めいのレッスン ~最終回

About the Author: 小沼純一

こぬま・じゅんいち。 音楽・文芸批評家。早稲田大学文学学術院教授。おもな著書に『オーケストラ再入門』『映画に耳を』『武満徹 音・ことば・イメージ』『ミニマル・ミュージック その展開と思考』『発端は、中森明菜――ひとつを選びつづける生き方』など。『ユリイカ』臨時増刊「エリック・サティの世界」では責任監修を務めている。2010年にスタートした音楽番組『スコラ 坂本龍一音楽の学校』(NHK Eテレ)にゲスト講師として出演中。
Published On: 2022/3/28By

 
2016~2017年にかけて連載いただいた小沼純一さんの『めいのレッスン』が本になりました。『ふりかえる日(ひ)、日(び) めいのレッスン』青土社から2022年3月に刊行です。刊行を機に、小沼さんに最終回の言葉をいただきました。小沼さん、すてきな言葉たちをどうもありがとうございました。【編集部】
   

『めいのレッスン』の連載が途切れてしまってから、
しばらくあいだがあいてしまいました。
そのままにしておいたら、サイェが、
もう10年だよ、
と言うのです。
 
『ろうそくの炎がささやく言葉』の刊行が2011年。
震災のあと、タイトルのとおり、電灯のないなか、
ろうそくの炎のなかで、文字を読むというより、
声をとおし、耳に伝えるものとして書いたのがはじめの「めいのレッスン」でした。
その後、「めい」と「わたし」はネット上ではなしをつづけました。
とくにきっかけがあったわけでもなかったにもかかわらず、
はなしは途切れたままになってしまいました。
まだ書きたいことはあったのです。
それでも、つい、そのままになってしまって。
 
サイェにうながされ、
本というかたちにでもしなければ、このまんまだな、
とおもったので、この機会に、ある程度書き足してみました。
 
春夏秋冬の四部に分け、
前後に一種の前奏曲/後奏曲とでもいうようなものをくわえ。
ネット上では横書きだったのを縦書きに、大きく手をいれ。
イラストも、カラー写真をずっと減らし、
若い描き手にお願いして、手描きの鉛筆画に。
おなじかな? ちがうかな?
メディアが変われば、受容も変わります。
結局、単行本としてまとまったものとはべつに、
ネット上のものはこのままのこしていただくことになりました。
これまでところどころ読んでくださったかたがたには、
単行本も手にとっていただければ、とおもっています。
連載時の「めいのレッスン」は副題にして、
「いま」から、ということでタイトルも変更しました。
『ふりかえる日(ひ)、日(び) めいのレッスン』、青土社刊です。
 
この本の最終的な校正をし終え、校了したあたりで、
ロシアのウクライナ侵攻が始まりました。
21世紀になったら、世のなかが良くなるんじゃないか、
と、前世紀、おもっていたのは、
おそらく、わたしだけではないとおもいます。
『めいのレッスン』にはところどころ、サイェの祖母の経験が、
第二次世界大戦のときの記憶がでてきます。
書いているときには、記憶は記憶として風化させずに、というていどでしたが、
はたして、べつのかたちで、わたしじしんは読む、読みかえすことに
なっているように感じています。
 
もうすこし余計なことを記します。
この10年、こういう生活がしたかったんだな、
こういうところをことばのなかに、サイェとのつながりのなかに
もとめていたんだな、と、おもいます。
私生活で、しごとで、列島の、世界のなかで、ざわざわしているのを
こうしたところでおちつこう、おちつかせよう、としていたのだ、と。
 
このようにネット上で、また、単行本で、
読めるようにしてくださった勁草書房の関戸詳子さん、青土社の足立朋也さんに、
お礼を記しておきたいとおもいます。
また、絵を描いてくれたのは松橋歌瑠さんです。
拙い写真が、こんなふうに絵として生まれかわるんだ!
というのをご覧いただければ。
 
サイェは、このテクストのなかで、この年齢のままです。
きっと、べつの世界で、日に日に成長し、変化しているはずです。
読んでくださる方がたのなかでのサイェを、わたしもまた、
想像できれば、とおもっています。
 
2022年3月

表1_1~1小沼純一『ふりかえる日(ひ)、日(び) めいのレッスン』
発売日 2022年3月25日
出版社 青土社
定価 2,400円+税
ISBN978-4-7917-7450-0
書誌情報 → http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=3666

 
これまでの連載一覧はこちら 》》》めいのレッスン連載一覧

表1_1~1管啓次郎、野崎歓編『ろうそくの炎がささやく言葉』
「東日本大震災」復興支援チャリティ書籍。ろうそくの炎で朗読して楽しめる詩と短編のアンソロジー。東北にささげる言葉の花束。
[執筆者]小沼純一、谷川俊太郎、堀江敏幸、古川日出男、明川哲也、柴田元幸、山崎佳代子、林巧、文月悠光、関口涼子、旦敬介、エイミー・ベンダー、J-P.トゥーサンほか全31名
書誌情報 → http://www.keisoshobo.co.jp/book/b92615.html

About the Author: 小沼純一

こぬま・じゅんいち。 音楽・文芸批評家。早稲田大学文学学術院教授。おもな著書に『オーケストラ再入門』『映画に耳を』『武満徹 音・ことば・イメージ』『ミニマル・ミュージック その展開と思考』『発端は、中森明菜――ひとつを選びつづける生き方』など。『ユリイカ』臨時増刊「エリック・サティの世界」では責任監修を務めている。2010年にスタートした音楽番組『スコラ 坂本龍一音楽の学校』(NHK Eテレ)にゲスト講師として出演中。
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