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『知識資源のメタデータへのリンクトデータ・アプローチ』

 
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谷口祥一 著
『知識資源のメタデータへのリンクトデータ・アプローチ』

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はしがき
 
 拙著『知識資源のメタデータ』第2 版(緑川信之氏との共著。2016年刊)の刊行以降も,知識資源のメタデータに関わる主要要素に入れ替えが発生している。具体的には,図書館目録の領域において,概念モデル「IFLA 図書館参照モデル」(IFLA LRM)の登場と採択(2017年),記述規則およびデータ項目定義としての「日本目録規則2018年版」(NCR2018)の登場(2018年)と国立国会図書館による採用(2020年),RDA の大幅な構成の変更(2020年)などが発生している。これら以外にも細かな変化は多数にのぼる。
 他方で,メタデータのレコードおよびデータ項目定義を構成する,以前からのMARC フォーマットは,現在もそのまま維持されており,この点に関わる変化が今後予想される。米国議会図書館が主導するBIBFRAME がそれを置換する有力候補と考えられているが,未解決の部分も大きい。これらゆえ,しばらくは安定した状況にはなりえないと予測される。
 また,前著第2 版では,極めて限定的にリンクトデータ(Linked data)およびそれを構成するRDF などを取り上げていたが,その後もメタデータのリンクトデータ化はウェブというプラットフォームの一層の浸透と拡大に合わせて強力な展開を見せており,メタデータの問題を取り上げる際にはもはや無視しえない前提となっている。リンクトデータは知識資源のメタデータに限定されず,多様な領域あるいはメタデータ全般(場合によってはメタデータには属さないデータ自体)においても展開されている。その結果,領域を超えてメタデータの問題を共通して論じることができる部分が拡大しており,かつ多様な領域のメタデータのアグリゲーション(集約)も広く行われつつある。リンクトデータは,共有可能かつ拡張可能であり,さらには容易に再利用可能である。
 知識資源のメタデータ,そのうち特に図書館目録のメタデータについても,リンクトデータへの移行に向けた各種の取り組みがなされてきている。前述のBIBFRAME はリンクトデータを前提にしており,RDA やNCR2018もリンクトデータを射程に入れたものとしている。ただし,多様な取り組みにもかかわらず,移行後の姿が確定しておらず,移行への推進力は未だ強力とはいえない。今後さらに多様なレベルでそれぞれのステークホルダーがリンクトデータ化に向けて積極的に関与していくことが求められているといえよう。図書館等が作成し公開しているメタデータをさらに有効なもの,より活用されるものとして公開・提供していくには,リンクトデータに移行し展開することが最も有力と考える。
 こうした状況を踏まえて,知識資源のメタデータについて,リンクトデータを軸にして,その全体(メタデータ設計,作成,提供),そして特に設計を一貫した観点から取り上げ解説することは有用かつ必要性が高いと考えた。そこで,リンクトデータと知識資源のメタデータとを縦糸と横糸にして組みあげた本書を構想するに至った。知識資源のメタデータという観点から,リンクトデータを取り上げた図書が存在していないことも理由である。
 本書は,前著『知識資源のメタデータ』第2 版の姉妹編と位置づけられる。前著を内容的に置換するのではなく,リンクトデータという観点から内容を再構成し展開することを意図している。同時に,本書のみで完結した説明となるよう努めたが,知識資源のメタデータの基本に関わる事項について簡略な説明にとどめた部分があり,それについては前著を参照されたい。なお,今回は取り上げる内容上の傾向から谷口による単著とした。
 本書は,以下の内容を包含した構成とした。「第1 章 知識資源の組織化とメタデータ」において本書が取り上げる範囲とその観点等を説明し,「第2 章 リンクトデータの基礎」では,これまでのウェブの仕組みと,そこから派生したリンクトデータについて,両者の共通点と相違点を含めて説明する。リンクトデータの基本原則,そして構成要素である識別子URI,データ表現の枠組みかつエンコーディング方式であるRDF の概要を説明する。続く「第3 章 リンクトデータの定義用共通語彙」では,メタデータをリンクトデータとして表現し構成するデータ項目等を定義するに当たって共通して使用されることの多い語彙,具体的にはRDF(S),OWL,SKOS,FOAF を取り上げ説明する。
 これらを基礎にした上で,個別の知識資源のメタデータに関わるURI の付与の問題と留意事項などを「第4 章 知識資源のメタデータに関わるURI の付与」で,そして「第5 章 知識資源のメタデータ設計とリンクトデータ」では知識資源のメタデータ設計,特にリンクトデータを想定した場合の設計について,設計の流れに沿って説明する。設計の各段階における複数の選択肢を説明し,設計結果に幅が生じる要因をまとめる。
 それに続けて,実際に知識資源のメタデータに適用されているメタデータ語彙やスキーマの主たる実例を順に取り上げる。「第6 章 汎用語彙によるリンクトデータ」では,汎用的な語彙であるダブリンコアとSchema.org を取り上げ,知識資源のメタデータとして採用した場合を説明する。他方,図書館目録のリンクトデータに関わる語彙およびスキーマを7 章以降に取り上げる。7 章はFRBR(書誌レコードの機能要件)とNCR2018, 8 章はIFLA LRM とRDA,9 章はBIBFRAME,そして10章は国立国会図書館によるDC – NDL とWeb NDL Authorities のRDF をそれぞれ取り上げ解説する。これらの特徴,そして共通点と相違点などを明らかにする。11章では主題表現用の語彙の実例として,件名標目表と分類法のリンクトデータを取り上げる。「第12章 メタデータのアグリゲーション」は,図書館目録のメタデータを超えて多様な領域からメタデータを収集し集約するジャパンサーチを取り上げ,集約後のリンクトデータの構成等を説明する。
 そして,「第13章 リンクトデータの公開・提供と利用」では,語彙定義・スキーマ定義の公開とリンクトデータの公開・提供に当たっての留意事項などをまとめる。さらに,リンクトデータの利用において必要となる,問い合わせ言語SPARQL の概要を説明する。最後に「終章」では,特に6 章から11章までで取り上げた語彙やスキーマを振り返り,それらの相違が生まれる要因などをまとめる。それはそのまま課題の整理にもつながる。
 こうした構成と内容,その取り上げ方などは本書独自のものである。海外にも類書はない。参照した語彙定義やスキーマなどは2023年1 月時点のものである。常に変化や更新の可能性がありうる。
 現時点では,それぞれの個別事項の意味をさらに突き詰めて考えるべき項目や,一部整理が浅いと思われる箇所もあるだろう。しかし,浅慮な内容であっても世に出して,少しでも関心をもつ人を増やし,その結果,図書館等の実践をより有効なもの,強力なものにしていきたいという思いである。
 前著の共著者である緑川信之氏(筑波大学名誉教授)に先ず謝意を表したい。筆者による本書の執筆を快く認めていただいた。また,筆者が所属する慶應義塾大学文学部図書館・情報学専攻の同僚教員諸氏,筆者が委員を務める日本図書館協会目録委員会の委員諸氏にも,同じく謝意を表したい。加えて,リンクトデータ等についての専門家であり,筆者の抱く疑問にも常に丁寧に回答いただいている神崎正英氏(ゼノン・リミテッド・パートナーズ)にも,併せて謝意を表す。最後に,勁草書房編集部の藤尾やしお氏には,本書執筆の企画を快く受け入れていただき,また出版までのさまざまな段階でお世話になった。心からお礼を申し上げたい。
 
2023年5 月
谷口 祥一
 
 
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