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松尾隆策・山口三十四 著
『道の駅の経済学 地域社会の振興と経済活性化』
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はしがき
道の駅は,1993 年に建設省(現:国土交通省)により創設された,安全で快適に道路を利用するための道路交通環境の提供,地域のにぎわい創出を目的とした施設に対する登録・案内制度である。道路の休憩施設として始まった道の駅の基本的な3 つの機能は,「休憩機能」,「情報発信機能」,「地域の連携機能」とされる。さらに近年,「防災機能」,「医療・福祉機能」,「住民サービス機能」等,その機能は,ますます拡大しつつある。このような「公益的機能」とは別に,制度の発足時から注目される機能として農産物直売所,レストラン等の「経済的機能」が有名である。これらから,道の駅は公益的機能を持った公共施設でありながら,それ自体が採算性を求められる経済主体として機能しているというところが機能的な特徴であるといえる。全国の設置数は,第1 回登録(1993 年)の103 駅から,第47 回登録(2019 年3 月)の1, 154 駅にまで増加し,いまや国民に広く知られる施設にまで成長した。
道の駅が,このような機能的特徴を持つ施設として発展してきたことの根拠は,道の駅の基本コンセプトを「訪れる人と地域の接点であり,うるおいと安らぎを与えるとともに,地域の顔として,個性的で魅力あるものとすることが望まれる」とし,「地域とともにつくる個性豊かなにぎわいの場」であるとする,道の駅の制度発足時にとりまとめられた提言に見ることができる。同提言は,道の駅を公共的な空間施設とするとともに,それ自体を経済活性化の拠点という経済主体として位置づけている。制度発足後20 年あまりが経過した現在でも,道の駅は,人々が集う公共空間でありながら,各駅が独自の創意工夫により運営され,独自の経済振興策を行う拠点であるという基本コンセプトを維持しながら,発展を続けている。そして,多様な公益的機能を持つ道の駅に対する期待は,近年ますます大きくなり,道の駅はいまや,「観光立国推進政策の拠点」,および「地方創生政策の拠点」として,国の地域政策の中心的拠点施設に位置づけられるまでになった。
道の駅の持つ公益的機能は,その性質から次の2 点に整理できる。すなわち,
(1)公共施設としての機能を有していること:道の駅は,「休憩機能」,「情報発信機能」,「地域の連携機能」に加えて,「医療・福祉機能」,「防災機能」等の公共施設としての機能を備えている。地域住民と,他の地域からの来訪者との「コミュニケーションの場」という「コモンズ」として,道の駅が,来訪者の案内,地域住民の福祉,防災等に役立つことは,重要な公益的機能である。
(2)地方創生の拠点として地域経済の発展をけん引する経済主体であること:道の駅は,地域における地方創生政策の中心的拠点施設として位置づけられている。地域経済の発展には,地域における人々の嗜好と生活様式の変化に対応するイノベーションが起こることが不可欠である。特に,中山間地域等の条件不利地域にとって,地域経済全体を発展させるイノベーターとしての道の駅の重要性は極めて大きいといえ,このことも道の駅の公益的機能とみなせる。
さらに,道の駅は,次のような制度的特徴も有している。道の駅の登録・案内制度は,地域の創意工夫で運営されるという,自由度のある制度であるという点である(建設省道路局監修・財団法人道路保全技術センター編集(1993))。North(1990)(以下ノースと記す)によれば,一般的な制度は「社会におけるゲームのルールである。あるいは,より形式的に言えば,それは人々によって考察された制約であり,人々の相互作用を形づくる」と定義される。すなわち,制度とは,人間相互の効用を重視し,高めるために制約条件を伴う。この観点から見れば,道の駅は制度であるにもかかわらず,その制約条件が極めて低い水準にある独特な制度であるといえよう。しかも,この制度的な斬新性が,マーケティング学会で評価され,道の駅は2015 年に,「第7 回日本マーケティング大賞」を受賞している。現在,道の駅が,観光立国推進および地方創生政策の拠点として,国の地域政策の中心的施設に位置づけられ,1, 154 駅と数が増加してきているのも,他に例を見ないこのような特徴を備えているからであると思われる。本書では,この制度的特徴にも焦点を当てる。
このように,道の駅は,一般的な公共施設とは異なる機能的特徴と制度的特徴を有しているとみなせる。これまで,いくつかの道の駅に関する学術的研究が行われてきた。まず,道の駅の公共施設としての機能のうち,基本3 機能に関する研究には,北村他(2000)がある。また,戸田・酒本(2013)は,道の駅の休憩・情報発信・地域の連携の基本3 機能以外に,人と人,モノと組織の結節点としての機能の大切さも検証している。林他(2011)は,東日本大震災の経験から,道の駅における防災機能の可能性を分析している。そして,経済的機能に関する分析として,嶋(2015)がある。彼は,農業総産出額,生産農業所得に,道の駅のダミー変数を入れて分析している。さらに,中村他(2008)は,単一方程式により,道の駅の経済的機能に関して計量的分析をしている。
しかし,先行研究は,いずれも個々の機能的・制度的特徴を,それぞれ個別に取り扱った研究のみで,道の駅ならではの複合的,多様な特徴を,総合的に取り扱った研究は,これまで行われていない。さらに,道の駅運営に関する要因間相互の因果関係を取り扱ったような研究は皆無である。先にも述べたように,道の駅の登録・案内制度が始まって20 年以上が経過し,その数も1, 000を超えるまでに増加した。道の駅と一括りに言っても,設備,運営状況はさまざまで,特に,人口減少に悩まされている中山間地域等に設置された道の駅の中には,経営が厳しい駅が存在することも事実である。このような,経営の危機にさらされているような道の駅が,赤字を解消し,今後も地域活性化のためにさらなる効果を発揮するためには,道の駅の有する特徴を網羅した総合的な研究が必要になってくるであろう。
そこで,本書では,同時方程式モデルを用いた計量的分析により,道の駅の機能的特徴,制度的特徴を考慮に入れ,その経済的要因(売上高,入場者数,管理費等)の変数間に見られる因果関係を計量的に明らかにする。あるいは,公共施設としての機能である防災機能に関しても,経済的要因との因果関係をプロビット・順序プロビットモデル等の計量的手法を用いることで明らかにすることを試みる。そして,多様な特徴を反映した道の駅の地域に果たす効果を,計量的分析から導かれた弾力性等の客観的,定量的な推計結果を検証することを通して,今後の道の駅を中心とした地域活性化の方策を提言する。さらに,このような特徴を持つ道の駅の地域に対する経済波及効果を,産業連関分析によって推計する。このことで,地方創生政策,小さな拠点政策,観光立国推進政策において,道の駅を拠点とする地域活性化政策の効果の検証を行う。
本書の構成は次のようである。まず第1 章では,道の駅登録・案内制度発足の誕生と展開を解説し,道の駅が現在のような地方創生の拠点として定着するに至った歴史を述べる。つづいて第2 章では,本研究の分析,検証に用いる理論的枠組みに関して述べる。第3 章と第4 章では,道の駅の経済的機能に関して,売上高に関する計量的分析を行う。具体的には,売上高,駐車数,入場者数,イベント数等の相互因果関係を同時方程式を用いて分析する。すなわち,第3 章において,PFI(民間資金等活用事業)で設立された道の駅を対象とし,そして,第4 章では,道の駅に新たに適用されるようになった交付金(農山漁村活性化プロジェクト支援交付金,社会資本整備総合交付金:以下では,新交付金とする)を対象として,それぞれについて経済的要因間の因果関係を分析する。
第3 章および第4 章で,道の駅の経済的機能に注目したのは次の理由による。第1 に,道の駅は,国や地方自治体等により設置された公共施設であることから,その公益性は非常に重要である。施設の運営費は税金のみに頼るのではなく,道の駅自体の経営によって賄われることが望まれる。その意味で,道の駅の経営面すなわち,経済的機能は,なくてはならない機能といえるからである。第2 に,PFI 制度とは,民間のノウハウを取り入れて,公共施設の設置運営を行う新しい制度であり,さらに新交付金は,交付金の使途を地元の裁量に任せるという自由度の高い制度であることから,経済的機能は道の駅の運営の根幹ともいえるからである。
そして第5 章では,道の駅の果たす公益的機能の一つである「防災機能」に関して分析する。道の駅の新たな展開方向を考える際,考慮しなければならないのが防災機能である。東日本大震災で,被災者の臨時避難所として,自衛隊の中継拠点として等,災害の復旧・復興に多大な貢献をしたことから,道の駅の防災拠点としての機能は非常に重要で,今後も強化されるべきであるといえる。例えば,自家発電装置,非常用トイレ,貯水槽,災害情報提供装置等は,今後すべての道の駅に設置されることが検討されている。第5 章では,災害時には避難,医療施設として利用可能な宿泊施設,温泉施設,キャンプ場等,防災機能として利用可能な多角的設備に関しての調査結果と経営との関係を計量的分析により明らかにする。
第6 章では,地方銀行の収益強化対策について,歴史,モデル作成,二段階最小自乗法,推定,政策的インプリケーションについて述べている。その結果,地方銀行経営においての中小企業への積極的な貸出の重要性が示された点である。また,地域密着型経営の重要性が示され,新規開業者に対して積極的に融資を行うことは有意義であるといえ,地方銀行は地域密着型経営の推進に欠かせない存在であることを示す。
第7 章では,道の駅による地域振興に積極的な山梨県北杜市の3 つの道の駅について述べている。この北杜市の3 つの道の駅は,相互の連携を図り,市全体として地域活性化に取り組む政策の中心的拠点施設に位置づけられている。また,市内の3 つの地域では,それぞれの道の駅を中心として,地元の創意工夫を取り入れ,地域の魅力を発信する「着地型観光」の取り組みの推進を行うことで,地域活性化を行っている。最後に第8 章では,このように公共性を保ちながら,それ自体が経済主体として運営される道の駅の地域に対する経済波及効果を,産業連関分析の手法を用いて分析する。実際には,兵庫県の但馬地域(農村地域),阪神地域(都市近郊地域),神戸市地域(都市地域)の道の駅を対象として,地域に対する経済波及効果,雇用効果を推計し,各地域における効果と,地域的特徴による効果の違いを比較検討する。
以上のように,本書は,第1 章で道の駅の歴史的展開,第2 章で理論的展開を整理・考察し,問題の対象を設定し,第3 章から第6 章において,計量的,経済学的実証分析を行うという構成でとりまとめる。日本経済が成熟期を迎えたといわれる現在,各地域が競争し,その結果もたらされるであろう均衡ある発展は,経済が今後も持続的に成長するための唯一の方策であるともいわれる。道の駅は,今後の日本の経済成長政策の中心的施設として期待されている。本書では,道の駅の経済的機能と地域に果たす代表的な公益的機能である防災機能の分析を行い,その効果を経済波及効果として分析した。本書は,これらの一連の研究から,日本の地域振興さらには,経済発展の方向性を示すことを目指すものである。
最後に,本書の作成にあたり,神戸大学大学院経済学研究科衣笠智子教授,松林洋一教授および橋野知子教授には,貴重なご助言と,細部にわたる詳細な改善案のご提供をして頂いた。深く感謝を表したい(松尾は神戸大学大学院研究員でもある)。
2019 年5 月
松尾隆策
山口三十四