インターネット上で使ったら名誉毀損になるような表現でも法廷ならセーフなことが多いのですね。[編集部]
訴訟活動と名誉毀損
1.はじめに
最近はインターネット上において、裁判報告等をする場合の名誉毀損が問題となる事案をよく見かけます。その関係で「訴訟活動の一環だから名誉毀損にならない」といった抗弁が出されることもあります。実は、インターネット上での「裁判報告」は訴訟活動ではないので、必ずしも訴訟活動における名誉毀損と同様に判断されるわけではありません(注1)。しかし、訴状、準備書面、陳述書上の記載といった本当の訴訟活動であれば、インターネット上やマスコミによる名誉毀損であれば違法とされるような行為について違法性が阻却されることが多いといえます。
『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』でもこの問題には若干言及した(注2)ものの、必ずしもきちんと裁判例を総合的に分析したわけではありません。そこで、今回は訴訟活動と名誉毀損について検討してみようと思います。
訴訟活動で名誉を毀損した事案
A1は、Bから情報商材を購入したが、全く価値のないものであったため返金を求めたものの断られた。弁護士A2はA1を代理して第1訴訟訴を提起し、訴状において「Bは悪徳業者であり、無価値の情報商材を高く売りつける詐欺を行っている。A1は売買契約を、詐欺を理由として取り消し(民法96条)、代金の返還を求める」等と記載した。
第1訴訟で裁判所は、Bに詐欺の故意があったかは不明として詐欺は認めなかったものの、重要事項について事実と異なる情報を告知したとして、消費者契約法に基づく取消を認め、返金を命じ、この判決は確定した。
Bは、第1訴訟におけるAらの訴訟活動によって、Bの名誉が毀損されたと考え、第2訴訟を提起し、A1とA2に対し名誉毀損を理由とする損害賠償を請求した。
2.もしインターネット上で同じ表現をしたら?
インターネットの掲示板に「(情報商材業者の)Bは悪徳業者であり、無価値の情報商材を高く売りつける詐欺を行っている」と書き込んだとしましょう。この投稿が(少なくともBの社会的評価を低下させるという意味で)名誉毀損とされる可能性は高いといえます。詐欺というのは犯罪にもなり得る行為であり、通常情報商材業者であるBの社会的評価を低下させます。そこで、むしろ問題は真実性・相当性(注3)であり、本当にBが詐欺を行っているかとなるでしょう。第1訴訟でBの詐欺が否定されたことからは、真実性は認められなさそうです。後は相当性の問題であり、どのような資料を元に「詐欺」と断定したのかが問われるところです。いずれにせよ、この表現をAがインターネット上で行えば(最終的にAが勝つかBが勝つかは事実関係によるものの)「Aにとって分が悪い」というのは間違いないでしょう。
しかし、この相談事例では、Aらは訴訟活動としてこのような表現をしているのです。
3.訴訟活動の特殊性
そもそも、訴訟活動には特殊性があります。
国民は裁判を受ける権利(憲法32条)が保障されており、そこでは当事者主義の原則に基づき、双方が主張・立証を存分に行い、その結果として裁判所が判断を下す審理構造が存在します。
すると、このような、訴訟活動の自由は、特に訴訟の当事者となった私人にとっては重要であり、単なる「表現の自由対名誉権」という通常の名誉毀損の場面とは様相を異にするといえます(注4)。
この点、刑事事件における検察官の「論告」が問題となったという意味では特殊性がありますが、最高裁(注5)は訴訟上の活動が第三者の名誉を毀損する場合であっても「当該陳述が訴訟上の権利の濫用にあたる特段の事情のない限り、右陳述は、正当な職務行為として違法性を阻却され」るとしました(注6)。
このような、訴訟上の言動が社会的評価を低下させることがあっても、原則として正当な訴訟上の行為として違法性が阻却されるものの、訴訟上の権利の濫用(民事訴訟法2条参照(注7))といえるような例外的な場合にのみ違法とされるという考え方は、刑事事件のみならず、民事事件でも採用されています(注8)。
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