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サラ・K・ポール 著
萬屋博喜 訳
『行為の哲学入門』
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訳者あとがき
1 著者と原書の紹介
本書は、ラウトレッジのContemporary Introduction to Philosophyという哲学入門書シリーズの一冊として刊行された、サラ・ポールの著書Philosophy of Action: A Contemporary Introduction, Routledge, 2021の全訳である。
まず、本書の著者であるサラ・ポールについて紹介しておこう。ポールは、2009年にスタンフォード大学で博士号を取得している(指導教員はマイケル・ブラットマン)。その後、2010年にウィスコンシン大学マディソン校の助教に就任した。2016年には同大学の准教授となり、2019年にニューヨーク大学アブダビ校の准教授に就任、2023年以降は同大学の教授となり、現在に至っている。
ポールの専門は行為の哲学と心の哲学であり、特に意図や実践的知識に関する論文を矢継ぎ早に発表している。さらには、認識論、メタ倫理学、法哲学などの分野にも関心を示しており、ポールの視野の広さが伺える。本書はポールにとって初めての著作であり、これをきっかけとして日本の読者にもポールの研究を知ってもらえれば幸いである。
ラウトレッジのContemporary Introduction to Philosophyというシリーズは哲学分野の教科書として定評があり、言語哲学、科学哲学、知覚の哲学、古代哲学については邦訳が刊行されている。
Lycan, W. (1999) Philosophy of Language: A Contemporary Introduction, Routledge. W・G・ライカン『言語哲学──入門から中級まで』荒磯敏文・川口由起子・鈴木生郎・峯島宏次(訳)、勁草書房、2005年。
Rosenberg, A. (2005) Philosophy of Science: A Contemporary Introduction, 2nd edition, Routledge. アレックス・ローゼンバーグ『科学哲学──なぜ科学が哲学の問題になるのか』東克明・森元良太・渡部鉄兵(訳)、春秋社、2011年。
Fish, W. (2010) Philosophy of Perception: A Contemporary Introduction, Routledge. ウィリアム・フィッシュ『知覚の哲学入門』山田圭一(監訳)、源河亨・國領佳樹・新川拓哉(訳)、勁草書房、2018年。
Shields, C. (2012) Ancient Philosophy: A Contemporary Introduction, 2nd edition, Routledge. クリストファー・シールズ『古代哲学入門──分析的アプローチから』文景楠・松浦和也・宮崎文典・三浦太一・川本愛(訳)、勁草書房、2022年。
以上の著作は、それぞれの分野における標準的な教科書となっており、豊富で身近な具体例をもとに明晰な議論を展開するという特徴を持っている。行為の哲学(あるいは現代行為論)の入門書である本書にも、こうした特徴を見て取ることができる。
2 本書の特色と使い方
本書の特色の一つは、コンパクトな分量にもかかわらず、行為の哲学における幅広い範囲の主題を扱っているという点にある。行為の説明(第3章)や行為の存在論(第4章)、さらには意図(第5章)や意志の弱さ(第9章)といった代表的な主題をはじめとして、自己統御(第8章)や集合的行為者性(第10章)といった比較的新しい主題にいたるまで、本書では行為の哲学で展開されてきたさまざまな議論が手際よく整理されている。行為の哲学という分野の全体像を把握できるという点が、他の入門書には見られない本書の特色である。
本書のもう一つの特色は、行為の哲学をめぐる問題について、読者自身で議論を組み立てるための工夫が凝らされているという点である。行為の哲学がどのような分野であるかを述べた第1章、そして行為の哲学の全体像を概観した第2章を除き、それぞれの章は、「意図」や「意志の弱さ」などの特定の主題に関する中心的な問題が示され、それに対する代表的な見解や議論が紹介されるという構成になっている。さらに、それぞれの章には「まとめ」と「読書案内」が用意されており、初学者が順を追って行為の哲学に入門できるようになっている。(以下、本文つづく)