あとがきたちよみ
『ジェンダー公正な人事制度とはなにか――雇用管理区分・転勤制度見直しの実態と課題』

About the Author: 勁草書房編集部

哲学・思想、社会学、法学、経済学、美学・芸術学、医療・福祉等、人文科学・社会科学分野を中心とした出版活動を行っています。
Published On: 2026/2/9

 
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大槻奈巳 編著
『ジェンダー公正な人事制度とはなにか 雇用管理区分・転勤制度見直しの実態と課題』

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はじめに
近年の人事制度の変化――雇用管理区分と転勤について
 
大槻奈巳
 
1 問題の所在
(1)雇用管理区分と中核人材
 日本の男女間の賃金、職務、昇進機会の格差は依然として大きく、その要因のひとつは、雇用管理区分である。正規雇用と非正規雇用の区分からみると、女性の約半数は非正規雇用者として働いている。正規雇用者であっても、「職種限定の有無」「勤務地限定の有無」「勤務時間の長短や所定外労働時間の有無」を基準とした区分を用いる企業もあり、女性は「職種が限定」「勤務地が限定」「勤務時間は短く所定外労働時間なし」の区分で働いている傾向がある。
 特に、日本企業において転居を伴う転勤ができるかできないか――つまり、転居を伴う転勤の対象者として全国どこにでも行くか、それとも行かないのかによって、中核人材として扱われるか、扱われないかが決まり、雇用管理区分をわける条件となっている。
 米村紀美(2021)は、転勤を含む異動は日本企業における同質的な人材を前提とした人事管理システムと密接に関係していると述べ、大企業を中心とした多くの企業で新卒を一括採用し、異動や転勤を行いながら時間をかけて育成し、年功的な処遇を行ってきた、この人事管理システムにおいて中核人材として想定されたのは「フルタイム勤務で勤務先からの残業や転勤の要請にいつでも対応可能な人材」であり、このような人材を確保し続けることが事業の発展や成長に欠かせない要素だったという。
 1986 年に男女雇用機会均等法が施行された際に、コース別雇用管理制度を導入し、全国転勤ありの総合職と全国転勤なしの一般職の区分を設定した企業が散見された。その後、働く勤務地を限定した勤務地限定総合職の導入が進んだ。「フルタイム勤務で勤務先からの残業や転勤の要請にいつでも対応可能な人材」が中核人材として想定されるなか、転居を伴う転勤があるか・ないかによって雇用管理区分を変えることが行われてきた。
 厚生労働省「令和5 年度雇用均等基本調査」によると、「正社員・正職員」に占める女性の割合は27. 3%、総合職では21. 5% であった。また、女性の「正社員・正職員」に占める各職種の割合は、一般職が43. 5% ともっとも高く、次いで総合職38. 6%、限定総合職13. 6% の順に、男性の「正社員・正職員」に占める各職種の割合は、総合職の53. 0% がもっとも高く、次いで一般職31. 1%、限定総合職9. 3% の順であった。
 コース別雇用管理制度を導入している企業は大企業ほど導入割合が高く、企業規模5000 人以上での導入割合は52. 5% である(厚生労働省平成29 年雇用均等基本調査)。
 2014 年に改正「男女雇用機会均等法施行規則」が施行され、コース別の雇用管理において転勤要件が間接差別とされるケースとして、総合職の募集以外に職種の変更・昇進が新たに追記された。労働者の職種変更・昇進・採用・募集に対して、なんら合理的理由がないのに転勤要件を設けると、間接差別となる可能性が示されてはいる。
 女子差別撤廃条約委員会は、日本の定期報告に対する最終見解において、労働市場において続く水平的・垂直的職務分離および低賃金雇用部門への女性の集中の原因の一端はコース別雇用管理制度にあることを長年指摘している。
 一方で、変化もでてきている。駒川智子(2019)は、金融業等で、経営環境の変化と女性の活躍推進法施策を受けて、女性の能力発揮を進めるべく、総合職と一般職の中間に位置するコースの設定や、一般職の職域拡大を行うなど、コース別雇用管理制度が変更されつつあることを指摘している。
 金井郁(2021)は、生命保険産業の大規模な非正社員の正社員化、一般職の総合職化といった雇用管理区分の統合について検証し、雇用管理区分統合は「能力を発揮する主体」として女性を位置づけ直していることを見出している。
 過去3 年間にコース別雇用管理制度の見直しを行った企業割合は、36. 2% である。内容は「職務内容、職務レベルの見直し」が46. 4%、「職務内容、職務レベルの高低に合わせたコース区分の見直し」が33. 3% となっている(厚生労働省「平成29 年度雇用均等基本調査」)。
 
(2)転居を伴う転勤への新たな考え
 「フルタイム勤務で勤務先からの残業や転勤の要請にいつでも対応可能な人材」を中核人材として想定することにも変化が生じている。2017 年に厚生労働省が「転勤に関する雇用管理のヒントと手法」をまとめている。「まち・ひと・しごと創生総合戦略(2015 年改訂版)」(平成27 年12 月24 日閣議決定)を踏まえ、(独)労働政策研究・研修機構が行った転勤に関する実態調査の結果等をもとに、有識者による研究会をひらいて策定したものである。
 この問題意識として、第一に(転居を伴う)転勤は、生活の本拠等を長期にわたり変更させ、労働者の暮らしに大きな影響を及ぼすこと、第二に、異動のひとつとしての転勤に関する雇用管理において、事業運営上の都合や人材育成などを目的とする転勤と仕事と家庭生活の両立などに関する労働者の事情や意向との折り合いをつけることが重要であること、第三に、女性の就業率向上、共働き世帯の増加、高齢化、労働力人口の減少など、近年の社会経済情勢の変化により、労働者の事情や意向との折り合いをつける重要性がいっそう顕在化してきたことを述べている(厚生労働省 2017)。
 そして、近年の動きとして、企業においては、家庭生活などでの多様な事情を抱える労働者について転勤させることが難しいと認識し、労働力人口の減少を見すえるなかで、転勤をめぐる自社の雇用管理のあり方を再考したいとのニーズや、現に見直しを行いまたは模索する例もみられるようになっている、と指摘されている(厚生労働省 2017)。
 武石恵美子(2022)は、働く人の世帯構造や価値観が変化し、会社主導の転勤をこれまでのように継続することがいよいよ難しくなってきたと述べ、「男女労働者のワーク・ライフ・バランスの観点から、女性の活躍推進の観点から、さらにはダイバーシティ推進の観点から、転勤制度はこれらの推進策のネックになると考えられ、転勤のあり方が問われるようになった」という。労働政策研究・研修機構(2017)の企業調査でも介護や子育て等の理由により、男女ともに、転勤に関して配慮を求める社員が増加していることが指摘されている。
 米村(2021)は、いま、企業や労働者を取り巻く環境は大きく変化し、「フルタイム勤務で勤務先からの残業や転勤の要請にいつでも対応可能な人材」は当たり前ではなくなり、労働力人口が減少するなか、育児・介護の問題で転勤に対応できない社員は今後ますます増えていくと述べている。
 
(3)転居を伴う転勤の現状
転居を伴う転勤の実施状況
 全国転勤できることが条件になっている総合職であるが、実際には転勤をしないものもいる。労働政策研究・研修機構(2017)の企業調査によると、正社員(総合職)の転勤について、「ほとんどが転勤の可能性がある」企業が33. 7%、「転勤をする者の範囲は限られている」企業は27. 5%、「転勤はほとんどない」企業が27. 1% であった。企業規模が大きいほど、国内の拠点数が多い企業ほど、業種では建設業や不動産業、金融業、飲食サービス業などで総合職に転勤の可能性があるとする割合が高い。
 また、同企業調査(労働政策研究・研修機構 2017)によると総合職の実際の転勤経験者の割合は高くない。また、男性と女性で差がある。実際の転勤経験者の割合は、男性では「1 割程度」がもっとも多く(21. 0%)、続いて「2 割程度」(17. 2%)、「3 割~4 割程度」(17. 1%)、「転勤経験者はほとんどいない」が7. 8% であった。女性は「転勤経験者はほとんどいない」が過半数(51. 7%)を占めていた。制度的には男女ともに転居を伴う転勤の対象となっていても、男性のほうが転勤経験者割合は高い、また実際に転勤経験のある男性の割合は1割から2 割程度である企業が約4 割を占めていた。
 武石(2022)によると、男性で転勤経験者が半数程度以上という企業は1/3程度で、女性に比べて男性の転勤頻度は高いが、男性のなかでも転勤の状況はばらつきが大きいこと、転勤をしない社員のほうが多い企業が多数となっていることを指摘している。
 正規雇用者の場合、転居を伴う転勤の対象者として全国どこにでも行くのか、それとも行かないのかが雇用区分をわける条件となっているが、実際に転勤しているものの割合は高くないのである。
 
転勤の目的
 配置と異動に関して、今野浩一郎・佐藤博樹(2020)は、「配置と異動は社員と仕事を結び付け、仕事の遂行に必要な労働サービスの提供を社員に求めるための仕組み」と述べ、「日本では企業が社員の適性や職業能力を評価し、それに見合った仕事に従事させるためや能力開発のために、配置・異動を実施してきた」としている。
 実際のところ労働政策研究・研修機構(2017)の企業調査では、会社から見た転勤の目的(複数回答)は、「社員の人材育成」が66. 4% ともっとも多く、次に「社員の処遇・適材適所」(57. 1%)、「組織運営上の人事ローテーションの結果」(53. 4%)、「組織の活性化・社員への刺激」(50. 6%)であった。
 一方で、松原光代(2017)は、総合職の約24% は異動経験がまったくないこと、男女の差はないこと、「部長・次長クラス以上」の役職者の約29% は異動の経験がないことを指摘している。さらに管理職の約26% は転勤経験がないという。通常の異動のみ、または異動経験がなくても管理職に必要な能力獲得が可能であることを示しているという。また、異動や転勤の約70% 程度は直接的に昇進や昇格につながっていないこと、転勤経験は能力開発に有意な関係があるとはいえないと述べている。
 
転居を伴う転勤への考えの変化
 従業員の転居を伴う転勤への考えも変化している。河岸秀叔(2024)は、本人の同意の有無にかかわらず、従業員が転勤辞令に従うことは、日本のメンバーシップ型雇用において一般的であり、1998 年には、20 代・30 代の約30~40%、50 代・60 代の約半分が、会社都合の転勤をやむをえないと考えていたが、2022 年には、ほぼすべての年代で、転勤をやむをえないと考える人は減少したと指摘している。また、主な背景には、家族のあり方と人口構造の変化により、転勤が家族に与える負担が以前より重たくなったことを挙げている。
 さらに河岸(2024)は、従業員が「転勤を拒否する理由」を見てみると、①配偶者も仕事をしていること(共働き)、②子育て、③親の介護、④新しい土地への適応の4 点が、ほぼすべての年代に共通し、共働きや親の介護を行う従業員が増加しているという。
 また、今野(2022)によれば、企業の転勤方針は「企業が最終的に決定する」という基本構造に大きな変化はないものの、本人の事情や意向を配慮する姿勢は強まり、自己申告制度などを通じた本人の意向確認は一般化し、「配慮する」とする企業の割合は大きく増加しているという。だれの意向で転居を伴う転勤をするのかも重要な論点である。
 
2 本書の課題と構成
(1)本書の課題
 非正規雇用と正規雇用を統合したり、一般職を廃止して総合職との壁をとりはらうなど雇用管理区分の見直しを行う企業がでてきており、また、転居を伴う転勤の運用について見直す企業がでてきている。
 本書では、第一に、総合職と一般職の統合や転居を伴う転勤の運用見直し、転勤あり・なしによる雇用区分の見直しの実態と課題を明らかにし、第二に、これらの見直しがジェンダー公正な人事制度に資するものになるのかを考えたい。第三に、どのような人事制度や工夫がジェンダー公正な人事制度となるかを提案したい。
 
(2)本書の構成
 本書は3 部13 章から成り立っている。第I 部「人事制度をめぐる会社の意図と従業員の応答――小売業の事例から」は、一度は正規雇用と非正規雇用を統合し、全従業員を正規雇用にしたが、その後、再複線化した小売業X 社の事例から、雇用区分の統合、再複線化の意味について考察する。
 第1 章「小売業X 社の雇用管理区分の統合と再複線化の背景――ステップアップする「意欲」とジェンダー」では、X 社における、経営側の雇用管理区分変更の意図を明らかにするとともに、その変更が現場の管理者、労働者の主体性にどのようなインパクトを与えたのかを検討する。
 第2 章「正社員登用でなぜ男女格差が生じるのか」では、非正社員から正社員への登用において、なぜ男女格差が生じるのかを、正社員登用の基準、正社員の仕事と能力、上司による育成の3 点から考える。
 第3 章「転勤の有無による雇用管理は妥当なのか」では、①全国転勤しない資格を新設した経営側の意図、②全国転勤の有無によって役割が異なることへの従業員の考え、③人事部や従業員は転勤からなにを得られると考えているのか、④転勤を減らそうとしている小売業Y 社との相違について検討している。
 第II 部「人々の働き方と意識――人事制度の変化のはざまで」では、従業員の意識に焦点をあてる。第4 章「キャリアヒストリーでみる人々の働き方」では、さまざまな男性と女性の語りから、仕事へのやりがい、キャリア展望と転勤の関係、女性の管理職登用、リモートワークのあり方を読み解き、柔軟な働き方が生み出す可能性を考察する。
 第5 章「転勤経験者における転勤の意味と男女差」では、転勤経験者を主な対象に、転勤の実態および、どのような転勤がキャリアに有意義か、男女別に分析した。また、転勤が今後も必要か、労働者における転勤の必要性認識を考えた。
 第6 章「人々の転居を伴う転勤への考え」では、総合職でかつ国内の転居を伴う転勤の対象者になっている者の転勤の経験、転居を伴う転勤への考えを検討している。
 第7 章「転勤と働く意識――有配偶と独身の中堅総合職の比較から」では、未婚化の進展という観点から、日本的雇用慣行が前提としてきた「標準」的な働き方のモデルである有配偶男性正社員とは異なるライフコースである有配偶女性だけでなく、独身の男女にも焦点をあてている。非管理職の総合職を分析対象として、転勤に関する経験や意識が、転居を伴う国内転勤がライフプランの障害になっているという認識や自身の勤続希望や昇進希望に、どのような関連があるか、どのような影響があるかについて考察している。
 第8 章「勤務地限定総合職とジェンダー」では、大企業で働く勤務地限定総合職の属性・働き方・処遇・意識等の男女差を、明らかにする。さらに、現在の勤務地限定総合職の現状を「ジェンダー公正な人事制度」という観点から検討する。
 第III 部「雇用管理区分・転勤制度の見直しとジェンダー」では、雇用管理区分や転居を伴う転勤制度の見直しを行い、新たな方策を導入した7 社へのインタビュー調査等をもとに論じている。
 第9 章「転居を伴う転勤における新たな方策について」では、雇用管理区分の変更や転居を伴う転勤に関してどんな見直しを行い、どんな新たな方策を導入したかを述べている。
 第10 章「職務中心の人事制度への移行と雇用管理区分」では、職務中心の人事制度への移行が、雇用管理区分の変更を促しているが、それはなぜなのか人事部へのインタビューから明らかにし、女性従業員にどのような影響があるのかを検討する。
 第11 章「雇用管理区分の変化でジェンダー格差は縮小するか」では、コース別雇用管理制度を敷いてきた代表的産業である金融業と保険業を対象に、雇用管理区分の見直しと背景にある人材育成上の考えを、男女のキャリア形成とWLB の視点から考察する。
 第12 章「雇用管理区分の変化と企業理念の浸透」では、雇用管理区分の見直しやそれに伴う転勤制度が変化するなか、企業理念の浸透はどのように行われ、従業員に影響を与えているのか。事例としてC 社、G 社をとりあげ、その実態を探る。
 第13 章「人事制度の変化と人事の役割」では、ジェンダー公正を企業内で実現する仕組みを構築する観点から人事施策の企画・運営管理の中心を担う本社人事部門の役割と機能について検討している。
 「おわりに ジェンダー公正な人事制度のために」では、ジェンダー公正な人事制度について提案する。
(注と文献は割愛しました。PDFをご覧ください)
 
 
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