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ウェブ連載版『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』 連載・読み物

ウェブ連載版『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』第12回

5月 19日, 2016 松尾剛行

 
「大体あってる」内容なら、免責を受けられる? そんな簡単な話ではありません![編集部]
 

ネット掲示板上でなされた会社を批判する投稿による名誉毀損が問題となった事案から、(重要部分の)真実性について探る

 
 連載第8回および第9回で説明したとおり、名誉毀損の免責法理として最も重要なものがいわゆる真実性の法理であり、たとえある表現が他人の社会的評価を低下させる場合であっても①「公共の利害に関する事実」に関するもので(公共性)、かつ、②専ら「公益を図る目的」に出ているのであれば(公益性)、③摘示された事実が真実であると証明された場合(真実性)には免責されます。

ここで、真実性の「摘示された事実が真実であると証明」という部分については、細部のささいな誤りがあってもあまり問題とはならず、「重要な部分」または「主要な点」において真実性が証明できればよいと考えられています。

たとえば、ある記事の中に一部は真実が含まれているが、一部は虚偽が含まれているという場合、真実な部分が「重要な部分」なのかが問題となります。

では、何が「重要な部分」または「主要な点」なのでしょうか。掲示板上の会社批判の投稿による名誉毀損が問題となった事案(注1)について、東京地方裁判所の判決を題材に検討してみたいと思います。
 
*以下の「相談事例」は、本判決の内容をわかりやすく説明するために、本判決を参考に筆者が創作したものであり、省略等、実際の事案とは異なる部分があります。本判決の事案の詳細は、判決文をご参照ください(注2)。

 

相談事例:重要な点が事実と異なる記事

 Aに名誉を毀損されたとしてB社の担当者がM弁護士のところに相談に来た。

元従業員であるAがブログを開設し、B社の批判を始めた。

その中には、B社が、新入社員に対して同業他社に転職した場合は罰金800万円を支払う旨の誓約書を提出させているといった内容が含まれていた。

たしかに、B社は入社する社員に対し競業他社への転職や社内秘密の漏洩を禁止する旨の誓約書を提出させていた。しかし、これらの義務に違反した場合の賠償予定は定められていない。

B社は、Aの行為がB社の名誉を毀損するものであるとして、法的措置を講じたいとしている。

M弁護士はB社に対しどのように助言すべきか。

 

1.法律上の問題点

 Aのブログ記事には、B社が新入社員に対し、不当な内容の誓約書を書かせているという事実が摘示されています。これは、B社の労務管理が不相当である、いわばB社が「ブラック企業」である(注3)といっており、そのブログを読んだ人は、B社に対して否定的な評価を抱くでしょうから、B社の社会的評価を低下させるといえます。

問題は、B社は実際に、新入社員に対して誓約書を書かせていたということです。

真実性の法理といわれる免責事由の3要件のうち、このような労働問題についての言説には公共性・公益性があると思われる(注4)ことから、残る問題は、真実性です。つまり、Aの記事には真実性があるとして免責されるのかが問題となります。

最高裁は、真実性について、一字一句真実である必要はなく、「重要部分」または「主要な点」が真実であればよいとしています(注5)。

そこで、本件では、Aのブログの記事が「重要部分」または「主要な点」において真実といえるか、何をもって「重要」ないしは「主要」というべきかが問題となります。

→【次ページ】重要な点の相違

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松尾剛行

About The Author

まつお・たかゆき 弁護士(第一東京弁護士会、60期)、ニューヨーク州弁護士、情報セキュリティスペシャリスト。平成18年、東京大学法学部卒業。平成19年、司法研修所修了、桃尾・松尾・難波法律事務所入所(今に至る)。平成25年、ハーバードロースクール卒業(LL.M.)。主な著書に、『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』(平成28年)、『金融機関における個人情報保護の実務』(共編著)(平成28年)、『クラウド情報管理の法律実務』(平成28年)、企業情報管理実務研究会編『Q&A企業の情報管理の実務』(共著)(平成20年)ほか。