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『サーキュラーエコノミー』

 
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梅田 靖・21世紀政策研究所 編著
『サーキュラーエコノミー 循環経済がビジネスを変える』

「序章 サーキュラーエコノミーが目指すもの」「終章 今後予想される変化」(pdfファイルへのリンク)〉
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序章 サーキュラーエコノミーが目指すもの
 
梅田 靖
 
 2015年12月に欧州委員会が発表した「Closing the loop – An EU action plan for the Circular Economy」(サーキュラーエコノミーに向けたEU行動計画、別名、CEパッケージ)は、2014〜2019年の欧州議会の政策の柱とされ、欧州の環境政策をサーキュラーエコノミー(以下、CE)を中心に推進することを高らかに宣言したものだった。このCEに関連する一連の政策(本書では「CE政策」と呼ぶ)は、RoHS指令、WEEE指令、ELV指令などに代表される、従来のEUにおける環境政策と本質的に異なる可能性がある。確かに従来のEUの環境政策もその時々においてものづくりのありかたに非常に大きな影響を与えた。典型的なのは、RoHS指令によって、国内の電気電子メーカーがハンダの鉛フリー化に急速に舵を切り、世界で初めて達成した事例が挙げられる。しかし、これらの環境政策の影響はまさに「環境問題」の枠内に留まっていた。一方で、CE政策は、環境問題の枠内に留まらず、CEに向けて経済の仕組み自体を変えようとする政策に見える。
 本書では、この市場経済のCE化の問題を中心に論じる。この政策課題は、資源の有効活用(Resource efficiency)と欧州の競争力強化、雇用確保を結びつけ、市場競争の座標軸を変えようとする試みであり、ひいては、ものづくりを含む価値提供のやりかたを変えようとする試みでもある。EUがこの政策課題をどこまで実効性のある形で実装できるのかについては今後の動向を見守るしかないが「サーキュラーエコノミー」という概念自体はわれわれが進むべき社会の将来像を示しており、国連のSDGs(Sustainable Development Goals)と同様にこれ自体を否定することは難しい。すなわち、遅かれ早かれCEが呈示するような社会に移行することは不可避であり、リスクの高いシナリオとして、CE政策が急速に実装される状況に対して、日本の製造業もいまから備えるべきである。この変革は、欧州域内でビジネスを行う日本企業に大きな影響を与えるのは当然として、この考え方がグローバルスタンダード化し、中国をはじめアジア諸国にも広がった場合、この考え方についていけない日本企業が取り残される危険性は極めて高い。参考として「終章」では、CE政策で今後起こりうる、また現在起きつつある変化をまとめた。この変革に備えるには、CE政策が暗示している市場競争の座標軸がどのように変わるのか、ものづくりを含む価値提供のやりかたをどのような方向に誘導しようとしているのかを読み解く必要がある。そして来たるべき変化に備えることが重要であろうというのが、21世紀政策研究所「サーキュラーエコノミー研究会(CE研究会)」の考えかたであり、またそれに対する現時点でのできる限りの解答を試みることが、本書の目的である。
 はじめに、CE研究会の活動の目的と概要を紹介する。CEはサステイナブルな社会の形成に関して欠かせない理念だが、欧州のCE政策ということになると、廃棄物、フードウェイストの問題、また近年、非常に騒がしい海洋プラスチックなどのプラスチック廃棄物の問題といった多様な側面があるため、少々わかりづらくなっている。このようななかで、特に日本のものづくりメーカーを中心とした場合に、これをどのように受け止めてビジネスチャンスにつなげていけばいいのか。こうしたことを考えたいというのが、まずCE研究会の目的になる。
 
欧州調査
 CE研究会では2019年の1月、欧州調査を行った。CEは実際に欧州の中ではどのように受け止められているのか、欧州委員会はどのように考えて、どのように進めようとしているのか。具体的には、欧州における関係各方面の政策に関する最新の取り組み、また新たな規制、事実上の参入障壁となるようなリスクがあるのかないのか、新規ビジネスモデルへの発展の可能性があるのかないのか。これらを現場で見て、調べてきた。調査先のひとつとして、ヴェオリアというメガリサイクラーといわれているインフラ企業を調査した。
 調査結果を簡単にまとめると、まずCE政策というのは、具体的な指令や法規制のかたちで具体化が進んでおり、企業はCEを取り込んだ経営戦略をすでに実践し始めている。規制を待つというより、規制に先立ってビジネスチャンスをアグレッシブにとりにいくような姿勢が見えた。今回の調査では、特に設備保全プラットフォームの戦略や地域の資源を循環させるソリューションの戦略といったビジネスチャンスに結びつけるようなビジネスモデルを目の当たりにすることができた。
 
EUのサーキュラーエコノミーが経済の仕組みを変える
 まず、筆者が最初にCEの説明を受けた際の理解を示しておく。
 CEのイメージだが、EUが提案する循環経済(CE)のイメージ図(図表序-1)の中で、われわれが注目するのは「枯渇性資源」だ。再生可能資源と枯渇性資源がそれぞれ循環の輪を描いている、それも多様な循環の輪を構成することが重要になる。シェアリング、リユースやリマニュファクチャリング、リサイクルも当然入るが、こういったものをうまく組み合わせて資源がそもそも循環するような社会、それが経済のメカニズムにエンベッドされているのが、図からは見て取れる。
 欧州の人々はリニアエコノミーからサーキュラーエコノミーというキャッチフレーズを使うが、そのようなかたちで経済の仕組み自体を変えようという動きがCEだと理解していい。
 Systemic Eco-Innovation ともいわれるが、漸進的に少しずつ改善するのではなく、大きな変化を巻き起こすモデル、それがCEだ。リユースやメンテナンスやアップグレードや材料リサイクルなど、多様な循環を組み合わせて資源効率を大幅に拡大する、高度化する。再生可能資源の材料を使用する。使用済みのものは「ごみ」ではなく資源であり、大量生産ではなくカスタム化する、資源を枯渇させるのではなく再生する。「製品サービスシステム」、すなわち製品をつくり、販売し、使って、捨てるのではなく、製品とサービスをセットにして機能や体験を提供するような仕組みを重視している。
 それが結局のところ欧州圏内の雇用の確保とEUの産業競争力の強化につなげるのがCE政策である、という言い方をしている。筆者も最初に聞いた時はクエスチョンマークが点灯し、どうやって循環を産業競争力強化と雇用に結びつけるのだろうかと思ったが、ビジネスの仕組み、市場競争の仕組みを変えていくことにより実現するというのが、EUの基本的なスタンスだと理解した。
 これらの動きに関して、この研究会もそうだが、国内のさまざまな分野で「どういう黒船が来るのだろう」という議論がさまざまに行われている。議論を整理すると次のようになる。まず、このような変化が起こりうる原因のひとつは多分「価値観の変化」だろう。モノを所有する幸せから経験価値とか体験を重視するようなコトへの変化が、ひとつのドライビングフォースになっているのだと思われる。
 次が、メーカーサイドに立つと気になるところだが、モノをつくるメーカーが主役というのではなく、循環をうまくコントロールするようなビジネス主体、マネージしていくようなビジネス主体、これは筆者の言葉だが「循環プロバイダー」と呼ぶとすると、今後は彼らが主役になっていくのではないか。いままで循環型社会というと動脈系・静脈系というような言い方をしてきたが、そのようにザックリ分けるのではなく、もう少し細かい循環が網の目をつくるように構築されていく「毛細血管」型なのではないかと思われる。そして重要な基盤技術が欧州が力を入れており、わが国が後手に回っている「デジタル革命」である。
 
EUのCE政策の背景
 このようにCE政策が出てきた背景には、ひとつには、資源の制約が今後極めて大きくなっていくのではないか、という予兆がある。人類の活動が地球の許容量を超えつつあるという危機感が急激に大きくなっている。一方で、EUというレジームを維持するためには雇用を強調した政策を打っていかなければならず、欧州市場の中で、また、グローバル市場の中での競争力もつくっていかなければならない。このようなことは欧州委員会の文書にはひと文字も書かれていないが、それがまずは欧州市場における非関税参入障壁のようなかたちで表れかねないというのが、われわれの危惧である。
 ここまでのことを大まかに整理すると、英国のエレン・マッカーサー財団が発祥といわれている、理念としてのCEという考え方が一方にあり、もう一方でそれを欧州における実社会、現実の世の中に実現するための施策として欧州のCEパッケージがある。この2つの切り分けが、まず必要である。
 エレン・マッカーサー財団のいうCEの理念は、日本において1990年代から提唱されていた循環型社会のある種の正常進化ではないだろうか。1990年代には入っていなかった、いくつか重要な要素が加わっている。例えば、シェアリング、製品サービスシステム、そして経済システムとしての「循環経済」だ。さらにCEパッケージは政策目標として、循環型社会にはなかった、雇用の確保やEUの競争力強化をうたっている。
 廃棄物問題、フードウェイスト問題、海洋プラスチックの問題という目前にある資源循環の問題と、競争力を高めるための市場経済のCE化の問題が、それを意図したかどうかはわからないが、混合しパッケージ化されているため、問題の本質を見えにくくしているのではないか。
 
従来型のEU環境政策との違い
 従来型の、いわゆるEU指令というものがいくつかあるが、この違いを簡単にまとめてみよう。例えばRoHS指令、WEEE指令、ELV指令はよく知られているが、これらはそのときどきで、ものづくりのありかたに、大きなインパクトを与えた政策であることは間違いない。例えば、前にも述べたようにRoHS指令によって、鉛フリーハンダを開発して導入していかないと欧州域内では販売できなくなり、実際に、わが国は先んじて開発に成功したことでイメージアップに貢献できた。
 しかし一方でその影響は、大雑把にいってしまうと、環境問題の枠内に収まっていた事柄ともいえる。CEは、この枠内には必ずしも留まらずに、経済の仕組み自体を変えようとする政策である。理念としてのCEを実現するためには、経済の仕組みのほうを変えないと素直には移行しないので、政策によって市場を変えていこうとする施策を、EUは打ち出した。これがわれわれの研究会のひとつの結論である。
 いま、わが国のものづくりも、このEUの政策にプロアクティブに対応していかないと、非常に困難な局面に立たされるのではないか、それがわれわれが抱いた危惧でもある。
 
欧州企業がCEに取り組む理由
 欧州企業がCEに取り組む理由として、現地でのヒアリングの結果になるが、必ずしもCEパッケージに代表される法律に対応することだけが本旨ではないようだ。欧州の人々は言い方がうまく、法律が怖いから、という言い方はしない。CEという理念が重要だから、それに少しでも近づくようなビジネスをきちんと展開していく、という言い方をする。CEという考え方は欧州だけでなく、世界中のどの地域においても重要であるから、それに対し競争力の優位を確保するために先手を打つことが重要である。いまから準備しておけば、コストミニマムで対応が可能になるという。これに対して、ただ「規制」を待っているだけでは、市場競争上不利になるかもしれない、というわけだ。
 日本ではCEというと、環境部門の中でちょっと話題になるぐらいではないだろうか。しかし実際には、製品設計のつくり込みやビジネスのやりかたを変える、情報部門と協力してデジタルプラットフォームを活用する、または経営の根幹に反映させることが必要で、そこまで声が届いていないのが現状ではないか。
 単純化してしまうと、日本企業は従来の環境対策の延長線上でCEをとらえていて、規制ができたら対応しましょう、という姿勢に見える。欧州は経営の意思決定にCEの理念を取り込み、各事業へも浸透させてきている(図表序-2)。
 
CE政策の懸念事項
 逆にCE政策の懸念事項だが、CEは、つまり、必ずしもEUのCEパッケージという意味ではなく、エレン・マッカーサー財団のいうCEは、理念としては抗いがたいところがあり、これを超えるような一般的なサステイナビリティに向けた理念を打ち出すのはなかなか難しい。一方で、CE政策は欧州において、たまたまこういうかたちをとっているだけであり、ワン・オブ・ゼムでしかない、もしくはCEの実現政策の唯一の正解というわけではない。もっと、地域ごと、企業ごとに異なるCEの実現手段があるだろう。だからこそ、この欧州のCE政策がグローバルスタンダード化することが怖いのである。
 欧州のCE政策がうまくいくかどうかわからない、そんな点はいくつか挙げられる。実際に政策の実効性があるのかどうか、欧州の社会がCE社会を実現するような方向に行くのかどうか。例えば、実現までには相当時間がかかるのではないか、一部の企業だけが先走っているのではないか、リサイクルやメンテナンスの単純作業が増えて労働単価が下がるのではないか。できない理由を探せばたくさん挙げることができる。しかしネガティブな要因を挙げるのではなく、実現した場合を想定してアクションを打って行っていくことが重要である。
 将来の方向性としてCEの理念は間違っていない。となれば、今後のシナリオとして、欧州のCE政策が、急速に実装された場合にさまざまな転換が求められるだろうから、そういう場合を想定して行動の準備をしておくことが必要ではないか。そのためにはどうするか、CEを実践する欧州企業の人はこう言っていた。あらかじめアクションをとること、さまざまなステークホルダーと双方向のコミュニケーションをとること、そして実施していることを外へ向かって発信すること、この3つを実行することが重要だという。
 
日本企業に求められるアクション
 われわれが、やらなければならないこととは、なにか。ひとつは、CEパッケージと連携させて、例えば循環型社会2・0というような、日本版のCEパッケージをつくるということ。これはビジネス界ではなく、官庁が主導して行うべきだと思う。このさきがけとして、2020年度版循環経済ビジョンが2020年6月に発表された。もうひとつは、CEが急速に実装された場合、欧州圏内でのビジネスを維持し、展開するためのアクションが必要になるということ。また、アジアなどで普及した場合にも、同地域で対応していけるアクションおよび準備をしていく必要がある。
 以上をふまえて、これから起こるであろうことを、終章とやや重複する内容であるが、重要なことなので、簡単に11項目にまとめた。
(図と表は割愛しました。pdfファイルでご覧ください)
 
 
終章 今後予想される変化
 
梅田 靖
 
 エレン・マッカーサー財団に端を発するCEという考え方は、資源消費量を大幅に削減し、サステナブルな社会を目指すというある種の理想論であり、環境問題対応に留まらず、経済メカニズムを変革し、ものづくりを含む価値提供のやりかたを変えようとする考え方を内包している。これを欧州で実現しようとするCEパッケージは、このCEの実現を目指すことによって、廃棄物削減、資源消費量削減を実現すると同時に、欧州の雇用と市場競争力を高めようとするところに特徴がある。このCEパッケージには、廃棄物問題、フードウェイストの問題、海洋プラスチックを含むプラスチック問題などと、市場経済のサーキュラーエコノミー化(とそれを通じた欧州の市場競争力の強化)の問題がまぜこぜにパッケージ化されており、問題の本質を見えにくくしていた。しかし、2020年に公表された「欧州グリーンディール」、「Circular Economy Action Plan」により後者の市場経済のサーキュラーエコノミー化への動きが明確になってきた。本書では、この問題を中心に議論してきた。
 欧州委員会環境総局の担当者が「サーキュラーエコノミーの全体的な考え方は経済モデルを変えていくことである」と発言しているように、この市場経済のサーキュラーエコノミー化を本当に実現しようとしており、また今回の調査でまわった欧州企業もCEに対して極めて強い意気込みを持っており、なおかつそれをビジネスに結びつけることに成功している。すなわち、これらの欧州企業のCEの位置づけは、環境問題への「対策」から、CEを実現することで事業収益をもたらす「経営戦略」という位置づけに変化している。この企業のCEに対する強い意気込みを直接感じられたことが、今回の調査のひとつの大きな収穫であった。具体的には、シーメンスは設備保全プラットフォーム戦略を、ヴェオリアは地域資源循環ソリューション戦略を開発し、それぞれデジタル技術の力を活用しながら推進している。今回の調査結果からは、B2CよりはB2Bを中心とし、ビジネスモデルの開発とデジタル技術に優位性を持つ企業が、CEのビジネス化に成功しているように見受けられた。さらに、これらの企業では、経営層から現場まで首尾一貫した適切なマネジメント体制を敷いている(第2章4参照)。ここは日本企業も見習わなければならない点だろう。
 人類の持続可能性を考えた場合、遅かれ早かれCEが呈示するような社会に移行することは不可避だ。欧州に留まらず、この考え方がグローバルスタンダード化し、中国をはじめとしたアジア諸国においても、CE政策が急速に実装された場合に対して、リスクの高いシナリオとして、日本の製造業もいま備えるべきであると考える。
 確かに、一連のCE政策が失敗に終わる可能性もある。本当に雇用確保につながるのか(労働単価の低下を招くのではないか)、CE型のビジネスが市場競争力を高めるということは、市場に対して現在のかたちを大きく変形させることを意味するので、そこまでCE政策を実効性のあるものに持っていけるのか、さらには、リユース、リマニュファクチャリングなどの材料リサイクル以外の循環手段がB2C製品を含めて量的にマジョリティになれるのか、安定した循環システムを構築できるのか、などさまざまな疑問点を挙げることができるのも事実である。
 しかし一方で、資源を中心とした持続可能性に関して、CEに匹敵するほどの首尾一貫して、体系的な代替案を人類が持ち合わせていないことも事実であり、CEが失敗した場合、人類の持続可能性が担保できないというデストピア・シナリオが浮かび上がる。また、2019年から2020年にかけて発表された「欧州グリーンディール」、「欧州新産業戦略」、「Circular Economy Action Plan」を見る限り、EUはCEに向けた動きを加速しており、その実現に自信を深めていると思われる。したがって、日本企業はCE政策が欧州、アジアで展開された場合にも、競争力を維持向上させ、ビジネスで勝つための準備をしておくべきである、というのが本研究会の結論である。
 
 最後に、本研究会の議論、欧州調査活動を通じて、今後起こりうる、現在起きつつある変化を以下にまとめる。
 
サーキュラーエコノミーで今後起こりうること
1 CEは、温暖化と並ぶ(もしくはそれ以上の)国際的なホットイシューとなっている
 CEは、温暖化に並ぶ(もしくは、それ以上の)グローバルでのホットイシューであり、国際社会での注目度は高まる。CEの理念基づいた経済政策・産業政策が2019年G20でも取り上げられた。
2 ものづくりのありかたの変革を促し、雇用やサプライチェーンにも影響を与える
 欧州を中心に、当面(3〜5年)はCE政策に基づき、ものづくりのやりかたを変えていく政策が展開され、新たなルールや規制が生み出されつつある。雇用やサプライチェーンにも影響を与える。
3 規制化・標準化が進み、新たなルールへの対応が必要となる
 CE政策はテーマごとに色分け(優先順位・取り組み濃淡)され、政策側と企業等でスタンスが違い、一枚岩ではない。CE政策としての規制化、標準化はこれからであるが、新たなルール・規制に対して、欧州では企業側でも織り込み済みで準備が進んでいる。
4 製品を生み出すよりも価値を提供することに重きがおかれる
 CE政策は、製品を生み出すよりも製品を活用して価値を提供することに重きがおかれる方向へ進んでいく。企業にとっては新たなチャンスとリスクが生まれる。
5 製品・部品の長寿命化の優先順位が高くなる
 CE政策は製造業に製品や部品の使用段階でのマネジメントを従来以上に体系立てて実施し、ライフサイクルに亘るサービスを提供することを求めており、製品や部品の長寿命化がCEの優先順位の高い政策課題に挙がっている。先進的な企業においてはすでに実施されている。
6 ものづくりのみならずプラットフォームやソリューションビジネスへの対応が必要となる
 欧州の先進的な企業はグローバル売切型ビジネスから、機能・サービス価値を提供するビジネスへ移行し始めており、ものづくりのみならずプラットフォームやソリューションビジネスにも乗り出している。製品開発において、ビジネスと環境を体系化し、CEという横串で全体構造を見せようとしている。
7 製品設計でのライフサイクル思考が強まる
 欧州の製造業は、製品設計におけるライフサイクル思考を強め、商品への織り込み、検討を始めている。同時に、製品単体のみならず、全体システムのオペレーションをいかにとるかを念頭においている。
8 製造業者は販売後にも製品・部品へのコミットメントが必要となる
 欧州の製造業は、CEマネジメント国際標準化により、製造業者は販売後にも製品・部品へのコミットメントが必要となる。国際標準化への見方は冷静であるものの、先手を打つことがビジネスチャンスであるととらえ、組織で準備を始めている。今後起こりうることとして準備を進め、標準化されることは政策として当たり前であるとの考えかたを持っている。
9 再生材の利活用が進み、新材との区別が弱まる
 欧州の政策でプラスチックの生産量、使用量の削減が明確に掲げられている。欧州の製造業はさらになんらかのかたちで、規制・数値目標が入ってくることを予想し、それに向けた準備を始めている。いま以上のリサイクル材の使用や原材料のケミカルリサイクルが期待され、再生材メーカーはリサイクルを“プロダクション”と位置づけて、一次材料生産との融合を図っている。一方で、バイオプラスチックの優先順位は低い。
10  ステークホルダーとのコミュニケーションが強化され、CE型ビジネスモデルに向けた意識変革が重要となる
 持続可能な社会形成に向けた具体的な変革の中で、欧州委員会においても、欧州企業においてもステークホルダー(顧客、株主、社内関係部署、サプライヤー等)へのコミュニケーション、相互理解の強化を通じた、CE型ビジネスモデルに向けた「意識変革」の重要性が指摘されている。
11 中国をはじめとするアジア地域でCEがグローバルスタンダード化される可能性がある
 日本企業においては欧州動向に加え、中国をはじめとしたアジア地域の動きに注目する必要がある。中国はCEに対して積極的な傾向があり、この地域においてもCEがグローバルスタンダード化する可能性がある。さらには、これと相俟って、上下水道、廃棄物処理などが地域循環ソリューションとなり、特定のCE主導企業に寡占化される危険性がある。
 
 なお、本書の作成にあたり、日本経済団体連合会21世紀政策研究所、ならびに、酒井ゆう子氏、ライターの金重宏一氏に大変お世話になった。この方々なしでは、本書の出版は実現できなかった。ここに深く感謝する。
 
 
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