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多賀秀敏・五十嵐誠一 編著
『東アジアの重層的サブリージョンと新たな地域アーキテクチャ』
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まえがき
本書の主題であるサブリージョン(下位地域)に関わる研究の開始は,2005年にまで遡る。この年,12 の国公私立大学に所属する研究者が集い,「サブリージョン研究会」を立ち上げた。以来,助教や助手,大学院学生もが加わりながら,海外の大学の研究者とともに,従来の国際関係論が軽視してきたサブリージョンを徹底的に研究してきた。この研究会を立ち上げるまでには,すでにサブリージョン研究の土台はできあがっていた。1994 年に環日本海学会が創設され,サブリージョン研究会のメンバーの多くが,同学会の活動に深く関わってきたからである。本書で論じるように環日本海は,東アジアのサブリージョンの1 つである。2007 年に同学会は名称を北東アジア学会に変更し,現在に至るまで25 回の学術研究大会を開催している。こうした環日本海学会・北東アジア学会を通じたサブリージョンに関わるメンバーの学術活動が,サブリージョン研究会の設立と発展に結び付いた。
2006 年4 月には,科学研究費補助金基盤研究B(課題番号18402017)の助成を受け,「EU サブリージョンと東アジア共同体―地域ガバナンス間の国際連携モデル構築」を研究課題として,欧州と東アジアのサブリージョンの比較研究と広域越境地域協力のモデル構築に取り組んだ。ここでは,世界各地のサブリージョンは,整序的な入れ子状ではなく,非階層的で融通無碍な状態であることを実証的に明らかにした。
この研究を発展させるべく,2009 年4 月に科学研究費補助金基盤研究B(課題番号21402016)を獲得し,「グローバル時代のマルチ・レベル・ガバナンス―EU と東アジアのサブリージョン比較」を研究課題として,欧州と東アジアの比較研究を継続しながら,サブリージョンのガバナンスに着目し,広域越境地域協力に関する研究に取り組んだ。ここでは,欧州連合(European Union=EU)のような超国家機構による統合の進捗がないにもかかわらず,東アジアでは国際機関,国家,地方政府,企業,NGO・NPO,移民など多様なアクターが関わり,階層性のない形で多様なスケールのサブリージョナル・ガバナンスが形成されている実態が明らかとなった。
2013 年4 月には,再び科学研究費補助金基盤研究B(課題番号25301012)の助成を受け,「東アジアにおけるサブリージョナル・ガバナンスの研究―拡大メコン圏形成過程を事例に」を研究課題として,拡大メコン圏(Greater Mekong Sub-Region=GMS)にフォーカスしたサブリージョン研究を開始した。研究を通じて,GMS の発展に伴う中国,タイ,ベトナムにおける中央・地方関係の変化と多様な非国家行為体の関与,その結果としての「下」からの新たな越境的公共空間の拡大が,主権国家体系と安全保障秩序を変容させつつある実態が部分的に確認された。
以上の研究の集大成として,2018 年10 月にはRoutledge 社より,Peer Reviewを経て,The New International Relations of Sub-Regionalism : Asia and Europe(編者:多賀秀敏・五十嵐誠一)(https://www.routledge.com/The-New-International-Relations-of-Sub-Regionalism-Asia-and-Europe/Taga-Igarashi/p/book/9781138093256)を刊行した。同書では,サブリージョンとしてのGMSに注目し,欧州との比較を意識しながら,かつ欧州中心主義の超克をも目指し,サブリージョンと国家戦略,非国家主体,国境との関係に焦点を当て,「新たな社会単位」「新たな社会的実験」としてのサブリージョンを重視した「新たな国際関係論」の確立を試みた。
The New International Relations of Sub-Regionalism の中で残された課題の1 つは,サブリージョンの中でもスケールが小さいミクロリージョン(小地域)が持つ政治力学であった。東アジアでは,1980 年代後半以降,多様なミクロリージョンが重層的に形成されてきた。そこで,サブリージョン研究会は,この重層的に形成されるサブリージョン群を分析対象として,サブリージョンが東アジアの地域秩序に与える影響を探ってきた。幸いにも,2016 年4 月からサブリージョンを主題とする科学研究費補助金基盤研究B(課題番号16H05700)を再び獲得することができた。「東アジアにおける重層的サブリージョンと新たな安全保障アーキテクチャ」が研究課題名である。本書で見るように,サブリージョンで展開する協力分野・交流分野はきわめて多様である。必然的にサブリージョン研究会では,伝統的安全保障のみならず非伝統的安全保障をも含む広義の安全保障研究へと関心が拡大した。加えて,東アジアの地域秩序が複数のサブリージョンから不均質に脱構築され,新たな安全保障構造(アーキテクチャ)が生成される可能性を探ることとなった。その成果が本書である。
出版に際しては,勁草書房の宮本詳三取締役に大変お世話になった。本企画に大変関心を持って下さり,厳しい出版事情の中で,本書を世に出して下さったことに,心より深く感謝を申し上げたい。
本書は,2016―2019 年度科学研究費補助金基盤研究B(課題番号16H05700,研究課題名「東アジアにおける重層的サブリージョンと新たな安全保障アーキテクチャ」)による研究成果の一部であることを申し添える。
2020 年1 月
多賀 秀敏
五十嵐 誠一