Book Review
『33のテーマで読み解く意匠法』

About the Author: 勁草書房編集部

哲学・思想、社会学、法学、経済学、美学・芸術学、医療・福祉等、人文科学・社会科学分野を中心とした出版活動を行っています。
Published On: 2023/12/6

書評 「取っつきにくい、分かりにくい」意匠法を学ぶために

評者 青木大也

本書は、弁理士として長年の経験を有する著者の手による意匠法の解説書である。著者は意匠法に関する類書として、すでに『ゼミナール意匠法〔第2版〕』(法学書院、2009年)を公表しているが、本書はそのバージョンアップ版と位置づけられよう。

本書の対象とする意匠法は、知的財産法の領域の中では相対的に影が薄く、例えば意匠登録出願件数は特許出願件数の1/10ほどに留まる。しかし、ことデザインの重要性が叫ばれる中で、近時の改正とも相まって、徐々に注目を集めつつあるように思われる。そのような中で、本書は時宜を得たものと言えよう。実際、本書では、令和元年改正で導入された「画像」(Unit 8)、「建築物」(Unit 9)、「内装」(Unit 10)の各意匠についても、1Unitを割いて解説されている。

本書の特徴として、まず、各Unitに存在する「設題」とそれに対応する「設題の検討」が挙げられる。例えば、「類似と創作非容易性」(Unit 17)では、「歯ブラシ立て」に関する意匠の具体的な図面を前提に、類否判断や創作非容易性判断に際して、どのような証拠を収集するべきかを尋ねる設問がある。読者において、どのような証拠を用意すれば自己に有利な判断を引き出せるか、実践的に検討させようという意図を読み取ることができる。また、「関連意匠」(Unit 20)は、複雑な関連意匠制度について、図を用いた類例を説明することで、読者の理解を深めるとともに、設例の相談事例において、どのような出願形式を採用するべきかを検討させるものとなっている。

次に、著者はUnit 1「意匠法の目的」、Unit 2「意匠とデザイン」を本書の導入部として用意し、意匠を保護する意味、デザインと意匠の関係等を検討している。例えば、意匠法の目的について、「『よく分からない』は正しい」(Unit 1)とし、様々な見方があることを説明することで、読者の側での検討を促している。先の「設題」・「設題の検討」等と共通して(そしてそれよりも抽象的な、あるいは理論的な話題として)、読者に意匠法について考えてもらうための仕掛けということもできるだろう。更に、続けてUnit 3からUnit 6にかけて、不正競争防止法、特許法、商標法、著作権法と意匠法との調整についての解説が用意されている。意匠法のみでデザインの保護が完結することはなく、様々な法制度を駆使して立体的にデザインを守ることを指摘する一方で、それらの調整にも目が配られている。

加えて、「実務のためのひとこと」を見ると、おそらく実務において著者が接したであろう、意匠法にまつわる様々な疑問や誤解について、コメントがされている。中でも、部分意匠が全体意匠に比べて一律に広い権利範囲を有するというわけではなく、使い分けが重要であると指摘する点は、いわゆる部品の意匠との関連も踏まえて何度か説明されており、おそらく筆者が頻繁に同様の質問を受けたテーマ(すなわち、それだけ実務において悩まれているテーマ)と推察される。

このように様々な配慮がなされた本書であるが、その性質上、限界も指摘できる。

まず、本書はUnit形式で重要なテーマを抽出したとしているため、意匠法を網羅的に学習する場合には、不足がある点に留意する必要がある。例えば意匠の「実施」概念や、「秘密意匠」等に対応するUnitや詳細な解説は用意されておらず、評者としては少々残念に思うところである。

また関連して、本書は読者の特許法に関する知識をある程度念頭に置いているように思われる。これは意匠法が特許法の仕組みに依存するものである上、(特に弁理士試験受験生も読者として想定する)本書もあくまで意匠・意匠法特有の話題を扱うことを目的としたもので、著者も割り切ったものと推察される。しかしその結果、例えば「ダブルパテント」(Unit 21)、「優先権」や「複合優先」(Unit 25)といった単語が説明なく登場する。各種審判や審決取消訴訟といった特許法にも存在する手続の説明も省略されている。特許法を抜きに意匠法のみを学習しようとする読者は限られると思われるが、留意する必要があろう。

加えて、法改正はじめ動きの激しい知的財産法に関する書籍の宿命ではあるが、不断の改訂が期待される(またその際には、別途全体的な筆致や内容の確認も望まれよう)。実際、新規性喪失の例外(Unit 19)に関しては、令和5年改正により、その(意匠法4条2項類型に係る)手続要件が緩和されるに至った。もちろん本書もその改正自体には言及されているものの、具体的な運用については、意匠審査基準の整備等を踏まえての筆者による解説が期待される。

しかしそれらの点を踏まえてなお、本書が「取っつきにくい、分かりにくい」意匠法を学ぶための道標となることは、すでに述べた通りである。筆者の「デザイン」した本書が、意匠法を学ぼうとする読者のよすがとなることを願う。

 

評者 青木大也(あおき・ひろや)
大阪大学大学院法学研究科准教授。専門は、知的財産法。主著として、『知的財産法〔第2版〕』(共著、有斐閣、2023年)、『知財判例コレクション』(共著、有斐閣、2021年)、『図録知的財産法』(共編著、弘文堂、2021年)など。

『33のテーマで読み解く意匠法』

著者
峯 唯夫 著
ジャンル
法律
出版年月
2023年7月
ISBN
978-4-326-40421-6
判型・頁数
A5・240ページ
定価
2,750円(税込)

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