あとがき、はしがき、はじめに、おわりに、解説などのページをご紹介します。気軽にページをめくる感覚で、ぜひ本の雰囲気を感じてください。目次などの概要は「書誌情報」からもご覧いただけます。
雨宮寛二 著
『図でわかる経営マネジメント 事例で読み解く12の視点』
→〈「はじめに」(pdfファイルへのリンク)〉
→〈目次・書誌情報・オンライン書店へのリンクはこちら〉
はじめに
経営マネジメントが見直される時代の到来
不確実性は,時代の経過とともにその勢いを急速に増しています。インターネットが商用化してから30 年余りが経過して,あらゆるモノがインターネットに接続され,消費者の行動がトラッキング(追跡)される時代になりました。企業は,ビッグデータを解析し消費者の行動を読み取り,次に消費者が何を求めているのか,どのように消費するのかを予測して,商品の開発やサービスの追求に繋げています。解析には,機械学習や深層学習の手法が使われ,AI(人工知能)の技術は日進月歩で進化しています。
このような時代になった今,事業の行く末を見通すことは,たとえ数ヶ月先であっても難しくなりました。なぜなら,世の中の変化が加速しているからです。こうした変化に追いついていくために,企業には何が求められているのでしょうか。戦略を「顧客価値を生み出す独自性の追求」と捉えれば,企業が戦略を着実に遂行するためには,経営マネジメントという基盤がしっかりと構築されていなければなりません。それは,人材のマネジメントであり,組織のマネジメントであり,事業のマネジメントであります。
人材や組織,事業などのマネジメント基盤がしっかりと構築できていれば,たとえ社会や経済における突発的で予測不能な事象が起きたとしても,企業はそれを乗り越えていけます。ひとつの事業をマネタイズ(収益化)し,コア事業に孵化させることは容易なことではありません。現代の企業経営にとって,事業化を果たすまでの道のりだけではなく,利益を恒常的に創出しながらコア事業として持続させていく過程においても,経営マネジメントは必要不可欠なのです。
本書の特徴
本書では,各章の冒頭に「事例紹介」を入れて,現実の経営マネジメントの問題が理解できるようになっています。事例はいずれも各章のテーマに沿った内容になっており,事例を読み解くために必要な経営の専門用語は,事例紹介の後に続く経営マネジメントの手法や理論から引用できるようになっています。そのため,経営マネジメントの手法や理論は,理解しやすいように箇条書きで説明しています。このような構成にしているのは,そうした経営手法や理論が,現実の経営マネジメントの問題に沿ったものである必要があると考えるからです。
経営理論や用語を説明するうえで,できるだけ図表を挿入するようにしました。図表は各章の理論や用語ごとに最低でも一つは必ず入れて,理解しやすいように工夫しています。
また,事例は,成功事例を中心に構成し,できるだけ最新の内容を紹介するようにしています。対象企業として,トヨタやソニー,日立など日本を代表する老舗企業を取り上げる一方で,ロート製薬,マイクロソフト,コマツ,良品計画,サイバーエージェントなど,幅広い業種から経営マネジメントを捉えることができるようにしています。
このような特徴を基に,本書は幅広い層の読者を想定して執筆しています。経営マネジメントをゼロから学びたい人,本格的に勉強したい人,現実の企業動向を知りたい人,経営上の問題解決の手法を習得したい人,マネジメント事例を理解したい人などです。
本書の構成
本書は,経営マネジメントをテーマにして,13 章で構成されています。
第1 章は,「会社の基本的な仕組み」です。トヨタが,柔軟な人材配置のための仕組み作りとして2019 年から取り組むトップ・マネジメント体制の変革を事例で紹介しながら,会社の種類や目的,機能などを説明します。
第2 章は,「経営の基礎知識」です。ソニーが,ビジネスの成長と社会的課題解決との両立を目指すために,現在取り組むESG 経営を事例で紹介しながら,パーパス・マネジメントや企業統治などを取り上げます。
第3 章は,「経営管理の生成と発展」です。ロート製薬が社員の成長を促すために,働き方改革として近年導入した副業や兼務制度を事例で紹介しながら,経営管理の意味や考え方を解説します。
第4 章は,「経営戦略論」です。ヤマハが,リーマンショック以降V 字回復を果たした損益分岐点経営の詳細を事例で紹介しながら,戦略の意味や企業ドメインの設定,多角化戦略,コア・コンピタンスなどを説明します。
第5 章は,「企業戦略のマネジメント」です。テクノロジー分野で確固たる地位を築き上げたマイクロソフトが,コア事業のビジネスモデルを転換して企業価値を高めた事例を紹介しながら,経営資源の適性配分,プラットフォーム・リーダーシップ戦略などを解説します。
第6 章は,「競争戦略のマネジメント」です。サイバーエージェントが,経営環境の変化に対応して3 度にわたり成し遂げた事業転換の事例を紹介しながら,ポジショニング・アプローチや経営資源アプローチなどを説明します。
第7 章は,「イノベーションのマネジメント」です。コマツが,デジタル化により施工プロセスの最適化を実現したオープン・イノベーションの事例を紹介しながら,イノベーションの考え方やマネジメントなどを取り上げます。
第8 章は,「グローバル戦略のマネジメント」です。ホンダが,需要地生産と収益性の両立を図るために世界6 極体制で展開したグローバル戦略を事例で紹介しながら,企業の国際参入形態や組織の海外進出プロセスなどを説明します。
第9 章は,「マーケティング論」です。良品計画が,日本と海外で市場拡大を図るために価格に見合う価値を消費者に浸透させたブランド戦略を事例で紹介しながら,STP マーケティングや消費者行動モデルなどを解説します。
第10,11 章は,「組織論」です。アイリスオーヤマが恒常的に新商品を開発できる仕組みや日立が果たした組織の改革を事例で紹介しながら,意思決定のマネジメントや管理原則,コンティンジェンシー理論などを取り上げます。
第12 章は,「モチベーション論」です。サントリーが,2014 年に買収した米蒸留酒大手のビームを統合して社員モチベーションを向上させた戦略を事例で紹介しながら,モチベーション理論の目的や効果などを解説します。
第13 章は,「リーダーシップ論」です。恒常的にコア事業を構築し成長させることを可能にした日本電産のリーダーシップ戦略を事例で紹介しながら,資質理論や行動理論,変革型リーダーシップ理論などを説明します。
本書の使い方
本書は,全13 章が個々に独立して構成されているので,どの章から読み始めても,理解できるようになっています。
各章を読み進めるにあたり,最初に冒頭の「事例紹介」を読むことをお勧めします。事例紹介には,各章のテーマを俯瞰できる内容が盛り込まれているので,その後に続く経営マネジメントの手法や理論を理解する手助けをしてくれます。
経営マネジメントの手法や理論は箇条書きによる説明になっているので,知りたいもしくは理解したい経営の専門用語がある場合には,辞書を引く方法にならって確認すれば,その意味が理解できるようになっています。
経営マネジメントの手法や理論,用語ごとに図表を用意してあるので,最初に図表の内容を確認したうえで,本文を読んでも理解できるようになっています。
事例紹介では,事例を読み解くために必要な経営の専門用語が,事例紹介の後に続く経営マネジメントの手法や理論から引用できるようになっているので,事例を読み進めながら各章のテーマに沿った手法や理論についての理解を深めることができます。
謝辞
本書の出版にあたり,勁草書房の多くの方々にご協力をいただきました。特に,編集部の宮本詳三氏には,企画,編集,校正のそれぞれの段階で多大なご尽力をいただきました。ここに心から感謝の意を記します。また,本書の執筆にあたり,環境を整え支えてくれた妻といつも温かい言葉をかけて励ましてくれた子供たちに厚く感謝します。
2021 年3 月
雨宮寛二