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あとがきたちよみ
『政治学[アカデミックナビ]』

 
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田村哲樹・近藤康史・堀江孝司 著
『政治学[アカデミックナビ]』

「はじめに」「コラム1-4 政治の独自性をめぐって」「コラム4-1 日本における派閥政治」「コラム8-1 初の女性の首相にはいつ誰が?」(pdfファイルへのリンク)〉
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はじめに
 
 新しく,政治学の教科書を作った。政治学の中にもさまざまな分野があり,近年では,その分野ごとの教科書も多く出版されるようになっている。「さまざまな分野」というのは,たとえば政治過程論(政策過程論),比較政治,行政学,政治史,政治思想(政治理論,政治哲学),国際政治などである。本書は,こうした分野ごとの教科書ではない。政治学の全体をカバーする目的で作られた本である。大学の講義名でいうと,「政治学原論」「政治学概論」「政治学(入門)」といった講義での使用を念頭に置いている。
 それでは,「政治学原論」「政治学概論」「政治学(入門)」といった講義の目的は何だろうか。この問いへの答えは,さまざまでありうる。ただし,この本の筆者たちは,その目的は,単に政治学の各分野の知識あるいは実際の政治現象そのものを包括的に解説することではないと考えた。そうではなく,本書が伝えようとするのは,「政治学的」なものの見方・考え方である。単に,政治現象を見たり知ったりするだけでは,それを「政治学的」に見ることができるようになったとは言えない。政治現象を「政治学的」に見ることができるようになるには,「『政治学的』とはどういうことか」についての基本的理解が必要なのである。
 しかし,同時に本書の筆者たちは,「政治学的」なものの見方は一つではない,ということも伝えたいと考えた。近年の政治学教科書の中には,政治学的なものの見方・考え方を伝えるために,特定の理論的立場を,教科書全体を貫く導きの糸として採用するものもある。たしかに,このような方式にすれば,政治学が政治現象をどのように見るのか・考えるのかについて,一貫した立場から「わかりやすく」示すことができるかもしれない。しかし,本書では,このような形で「政治学的」なものの見方・考え方を特定のそれへと縮約するのではなく,それが実際には複数存在することを示そうと努めた。それは筆者たちが,政治学の専門化がますます進む中でも,なおもさまざまな「政治学的」なものの見方・考え方があることを伝えたいと思っているからである。本書で勉強した後,読者のみなさんは,いずれは特定の見方・考え方に基づいて政治学の勉強を進めることになるだろう。その時,さまざまな「政治学的」なものの見方・考え方の中からどれを選ぶかは,読者の一人ひとりに委ねられている。
 「政治学的」なものの見方・考え方を提示するとともに,その多様性も伝えるためにはどうすればよいかと考えた結果,本書は,次のような構成となった。全体は,二部構成となっている。前半の第Ⅰ部「政治学を考える」は,政治学の全体像を提供する。「政治とは何か」を解説する第1 章に続いて,政治が行われる場(第2 章),政治の制度(第3 章),政治の登場人物(アクター)(第4 章)について,順に解説した。
 全体として,第Ⅰ部は,政治学の教科書として比較的オーソドックスな内容の中に,本書独自の内容も込めたものとなった。とくに,第1 章「政治の境界」は,少なくとも近年の教科書に比べれば,やや異例な内容と分量となっている。ここでは,政治を政治以外のもの(経済,社会,法)と付き合わせることを通じて,「政治とは何か」についての理解を深めるとともに,政治を「政治学的」に扱うとはどういうことかについてもわかってもらえるように努めた。第2 章の「政治の場」には,親密圏・家族および国家を超える政治の場も含めた。第3 章「政治の制度」には,国家を超える統治機構も含めた。第4 章「政治の登場人物」では,社会運動についてもページを割いて説明した。第Ⅰ部全体を通して読めば,「政治学を考える」ことになり,読者があらかじめ持っていた「政治」や「政治学」のイメージが少し(かなり?)変わるはずである。
 後半の第Ⅱ部「政治学で考える」は,より独自性のある構成となっている。ここでは,章ごとに特定のテーマを選び,それぞれのテーマについて複数の「政治学的」な見方・考え方を解説している。選んだテーマは,民主主義(第5 章),福祉国家(第6 章),経済(第7 章),ジェンダー(第8 章),文化(第9 章)の五つである。実際に読んでいただければわかるが,これらはどれも,政治学の重要テーマである。そして,これらのテーマのそれぞれについて,本書では,「記述」「説明」「規範」という,政治学の三つの基本的考え方に基づいて解説することにした。
 この三つの基本的考え方の意味と違いについては,第Ⅱ部の「はじめに」で詳しく説明する。ここでは,本書第Ⅱ部が,「記述」「説明」「規範」のそれぞれの考え方に依拠した場合に,各章のテーマがどのように異なって扱われることになるのかを示すように作られている,ということを述べておきたい。たとえば,第5 章を読めば,同じ「民主主義」というテーマ─いかにも「政治学的」なテーマ─であっても,複数の勉強・研究の仕方があるのだということを,さらには政治学の多様性を理解することができるはずである。第Ⅱ部のタイトル「政治学で考える」は,読者がこのようなところに到達することを願って,つけられている。
 本書では,読みやすさや学修のための工夫も行った。各章はさらに節に分かれているが,(章ごとではなく)節ごとに「まとめ」をつけ,内容を復習し理解を深めることができるように配慮した。「コラム」欄を原則として各節ごとに設け,学修の「息抜き」となりそうな話題や発展的な内容について取り上げた。各章末には,「文献ガイド」を設け,勉強をさらに進めたい読者への道案内とした。また,重要な用語・人名はゴチックで示し,巻末の「用語・人名解説」でもそれぞれ取り上げた。
 筆者の一人が,本書についての相談を初めて受けたのは,2013 年の早春のことである。それ以来,数年にわたって各自が草稿を書いては執筆者会議で検討することを繰り返した。執筆者の3 人は,互いの研究と性格を熟知していた。そのため,執筆者会議では毎回遠慮なく意見を言い合うとともに,電子メールでのやり取りも含め,互いのよさを活かすべく共同で思索と検討を重ねることができた。その結果,本書は,著者3 名の完全な共著として刊行されることになった。そんな長くて短い執筆期間のあれこれを,少し懐かしく思い起こす。
 最後に,勁草書房編集者の上原正信さんにお礼を申し上げたい。上原さんは,本書の立ち上げに尽力されるとともに,執筆者会議のすべてに出席し,時には遠慮のないコメントを寄せられた。もちろん,編集・校正においても,細心の注意を払っていただいた。自信を持って本書を送り出すことができるのは,こうした上原さんの熱意と努力のおかげである。
 
著者一同
 
 
コラム1-4 政治の独自性をめぐって
 
 本章では,政治ではないもの(経済,社会,法)との違いの明確化を通じて,それらに還元できない政治の独自性を明らかにしてきた。
 しかし,近年,政治の独自性を強調することに対して批判が提起されている。それは,政治学が政治の独自性を追究するあまり,政治を社会の状況や問題と切り離された形で理解することになり,何のために政治の独自性を追究しようとしていたのかがわからなくなってしまう,という批判である。政治学は,単に政治の独自性を探究するのではなく,それを現実に存在する抑圧や不平等などの社会問題と関連づける方向に進むべきである(森 2014; McNay 2014)。
 この問題提起は重要である。しかし,だからといって具体的な社会問題との関連を強調することは,今度は,政治そのものの意義の不明瞭化をもたらしかねない。たとえば,社会的な不平等や抑圧が明確に存在しており,その解決を目指すのであれば,政治ではなく法(司法)に訴えるほうが確実かもしれない。また,そもそも「何が不平等か」「何が抑圧か」をめぐって社会に生きる人々の間に深刻な見解の相違が存在することこそ,政治が必要とされる理由であった。社会問題との関連の強調は,「何が平等か」「何が抑圧か」への答えをあらかじめ確定されたものとして取り扱うことにならないだろうか。その場合,政治にはどのような存在理由があるのだろうか。
 このように,政治の独自性を明らかにしようとすること自体が,政治学における論争的な問題なのである。
 
 
コラム4-1 日本における派閥政治
 
 戦後日本政治における政党政治を語る際に,とりわけ自民党において注目されてきたのが派閥である。とくに,自民党一党優位期の日本政治は,派閥間の争いを中心に描かれることも多く,いまでも新聞などではそのような見方がされる場合がある。
 なぜ,派閥は生まれたのだろうか。中選挙区制期においては,同じ選挙区で同じ自民党の候補者に勝つことが必要な場合が多く,そのための資金調達や,有権者の陳情を処理するために,有力な派閥に属することが議員にとってメリットになってきた。他方,派閥領袖の側にとっても,自民党総裁選などで票を集めるためには,派閥メンバーを多く抱えているほうが有利となるため,派閥を作るメリットがあった。中選挙区制や総裁選という制度が,派閥政治が生まれる背景にあったのである(→第3 章第2 節)。
 しかし,選挙制度が小選挙区比例代表並立制に変わると,少なくとも議員の側にとってはこのようなメリットは失われる。では,派閥政治はなくなりつつあるのだろうか。この点については,「なくなりつつある」という議論と「今も残っている」という議論の両方が見られる。この点は,単に日本政治をどう見るかという点だけではなく,政治家の行動に制度がどう影響するかという問題とも結びついている。
 
 
コラム8-1 初の女性の首相にはいつ誰が?
 
 2019 年現在,日本にはまだ女性首相は誕生していないが,世界を見渡すと,女性が首相や大統領になる国も増えつつある。主要先進国でも,ドイツで2005年にアンゲラ・メルケルが首相となり,イギリスでは2016 年にテリーザ・メイが,1990 年のマーガレット・サッチャーの辞任以来,久しぶりに,女性首相に就任した。アジアでは,以前から女性リーダーが比較的多かったが,近年では,韓国で2013 年に朴槿恵(パク・クネ)大統領が,台湾では2016 年に蔡英文(ツ ァイ・インウェン)総統が誕生している。
 また,2016 年のアメリカ大統領選では,民主党の大統領候補にヒラリー・クリントンが選出され,2017 年のフランス大統領選では,マリーヌ・ルペンが決選投票に残るなど,大統領にあと一歩のところまでいった女性政治家もいる。
 これらの国々と日本との違いは何だろうか。もちろん,一つの要因に絞ることはできないが,本文で見たとおり,まずは女性議員を増やすことが必要なことだけは確かだろう。
 
 
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