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ウェブ連載版『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』 連載・読み物

ウェブ連載版『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』第34回

1月 26日, 2017 松尾剛行

 
 

3.検討

これらの4つの判決から、リンクは名誉毀損にならないと考えるべきなのでしょうか。

ここで1つ重要と思われるのは、同時期においてリンクを名誉毀損としている判決も少なくないということでしょう。『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』で調査した時期以降の判決をいくつか紹介しますと、

・投稿にはハイパーリンクが設定されていて、リンク先の具体的で詳細な記事の内容を見ることができる仕組みになっているのであるから、投稿を見る者がハイパーリンクをクリックして本件リンク先記事を読むに至るであろうことは容易に想像できるとしてリンク先記事の取り込みを認めた事例(注13)
・ブロガーに対する掲示板における書込みでURLを貼り付けている部分も容易にリンク先にリンクできるとしてリンク先の内容が名誉侵害または侮辱に当たることから当該書込みも名誉侵害または侮辱に当たるとした事例(注14)
・被害者の実名、勤務先およびその経営主体を明記してURLを記載しているのみならず、これを6回にわたって記載しており、読者を同投稿に注目させ、リンク先の「魚拓」といわれるアーカイブ記事に誘導しようとの意図が強くうかがわれるものといえるとして、リンク先の記事を取り込んでいるとした事例(注15)。

等があります(注16)。

ここで、東京高等裁判所の決定の事例において、中間ウェブページを見ると、「神の意思」というBとは別人に対する言及をメインとすることが想定されており、実際に、PDFファイルのうち、Bの暴行といったBへの名誉毀損が掲載されているのは、わずかな部分にすぎません。そうすると、Aの投稿の趣旨として、「神の意思」に対する批判ないし名誉毀損ファイルを紹介したといえても、そのファイルの中にわずかに含まれるBに対する名誉毀損的記述まで自己の投稿に取り込んだとまではいえない可能性があります。

また、東京地方裁判所の平成27年の判決の事案では、単なるURLだけであったり、意味不明な文字とURLだけということで、本当にこれがリンク先の内容を取り込む趣旨だったか必ずしも明らかではありませんでした。

さらに、東京地方裁判所の平成28年の判決の事案においては、文脈上スレッドにリンクしたことの目的が、誹謗中傷記事を取り込むためではなく、特定の(それ自体は誹謗中傷とはいえない)内容を引用しそれを論評するためのものと理解されました。

その意味で、リンクを名誉毀損としなかった一連の判決は、その具体的な事案において問題となる投稿がリンク先の内容を取り込んだといえない(原告がその立証をできなかった)事案であったと評価することができます。

逆にいえば、上記のリンクを名誉毀損としている判決は、その具体的な事案において、問題となる投稿がリンク先の内容を取り込んだといえる(原告がその立証をできた)事案と評価することができるでしょう。

『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』(270頁)では、この問題について、以下のとおり私見を述べました。

 例えば「このようなことを言っている人がいるが、自分は賛成できない」というような趣旨でリンクを貼っただけであれば、それはあくまでも、当該ウェブサイトの存在を摘示しているだけであって、自己の表現として取り込んだとはいえないだろう。

 その意味では、現在でもなお、表現の趣旨を踏まえ、一般読者の基準によって判断した結果、リンク先の内容を取り込んでいないと判断される場合はあり得るだろう。

今回の連載では、『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』を執筆した際に入手できなかった最新の約10の判決を参考に、再度裁判所の最新の立場を考察してみましたが、表現の趣旨を踏まえ、具体的な事案においてリンク先記事の内容の取り込みがあったかを判断するという、『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』の判断枠組みと類似の枠組みが採用されていると評して差支えないように思われます。

なお、そもそも取り込みの有無を問わずにリンクそのものが違法とする考えについては、『自由と正義』に私が書評を書いた(注17)プロバイダ責任制限法実務研究会『プロバイダ責任制限法判例集』126~127頁を参照してください(注18)。
 
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松尾剛行

About The Author

まつお・たかゆき 弁護士(第一東京弁護士会、60期)、ニューヨーク州弁護士、情報セキュリティスペシャリスト。平成18年、東京大学法学部卒業。平成19年、司法研修所修了、桃尾・松尾・難波法律事務所入所(今に至る)。平成25年、ハーバードロースクール卒業(LL.M.)。主な著書に、『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』(平成28年)、『金融機関における個人情報保護の実務』(共編著)(平成28年)、『クラウド情報管理の法律実務』(平成28年)、企業情報管理実務研究会編『Q&A企業の情報管理の実務』(共著)(平成20年)ほか。