あとがきたちよみ
『地域生活の支援と公私協働の社会システム』

About the Author: 勁草書房編集部

哲学・思想、社会学、法学、経済学、美学・芸術学、医療・福祉等、人文科学・社会科学分野を中心とした出版活動を行っています。
Published On: 2022/2/16

 
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小賀野晶一 編
『地域生活の支援と公私協働の社会システム』

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はしがき
 
 私たちは現在,少子化,高齢化,都市化,情報化,グローバル化などと称される状況のただ中にある。地球環境問題の解決も迫られている。このような状況のもとで,私たちは地域で安心,安全に生活することについて支障が生じ,将来に対する不安を拡大させている。歴史的には,将来への不安はその時代,その時代で形と内容を様々に変え繰り返し現れてきており,そのつど人類の知恵と行動が試されてきた。
 法的には,今日,人々が地域で自律した生活を維持,持続することをどのように保障するかが問題である。判断能力が低下した人を支援する仕組みとして民法は成年後見制度を導入している(民法の所管は法務省)。もっとも,成年後見制度は地域及び人々の需要を充たしているとはいえず,改善のための様々な動きがみられる。成年後見制度の利用促進を図るために,閣議決定に基づく国の施策(財産管理及び身上保護)が現在,精力的に進められている(事務局は厚生労働省)。また,社会保障の分野では,医療制度,介護保険制度など社会保障制度の改革も進められている。
 本研究プロジェクトの法学分野では主に,判断能力が低下した人の生活,療養看護,財産管理のあり方について,意思決定支援のあり方を中心に検討した。意思決定支援について本稿ではこれを広く捉え,契約における意思決定のほか,医療に関するインフォームド・コンセントの医療同意における意思決定,患者の輸血拒否の意思決定,その他の意思決定を含むものとする。ここでは高齢社会における私たちの生活のあり方が問われている。
 本書は,地球環境問題に直面するこの時代,私たちの地域生活の持続性を確保するための知恵と方法が必要であるとの問題意識のもとに,地域の社会システムのあり方を明らかにしようとするものである。民法制度の運用をみると,法体系における私法・公法二元論の伝統的構成は部分的に崩れ,公私協働の実務が進められている。私たちは本書に先だち,勁草書房から認知症シリーズ,第1 巻『認知症と民法〈公私で支える高齢者の地域生活〉』,第2 巻『認知症と医療〈公私で支える高齢者の地域生活〉』,第3 巻『認知症と情報〈公私で支える高齢者の地域生活〉』(2018 年,2019 年)を公表し,社会システムとしての意思決定サポートシステムの意義や課題について問題提起をした。社会変化が激しいことを考慮すると,専門家の使命として私たちは語り続けることが必要である。本書はこの一環にある。
 以上の研究は成本迅教授の総合的企画及び柔軟なアイデアと創造力のもとに,以下の研究プログラムのなかで推進することができた。①文部科学省・科学技術振興機構による支援プログラム「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」「高齢者の地域生活を健康時から認知症に至るまで途切れなくサポートする法学,工学,医学を統合した社会技術開発拠点」(平成25 年度~ 26年度),「真の社会イノベーションを実現する革新的「健やか力」創造拠点」(平成27 年度~令和3 年度),及び②科学技術振興機構社会技術研究開発センター(RISTEX)「安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築」研究開発領域 研究開発プロジェクト「高齢者の安全で自律的な経済活動を見守る社会的ネットワークの構築」(平成27 年度~ 30 年度)。このような成果の1 つとして2018年に一般社団法人意思決定支援推進機構が京都に設立,活動している。私ども法学グループは京都・名古屋を中心にする法律専門家グループとも密接に情報交流をした。こうして実用法学としての民法及び民法学は強靱な規範に基礎をおくものでなければならないとの考え方のもとに検討を進めることができた。
 本研究は先学及び先進実務の成果に基づいている。また,私たち研究メンバーはこれまで成年後見制度を中心に民法からアプローチをした。しかし,ここで扱う問題は成年後見制度を超え,国・地方公共団体と私たちとの関係などにまで広がりをもっている。最終年度の本年度は行政法及び環境法の北村喜宣氏(上智大学教授)と,社会調査専門家の東海林崇氏(PwC)に参加していただくことができた。本研究の推進についてご教示をいただいた北村氏,東海林氏に心より感謝する。
 本書の主たる読者としては,成年後見実務に携わっている専門職(弁護士,司法書士,社会福祉士,税理士,行政書士など)・専門職団体,行政(法務省,厚生労働省,地方公共団体福祉関係部局,地域包括支援センターなど),社会福祉協議会その他の社会福祉法人,NPO法人,その他の関係団体,市民後見人,日常生活自立支援事業を担う人材などを予定している。さらに,このテーマは一般性を有しており,広く多くの人々に関心をもっていただきたいと願っている。本研究の推進については,国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)のご理解と継続的な研究助成の援助をいただいた。京都府立医科大学,中央大学からはCOI 事務の執行及び研究の推進において様々なご支援をいただいた。関係していただいた方々に深く感謝する。
 本書の出版にあたり,勁草書房編集部の竹田康夫氏に上記認知症シリーズの出版に続いてご尽力を賜わった。竹田氏は2021 年に同社を定年退職された。この間,編集部部長として我妻榮の業績に深く関与されるなど,言論・出版の世界において輝かしい足跡を残されている。竹田氏は法学分野以外にも,山,野鳥,植物や,近代遺産,文明など広く関心をもっておられる。竹田氏の情熱はどこからくるかを求めると,自然とともに思考し行動するという精神とそこからくるエネルギーによるものと思われる。本書テーマの根底にはこのような自然の精神が深く関係している。本書と認知書シリーズ全3 巻は竹田氏と協働することによってできあがった作品である。執筆者を代表して竹田氏に心より御礼を申し上げたい。
 
2021 年10 月
編者 小賀野晶一
本書は,国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の支援を受けたものです。JPMJCE1302(センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム,COI 拠点 2021 年度報告書「真の社会イノベーションを実現する革新的「健やか力」創造拠点」成果報告)
 
 
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