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瀬戸一夫 著
『ムーミンの哲学 新装版』
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新装版へのまえがき
本書が世に出てから、四半世紀に近い年月が、すでに経過した。これほど長い年月にわたり、多くの方々に読み継いでいただき、しかもこの度は新装版で引き継がれる運びとなり、言葉を失うほど感激している。ひとえに読者諸氏のお陰である。著者はかつて初版の「あとがき」に執筆の動機を記していた。それはすなわち、哲学の入門的な解説をしながら、優れたメルヘン作品が教えてくれる「ものごとの真相」を紹介したいという動機であった。
しかし、採用されたアニメ版ムーミンを読みなおしてみると、半世紀以上も前(昭和)の作品とは思えない点に、あらためて驚かされる。おそらく、アニメ版の各ストーリーに認められる、個性的でありながら時流に左右されない内容・展開の不変性と普遍性が、本書の再版という、著者にとっての幸運をもたらしたのだろう。当初の願いが叶い、感無量である。
もしも読者が上記の特徴をもつムーミン作品のストーリーに一つでも共感できたとすれば、先人たちが解決不可能と思われた諸問題に取り組み、解決への突破口を切り開いてきた哲学の歩みに、読者もまた同行しているのである。そのような共感をもとに、哲学の歴史と歩みを共にしながら、普段とは少し異なる視点に立ってメルヘン作品を味わうことが本書の狙う醍醐味にほかならない。このため、僭越ながら著者としては、本論の各所で解説される哲学的な考え方を、読者が実際に使って、通常は素通りして終わりがちな疑問を解くように、優れた作品のストーリー展開に分け入る読み方をしていただけるよう期待している。
いうまでもなく、ムーミン・シリーズのなかには、本書で紹介できなかった多くの深遠な作品が含まれている。たとえば「パパのぼうけん」をはじめ、ムーミンパパが小説の構想に尽力しながら必ず失敗に終わる結末の真相は、おそらく、イギリス経験論の発展全体を視野に収めないかぎり、解明できないのではないかと推察される。奥行きのある作品は、他に「小さなみにくいペット」「さようなら渡り鳥」「メソメソ君のマイホーム」「パパの古い靴」「月夜になる鐘」「鳩は飛ばない」「消えちゃった冬」「さらばムーミン谷」などがあり、いずれも哲学に特徴的な考え方や、難問を解決する道具立て(理論的ツール)によらなければ、隠された素顔をけっして現さない。これらの傑作は、深読みするまでもなく、自然に楽しめる内容の作品であるが、細部にこだわる一貫した解釈に努めたときに初めて、比類なく深遠なストーリーの真相を教えてくれるのである。それゆえ、ここで例示した諸作品の読解にむけても、本書が読者にとって何らかの「きっかけ」または参考になれば、誠に幸いである。
なお、再版にあたっては、この度もまた勁草書房の橋本晶子さんに大変お世話になった。末筆となり、恐縮しつつ、感謝の意を表したい。
2024 年6 月
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