《法律実務書MAP》
ブックガイドPartⅠ法律実務の基本スキル

About the Author: 法律実務書サポート

Published On: 2016/9/20

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大島義則プロデュース《法律実務書MAP》のブックガイドを8回に分けて公開していきます。ブックガイドはフェア開催店の店頭で無料配布しています。ぜひこの機会にご来店ください。[編集部]
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Part Ⅰ 法律実務の基本スキル
written by 大島義則

 
 法律実務の基本スキルは、何であろうか。これ自体論争的なお題であるが、さしあたり法律実務における「読み」、「書き」、「そろばん」をもって、法律家の基本スキルと言えるのではないか。
 すなわち、法律実務では何よりもまず条文を「読める」ことが、必要最低限の能力である。jobunnoyomikata法制執務(法令文の作成実務)では日常用語とは異なる独特のルールが形成されてきており、法制執務用語を理解することは法令を正確に読み解くための前提条件である。法制執務用語の辞書的な書籍としては法制執務研究会編『新訂 ワークブック法制執務』(ぎょうせい、2007年)があるが、よりコンパクトな法制執務用語研究会 『条文の読み方』【1】を手元に置いておくのが便利であろう。
 訴状、答弁書、準備書面、契約書等のリーガルな文書を「書く」ときに役立つのが、田中豊『法律文書作成の基本』【2】である。アメリカのロースクールでは法律家の文書作法をリーガル・ライティングという科目で学ぶが、日本の法学部やロースクールではリーガル・ライティングを体系的に教えてくれるところは少ない。同書は、日本におけるリーガル・ライティングの唯一の基本書とでもいうべき位置付けにある本である。また、法律文書を作成する以上、文書を書く際に「漢字」と「ひらがな」をどのように区別するのか、送り仮名をどうするか等についても、ある程度のこだわりを持つべきである。horitubunshosakuseinokihonyojiyogoreishu官公庁が正式文書で使用している公用文の漢字使用や送り仮名の用法を真似ると、法律文書らしさが出る。ぎょうせい公用文研究会『最新公用文 用字用語例集』【3】をデスクに置いておき、慣れるまでは逐一参照する癖をつけると良い(もっとも、法律文書であるからといって、公用文に厳密に縛られなければならないわけではなく、一つの目安である)。
dokuritsunosusumebengoshihoshu プロの弁護士であれば自らの仕事の金銭的価値を自ら評価し、事務所を経営する「そろばん」もしっかりやらなければならない。弁護士に依頼をする個人や会社の法務担当者にとっても弁護士の「そろばん」を十分理解しておくことにはメリットがあるだろう。2004年に弁護士報酬が自由化されたため、弁護士報酬の算定方法は法律事務所ごとにまちまちであるが、一つの相場観を知るものとして吉原省三=片岡義広編著『新版 ガイドブック弁護士報酬』【4】が参考になる。また、若手弁護士による独立開業体験談をリアルに描いた北周士編著『弁護士独立のすすめ』【5】を読むと、弁護士事務所の台所事情がわかる。独立開業を検討している弁護士にとっては、非常に参考になるであろう。
 
 

コラム①法律実務に効くこの1冊! 基本スキル編

 
キース・エヴァンス著・高野隆訳『弁護のゴールデンルール』【6】
 
bengonogoldenrule 本書は決して新しい本ではない。本書の原著である「The Golden Rules of Advocacy」が出版されたのは1993年と20年以上も前であるし、訳書である本書が出版されたのも2000年である。その後、本書は刷りを重ねつつも基本的にはその内容は出版当初のものと変わっていない。
 また、本書は法律書としては驚異的にページ数が少なく(150ページほどである)、その表現も極めて平易なものが全体にわたって用いられている。したがって、実務法曹はもちろんのこと、ロースクール生であれば、本書をただ読むことについて困難を覚える人間はほぼいないと断言してよい。さらに本書は単純に読み物としても面白く、加えて言えば法律書としては値段も安い。

しかしながら、本書の内容が薄いかと言えばそんなことはない。本書には弁護士が尋問に挑むに当たり、必要とされるものがすべて記載されていると言っても過言ではない。熟読すれば人生最初の尋問であっても過度におびえる必要はなくなるだろうし、尋問を経験した後に読み直しをすると毎回新たな発見があるだろう。私は現在でも尋問の前には本書を欠かさず読むことにしている。

なお、本書は陪審員制度を前提とした刑事事件における尋問について書かれたものであるが、本書に記載されている考え方及び尋問技術は日本における刑事事件だけでなく民事事件における尋問においても十分に効果を発揮するであろう。
現在の法律実務家にとって最も重要な基本スキルはヒアリング能力と文書作成能力である。そういった意味では(特に民事事件においては)尋問技術を磨くことは順序としては後回しになりがちである。

しかしながら、尋問はヒアリングや書面の作成と異なり、ミスを取り返すことができない。また、尋問のスタイルは我流になりやすく、尋問技術を全く認識していない尋問や、逆に尋問技術のみにとらわれた結果、極めて薄い(表面的な)尋問で終わっている例が散見される。その割に自分は尋問が上手いと思っている弁護士がやたらいるのは由々しき問題であると思う。

本書は、単に尋問技術のみが記載されているのではなく、弁護士としての心構えや心理学に関する記載もある。本書の内容を十分に理解すれば、貴方は弁護士として十分な尋問を行うことができるようになるだろう。

なお、前述の様に本書は陪審員制度を前提としている。仮に日本における尋問技術に特化した書籍を希望する場合は選書【86】の『実践!刑事証人尋問技術』も併せて読むと良い。本書の「ゴールデンルール」を国内での活動に具体的に生かすためにはどうしたらよいかを把握することができるだろう。

法曹実務家及びロースクール生の尋問技術が本書によって飛躍的に伸びることを期待している。
 
北 周士(きた・かねひと)
北・長谷見法律事務所代表弁護士。中小企業の法務・労務を中心的な業務とする事務所を経営しつつ、若手弁護士の開業・経営支援を目的としたセミナー等を行っている。主な編著として『弁護士 独立のすすめ』(第一法規、2013年)、『弁護士 転ばぬ先の経営失敗談』(第一法規、2015年)、共著として『実践 訴訟戦術』(民事法務研究会、2014年)、『民事交通事故訴訟 損害賠償算定基準』(通称赤い本・2013、2014年)がある。

 
 
紹介書籍一覧
【1】法制執務用語研究会『条文の読み方』(有斐閣、2012)
【2】田中豊『法律文書作成の基本』(日本評論社、2011)
【3】ぎょうせい公用文研究会編『最新 公用文用字用語例集』(ぎょうせい、2010)
【4】吉原省三=片岡義広編著『新版 ガイドブック弁護士報酬』(商事法務、 2015)
【5】北周士編著『弁護士独立のすすめ』(第一法規、2013)
【6】キース・エヴァンス(高野隆訳)『弁護のゴールデンルール』(現代人文社、2000)
■紹介書籍について
*大島義則プロデュース・ブックフェア《法律実務書MAP》で無料配布したブックガイドに掲載の書籍を各パートごとにご紹介しております。
*紹介書籍には品切の書籍が含まれている場合があります。ご了承ください。
*「法律実務書」を紹介するフェアですので、基本書や学術論文集は原則として取り上げておりません。またデスクに置いておく法律実務書を想定しており、逐条解説書やコンメンタールの類も必要に応じて取り上げるにとどめております。

【勁草法律実務シリーズ】
shohishagyoseiho_shoei大島義則ほか編著『消費者行政法』
安全法、取引法、表示法、個人情報保護法の分野において、行政庁はどのような法執行を行っているのか。また、その法執行を受ける企業はどのような対応をすべきであるのか。現役消費者庁職員および元職員の弁護士が解説する画期的法律実務書。企業法務担当者、法律実務家、行政職員等必携。2016年8月刊。
internetmeiyokison_shoei松尾剛行著『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』
時に激しく対立する「名誉毀損」と「表現の自由」。どこまでがセーフでどこからがアウトなのか、2008年以降の膨大な裁判例を収集・分類・分析したうえで、実務での判断基準、メディア媒体毎の特徴、法律上の要件、紛争類型毎の相違等を、想定事例に落とし込んで、わかりやすく解説する。2016年2月刊。
keiyakunohomu喜多村勝德著『契約の法務』
契約法の基礎、契約書文例の詳細な検討はもちろん、裁判例の考え方を丁寧に紹介しつつ、契約法における民事訴訟法上の論点を解説する。さらには、ユニドロワ原則、債権法改正、契約交渉のポイントも加え、契約法務の全体像を立体的に示す。法曹以外の読者も想定し、法的概念の基本から丁寧に説き起こし、あらゆる場面に応用可能な「契約力」の土台をつくる。2015年8月刊。
kazokuhokommentar大塚正之著『臨床実務家のための家族法コンメンタール(民法親族編)』
条文を本当に理解するとは、どのようなことをいうのか。実務の現場で条文を使いこなせるようになることを目的として、実際にどのように条文が活用されているのかを明らかにしつつ、丁寧に逐条解説を施す。弁護士、司法書士等の法律実務家、調停委員、ADRにかかわる方必携。2016年1月刊。
genshiryokusonbai第一東京弁護士会災害対策本部編『実務 原子力損害賠償』
東日本大震災、それにともなう福島第一原子力発電所事故から約5年、この間が積み上げた「原子力損害賠償紛争解決センター」への申立てによる賠償問題解決のノウハウを示す。避難指示による避難・自主避難による損害、営業損害、風評被害、避難関連死等、気になるポイントをわかりやすいQ&A形式で解説。2016年2月刊。

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