あとがきたちよみ
『国際収支 東アジア長期経済統計第10巻』

About the Author: 勁草書房編集部

哲学・思想、社会学、法学、経済学、美学・芸術学、医療・福祉等、人文科学・社会科学分野を中心とした出版活動を行っています。
Published On: 2024/8/2

 
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渡辺利夫 監修
徳原 悟 著
『国際収支』(東アジア長期経済統計第10巻)

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監修者まえがき
 
 アジアの発展をみつめる視座として「交易のアジア」というものがある。香辛料,砂糖,コーヒーや金・銀などの貴金属がアジアからヨーロッパへと輸出されていた。交易を通して,ヒト,モノ,カネだけでなく,技術,情報,知識がアジアに流れ込んできた。こうした新しい技術や知識に接し,それらを受容してきた歴史がアジアにはある。アジアは「開かれたアジア」として発展してきたのである。
 これは世界史の一コマではなく,近現代のアジア経済の発展の歴史にも脈々と受け継がれている。アジアの国々は,第2 次世界大戦後に植民地からの独立を果たし,国家としての新しい一歩を踏み出した。厳しい初期条件からの出発ではあったが,新しい技術や知識を受け入れながら経済開発に着手したのであった。
 第2 次世界大戦後から数えて70 有余年を経過した現在からアジアの発展の歩みをみると,その成果は先進諸国の実績を上回るものであり,他の開発途上地域の模範にもなるものである。この成果を一言で語るならば,「圧縮型工業発展」ということになろう。後発性の利益を活かし,先発国が開発した技術や資本に加え,企業経営に関わる人材やノウハウを積極果敢に導入してきた。こうした導入は開発途上国全般でみられることであるが,アジアをアジアたらしめたのは,その導入の仕方にある。自分たちに適応するよう創意工夫を凝らすことで,「圧縮型工業発展」の成果を手にしたのであった。
 このように,アジアの経済発展は海外との関係を抜きにしては実現されなかったといえよう。工業化を実現するためには,技術や生産設備だけでなく投資資金も必要である。この開発資金を自国の資金だけで賄える国はほとんどない。不足する資金を海外から借り入れることで,投資が行えるようになる。投資が行われて企業が生産活動を開始すると,その販路を海外市場に求めようとする。これが輸出となって海外との関係をもつことになる。
 アジアでも遅れて発展を開始した国々は,独力での産業発展が困難な状況にある。そのため,海外企業の直接投資を受け入れることで,工業化を実現しようとしている。また,開発途上国はさまざまな社会的課題を抱えているが,この課題解決を目的とした支援や協力を先進国や国際機関から受けている。これも海外との経済的関係の1 つである。こうした海外との経済取引の関係があって,はじめて経済発展が可能になるのである。
 1 つひとつの国の経済的取引のデータを網羅的に収集し,体系的に整理したものが国際収支統計である。財・サービスの輸出入から始まり,海外からの所得や援助の受取りなどからなる経常的取引の状況が詳細に記録されている。また,海外直接投資,証券投資,金融派生商品,その他投資などの収支項目をみるならば,どのような手段で資金の受払いが行われているのかを知ることもできる。経常的取引や金融的取引の内容やその金額の推移に注目するならば,一国の対外経済関係を捉えることができるのが国際収支統計である。
 この国際収支統計を長期時系列的に眺めると,経済発展が進むにつれて,取引内容が多様化するとともに,その取引金額も大きくなる。また収支の赤字から黒字への変化も,その国の発展段階を示す有力な指標の1 つになる。例えば,工業化の初期段階では輸出よりも輸入が大きいため,財収支は赤字になる。しかし,工業化が進むにつれて輸出が行われるようになると赤字は縮小していき,やがては黒字になる。財収支が黒字になれば,国際競争力をもつまでに国内産業が発展したことになる。
 また,先進国や国際機関からの援助の受払いを示す収支項目をみても,アジアの発展を実感することができる。開発の初期段階では援助や贈与の受取額が大きいが,経済発展が進むにつれてその金額が小さくなり,やがて受け取りがなくなる。すると次には援助を行う立場になり,援助や贈与の支払い金額が増加していくことになる。被援助国から援助国へと移行することは,開発途上国の発展成果を最も象徴的に示す出来事といえよう。
 「開かれたアジア」の国々は,ますます世界との経済取引を多様化させ,そして深化させている。こうした取引は,これらの国々の発展の原動力にもなっている。海外との取引で得た利益を投資して,経済取引のさらなる拡大を追求しているからである。アジアはまさに世界経済の発展を左右する地位にまで駆け上がってきたのであり,この姿は,国際収支統計にも鮮明に表れている。
 本書は,これまでアジアが辿ってきた経済発展の道筋を国際収支というフィルターを通して一望することができるものとなっている。徳原悟君の真摯な努力に敬意を表する。
 
令和6 年 初夏
監修者 渡辺 利夫
 
 
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