その記者たちが,今回の法案に組み込まれていた,「年金額の改定ルールの見直し (1) 名目下限を維持しつつ賃金・物価上昇の範囲内で前年度までの未調整分を調整(キャリーオーバー方式)(2) 賃金変動が物価変動を下回る場合に賃金変動に合わせて年金額を改定する考え方の徹底(賃金徹底)」を評価したのは,親心が親思う心にまさっているからだけではないと思われます.という(以下つづく)