あとがきたちよみ
『絵本のなかの動物はなぜ一列に歩いているのか――空間の絵本学』

About the Author: 勁草書房編集部

哲学・思想、社会学、法学、経済学、美学・芸術学、医療・福祉等、人文科学・社会科学分野を中心とした出版活動を行っています。
Published On: 2023/4/27

 
あとがき、はしがき、はじめに、おわりに、解説などのページをご紹介します。気軽にページをめくる感覚で、ぜひ本の雰囲気を感じてください。目次などの概要は「書誌情報」からもご覧いただけます。
 
 
矢野智司・佐々木美砂 著
『絵本のなかの動物はなぜ一列に歩いているのか 空間の絵本学』

「はじめに」(pdfファイルへのリンク)〉
〈目次・書誌情報・オンライン書店へのリンクはこちら〉
 

*サンプル画像はクリックで拡大します。「はじめに」本文はサンプル画像の下に続いています。

 


はじめに
 
 鬱蒼(うっそう)とした暗い森のなかに、たった一人で入った小さな男の子は、ライオンやゾウやクマといった動物たちにつぎつぎと出会います。
 その動物たちが男の子の散歩に加わり、いつしか男の子を先頭にして、動物たちが長い行列となって行進している絵本を見たことがありませんか[図0―1]。子どもはこのような絵本が大好きですが、どうして絵本には、動物たちが一列に行進している姿が描かれたりするのでしょうか。
 このような絵本の構図は、あまりに見慣れているため、一見するとごくありふれた特別な意味などないものと思われるかもしれません。しかし、この構図こそ、絵本作家が作りだした他に類のない絵本世界を象徴する構図なのです。そして、子どもや私たちに、ほかのメディアでは実現できない生命的な喜びをもたらす絵本の秘密の構図なのです。ですから、この構図が作りだしている絵本世界について考えることは、絵本がもたらす独自の体験を考えるための通路となるのです。
 しかもそれにとどまらず、この構図を考えることは、子どものみならず大人も含めて、このような絵本を必要としてきた「人間とは何か」を明らかにします。
 絵本は、この百年あまりのあいだに、その表現の可能性を大胆に開拓してきました。アニメーションが、これほど全盛の時代になったにもかかわらず、絵本は読者層を拡げて、乳児から高齢者にいたるまで、いまやすべての世代が楽しむメディアとなっています。絵本が媒介(メディア)となって、子どもと大人とをつなぎ、子ども同士をつなぎ、絵本世界をともに体験することができます。子どもは絵本を喜びますし、大人は絵本で子どもとつながることで、子どもの生きている世界に触れ、子どもとの関係の作り方を学び、子どもとともに生きる喜びを感じることができます。
 なぜ絵本にそのような不思議な力があるのでしょうか。私たちは、絵本の物語ではなく、絵本のなかの動物はなぜ一列に歩いているのか、絵本に特有な構図を読み解くところから、絵本世界がもたらす「絵本の力」の謎について、考えてみたいと思います。
(図は割愛しました)
 
 
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