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『国家賠償法コンメンタール 第3版』

 
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西埜 章 著
『国家賠償法コンメンタール 第3版』

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第3版はしがき
 
 第2 版刊行後,6 年が経過した.この間に極めて多くの判例と文献が出されており,単行本も数冊刊行されている.それらの判例・文献を整理し,分析することが急務となってきた.これが,本書改訂の第一の目的である.
 本書は,研究書としては深みに欠けており,また,実用書としては詳細さに欠けているとして,いずれの立場からみても,中途半端であるとの謗りを免れないかもしれない.しかし,それでも,今回改めていくらか理論的に検討し,詳説している箇所もないわけではない.そのようなものとして,戦後補償訴訟,公権力行使該当性,違法性の概念,反射的利益(論),規制権限の不行使,立法の不作為,違法性と故意・過失,学校事故,公務員の個人責任,求償権,安全配慮義務違反,設置・管理の瑕疵概念,消滅時効,相互保証,国家賠償法の改革等をあげることができる.これが,本書改訂の第二の目的である.
 本書は,できるだけ説明が平易で,使い勝手の良いものであることを目指している.項目が複数に跨っていることが少なくないが,その場合には,重複を厭わずに複数の箇所で取り上げている.「前述〇〇頁」「後述〇〇頁」とクロスレファレンスを付して該当頁数を記してあるので,そちらもあわせて参照していただきたい.また,事項索引・判例索引の作成にも相当の目配りをした.初版以来一貫してこのことに努めてきたが,今回はさらにその趣旨を徹底することにした.これが,本書改訂の第三の目的である.
 本書の執筆にあたり,実に多くの方々の著書・論文等を参照し,引用させていただいた.誤解していたり不正確な理解をしている箇所が少なくないかもしれない.また,貴重な文献であるにもかかわらず,私の情報収集が不十分なために,本来は参照・引用すべきものが抜け落ちているおそれも多分にある.お詫びするとともに,改めてご教示をお願いしたい.
 今回もまた,編集部部長の竹田康夫氏のお世話になった.曲がりなりにも刊行に漕ぎ着けることができたのは,ひとえに同氏の暖かい励ましのお蔭である.記して深謝の意を表する.
 
2020 年5 月1 日
春秋の残り少なきを思いつつ,「老馬の智」の教えに学ぶ.
西埜章
 
 
第2版はしがき
 
 初版を刊行してから2年が経過した.この2年間をみただけでも,おびただしい判例・文献が出ている.これらを整理・分析して,最新の情報を提供することを企図した.
 改訂に当たり,新しい判例と文献を追加したほか,誤字等の訂正や文章の平易化を図った.また,小見出しを多く付し,事項索引を詳細化することにより,使いやすいコンメンタールになることを心がけた.
 新たに項を起こした事項は,その主要なものをあげれば,「結果不法と結果違法の異同」(第1章第7節第2款),「戦後補償訴訟と立法の不作為」(第1章第7 節第10 款),「武器の使用」「警察の不作為」(第1章第7節第13 款),「戸籍事務における過失」(第1章第8節第8款),「建築確認における過失」(第1章第8節第9 款),「国外での公権力の行使」(第6 章第3 節),などである.また,内容を補足した事項は,その主要なものをあげれば,民間委託,職務行為基準説,検察官の不起訴,体罰・いじめを苦にしての自殺,求償権の行使,安全配慮義務違反,営造物瑕疵説,消滅時効・除斥期間,などである.
 この2 年間に公刊された文献を含めて,実に多くの著書・論文・評釈等を参考にさせていただいた.私の不注意のために,重要なものを見落としていたり,あるいは,誤解したりしている箇所があるかもしれない.ご宥恕をお願いするとともに,ご批判・ご教示をいただければ幸いである.
 初版の「はしがき」の最後で,立法論の展開が今後の課題であると述べた.残念ながら,私の力不足で,この課題に取り組むことができなかった.お詫びをした上で,引き続いて次回までの検討課題とさせていただきたい.
 今回もまた,編集部部長の竹田康夫氏のお世話になった.同氏の暖かい励ましの言葉がなければ,刊行に漕ぎ着けることはできなかったであろう.記して深謝の意を表する次第である.
 
2014年2月1日
うっすらと雪をかぶった寒椿の赤い花を愛でつつ
西埜章
 
 
はしがき
 
 本書は,国家賠償法のコンメンタールである.国家賠償法のコンメンタールとしては,『注釈民法(19)』(有斐閣,1965 年)をはじめとして,これまでに大小さまざまな注釈書が刊行されてきた.いずれも,高い評価を得て幅広く利用されているが,紙幅に制限があったり,あるいは刊行から年月が経っているため,国家賠償法上の諸問題を解明するには,必ずしも十分とはいえないものである.
 最近の最高裁判例の進展にはめざましいものがあり,下級審の裁判例にも注目すべきものが少なくない.学説上も,新たな論点をめぐり活発な論議がなされている.司法制度改革が目指す国民の権利利益の実効的救済は,国家賠償制度においても緊要な課題である.本書は,このような状況を踏まえて,おびただしい判例と学説を詳細に整理・分析し,最新の情報を提供することを企図している.
 ところで,「コンメンタール」とは何であろうか.これまで暗黙の了解がなされていたためか,詳論したものは見当たらない.一般に,「注釈書」とよばれているものがこれに相当するが,注釈書の意義も,必ずしも明確なものではない.条文ごとに,その立法趣旨を明らかにし,判例・学説の動向を整理・分析し,若干の私見を付加する,というのがおおよそのイメージではないかと思われる.ただ,この点についていくらか説明している文献もないわけではない.それによれば,書物は体系書,注釈書,研究書,実用書の4 類型に大別されて,そのうちの注釈書とは,個別的規範に即してその意義を明らかにし,関連する解釈問題についての解決を示し,実務の運用指針についてもそのあるべき形を提示するものである,ということである(『コンメンタール民事訴訟法Ⅰ〔第2版〕』(日本評論社)の「はしがき」より).
 注釈書の役割についての上記の説明には,一般論としては別段異論はない.ただ,実務の運用指針についてあるべき形を提示するという点については,判例と学説が乖離している場合には学説が判例をリードするという意味なのかどうか,必ずしも明確ではない.国家賠償訴訟については判例が学説をリードしている,といわれることがあるが,学説が判例の動向を整理・分析するだけで事足りるというのでは,学説は判例追随になってしまうおそれがある.国家賠償法の領域における学説の役割は,むしろ,判例と学説が乖離している場合には,判例に軌道修正を迫るものでなければならない.本書において,コンメンタールとしての形式に沿いながらも各所において私見を展開したのは,この理由による.
 コンメンタールとしての性格上,私見を述べる場合でも,それは中庸を得たものでなければならない,といわれることがある.それゆえ,本書でも私見は控えめにしたつもりであるが,それでもいくらかは通説から外れた独自の見解を展開している箇所もないわけではない.とりわけ,国家賠償法1条と2 条の関係について,1条は行為責任を,2 条は状態責任を規定している,と理解する本書の基本的立場に対しては,批判的な見解が少なくないものと思われる.そこで,そのような批判にも配慮して,本書においては,私見を述べるに際して,判例・学説の動向をできるだけ客観的に整理・分析することを心がけた.私見を批判的に捉えられる方にも,少しは参考になるのではないかと思われる.
 本書においては,最高裁の判例だけではなく,下級審の多くの裁判例も取り上げて,その整理・分析に力点を置いた.総論(一般的理論の考察)だけではなく,各論(具体的類型の考察)にも相当の頁数を割いた.そのために頁数が1, 000 頁を超えることになったが,これによって読者は具体的素材に簡単に接することができるようになっている.また,学説の動向についても,相当量の文献を紹介し,整理・分析しているので,文献検索の面においても利用していただきたい.
 本書では,小見出しを比較的多目に付した.小見出しをみることによって,必要な事項に簡単にたどり着くことができる.また,読者の方々の多くは,本書全体を通読するのではなく,現在当面している問題点について,素早く判例・学説の動向を確認したいとの意図の下に,本書に目を通されるのではないかと思われるので,小見出しの多用は,この面においても有効であろう.さらに,小見出しは,国家賠償法の用語辞典の役割をも併有しており,この面での活用にも期待している.そのほか,本書では,関連問題や関係する事項について,「前述○○頁」「後述○○頁」とクロスレファレンスを付して該当頁数を記した.これによって,関心事項について多角的な検討が可能となるのではないかと思われる.
 本書は,最初に「序章」を設けたほかは,国家賠償法の条文に従い,第1 章から第6 章とし,最後に「附則」を第7 章として配置した.国家賠償法は全文で6 か条しかないが,その割には判例・裁判例の件数は膨大であり,争点も多岐にわたっている.そのため,国家賠償法のコンメンタールには,他の条文数の多いものと比較すると,やや特異な面が認められる.比較的多くの項目を取り上げたが,それでも割愛したものが少なくない.
 本書の執筆にあたり,多くの著書・論文・判例評釈等を参照させていただいた.文献参照についてお礼を申し上げるとともに,的はずれの批判をしたり,思わぬ誤解をしている箇所については,ご宥恕をお願いする.
 最高裁の判例をはじめとして,下級審の裁判例についても大体目を通したつもりである.膨大な判例・裁判例を一読すれば,裁判官のご苦労には敬意を表さざるをえない.判例・裁判例の読み方に誤解があったり,失礼な判例批評をしたのではないかとおそれるものである.
 国家賠償訴訟の原告は,いうまでもなく被害者やその遺族の方々である.訴訟における事実関係に目を通す度に,事故の痛ましさを感じずにはいられない.しかし,国・公共団体の責任の有無は,それとは別個に現行法の枠内で判断されるべきである.法解釈による被害者救済の拡大に努力すべきではあるが,それには一定の限界があることを認めざるをえない.
 国家賠償法が制定施行されてからすでに60 年が経過した.訴訟の量的・質的増加にもかかわらず,一度も改正されていない.文献等において,個別的な諸点については改正の必要性が説かれてきたが,これまでに本格的な立法論が説かれることはなかった.わずか6か条でもって膨大な件数の訴訟を処理するには,負担加重の感は否めないであろう.本書においては,立法論を展開することができなかったので,これが今後の課題である.
 本書は,前著(『国家賠償法〔注解法律学全集7〕』青林書院,1997 年)を,構成を大幅に改め,また判例・学説の進展にあわせて内容を刷新し,別個の書物として出版したものである.新しい判例・学説を追加したほか,前著では不十分であった箇所を再検討し,前著では触れていなかった箇所について新たに考察を加えた.さらに,これまでのコンメンタールではあまり触れられていなかった訴訟上の諸問題にも,できるだけ論及するようにした.前著に引き続き,多くの方々にご活用いただければ幸いである.
 本書の刊行については,勁草書房の井村寿人社長と同社編集部部長の竹田康夫氏のお世話になった.現下の厳しい出版事情にもかかわらず本書を刊行することができたのは,ひとえにお二人のご好意によるものである.記して深謝の意を表する次第である.
 
2012 年1月31 日
新潟の書斎にて降り積もる雪を愛でつつ
西埜章
 
 
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