リンクは名誉毀損になるの!? ならないの!?[編集部]
リンクを貼る行為とインターネット上の名誉毀損
1.はじめに
インターネット上ではリンク(ハイパーリンク)をたどって様々な情報にアクセスすることができます。では、誹謗中傷サイトのリンクを貼る行為は名誉毀損になるのでしょうか。
拙著『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』は、2015(平成27)年の執筆時に入手可能な裁判例から、リンクを名誉毀損とした例として東京高等裁判所の判決(注1)や東京地方裁判所の判決(注2)等を引用した上で、逆にリンクを名誉毀損としないとする東京地方裁判所のいくつかの判決(注3)もあると論じました。
これらの判決で結論が分かれた理由はどう理解すればよいでしょうか。ひとつには時系列的に考えることが可能です。すなわち、平成24年に東京高等裁判所の判決が出て以降は、これを肯定する方向の判決が増えているとみることができました。
しかし、平成27年以降3つの事案において、「リンクは名誉毀損とならない」という内容の計4つの判決・決定が出され、その中には東京高等裁判所によるものも含まれています。これらをどう読むべきでしょうか。
東京高等裁判所の決定(注4)の事案を参考に相談事例をみていきましょう。
リンクにより名誉を毀損した事案
BがM弁護士のところに相談にきた。
AはBらと政治的に対立しており、対立する人たちの悪行をインターネット上でばらまこうとした。
Aはツイッター上に「おっと、URLが削れてた。あげ直し。」という文言の後にURLを記載したツイートを投稿した。
このURLを開くと「神の意思(注:Aと対立している人、Bとは異なる。)が政治結社を作って#保守を惑わそうとしたが資金集めに失敗してさっさと結社潰した詳細スレはコチラ」として、ドロップボックスへのリンクを貼ったサイト(中間ウェブページ)があり、ドロップボックス上のPDF(本件ウェブページ)にリンクされている(ただし、このPDFをAがアップロードしたかは不明である。)。当該PDFの中には、冒頭の記事の中でBが暴行行為を行ったという趣旨の言及が3行ある。
BはこれがBの名誉を毀損するものとして、Aを訴えたい(注5)。
2.裁判所の判断
上記相談事例類似の事案で、BはこのPDFファイルがBの名誉を毀損することから、当該PDFファイルに(間接的に)リンクを貼ったツイートをしたAの行為もまたBの名誉を毀損すると主張しました。(AがPDFファイルを投稿したと立証できていれば、PDFの投稿を端的に名誉毀損といえばよいのですが、それが不明ですので、実際の訴訟ではあくまでも、「ツイート」の名誉毀損だけが問題となったことには留意してください。)
東京地方裁判所は、ツイッター上の投稿の外形的、客観的な記載内容それ自体がBの名誉を毀損するものではなく、また、ツイッターの投稿は中間ウェブページやPDFとは別個の投稿である以上、特段の事情のない限り、中間ウェブページ及び本件ウェブページを取り込んでいると認めることはできないとした上で、本件では特段の事情はないとし、名誉毀損を認めませんでした(注6)。
これに対してBが上訴(抗告)しましたが、東京高等裁判所もまた、この行為が名誉毀損であると認めませんでした。その理由としては、基本的には東京地方裁判所の議論を援用しています(注7)。
また、平成27年の東京地方裁判所の判決(注8)では、茨城の弁護士が部下に傷害を与えて逮捕された等のニセニュースURLにリンクを貼った掲示板の書き込みについて、名誉毀損を否定しています(注9)。
さらに平成28年の東京地方裁判所の判決(注10)では、別のスレッドにリンク貼った投稿を掲示板にしたところ、リンク先のスレッドにはある会社を誹謗中傷する多くの記事がありましたが、リンクの趣旨は、あくまでも当該リンク先の記事の中にその会社の役職者を名乗った投稿があることを指摘し、当該投稿が問題であるという自己の見解を示すためのものにすぎませんでした。そこで、裁判所は、このようなリンクをしても、リンク先のすべての誹謗記事を自ら再投稿したことにはならないとしました(注11)(注12)。
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