本たちの周辺

「認識論はいまどうなっているのか?」
戸田山スケッチブック大公開~中の巻~

 

2020年10月25日に、上枝美典著『現代認識論入門』とジョン・グレコ(上枝美典訳)『達成としての知識』の刊行を記念して、本屋B&Bの主催にて行われたオンラインイベント、上枝美典×戸田山和久×伊勢田哲治「認識論はいまどうなっているのか?――過去、現在、そして未来へ」。
 
上枝美典先生の対談相手として、『現代認識論入門』が刊行されるまで長らく日本で唯一の認識論の入門書だった『知識の哲学』の著者である戸田山和久先生、また司会として『認識論を社会化する』の伊勢田哲治先生をお招きし、非常に豪華な顔ぶれで認識論について語り合う鼎談となりました。
 
このなかで、戸田山先生が『現代認識論入門』の読みどころをスケッチブックに書いた手書きのフリップで示してくださったのですが、これが本当に素敵だったんです! スケッチブックを使うというアイディアは、少し前のイベントで物理学者の谷村省吾先生が使っておられたのを見て、「いいな、俺もやってみよう」と思ったからとのこと。
 
せっかくなのでたくさんの方に見ていただきたいということで、簡単な説明を添えてここで3回にわけて公開させていただきます。イベントに参加された方はもちろん、『現代認識論入門』をこれから読もうという方、理解を深めたい方も必見です!【編集部】

 
 

「認識論はいまどうなっているのか?」戸田山スケッチブック大公開~中の巻~
――上枝美典『現代認識論入門』刊行記念
オンライントークイベントより――

 
 

※画像はクリックで拡大します。

 
③Ueeda本の冴えた読み方

 
I.標準分析とゲティア反例を片時も忘れずに。
 
この2つが『現代認識論入門』のベースライン。

 
標準分析とは
 
戸田山先生が認識論の授業で、学生に行ったアンケート調査。

 
わかったこと(1)

 
シュークリーム実験
 
3人兄弟が家にある紙袋を見てそれぞれ「シュークリームだ!」と思う。その理由は? 

 
知ってたのは誰でしょう?

 
わかったこと(2)
 
ピカチュウのお告げや希望的観測では証拠にならない。

 
3つまとめて標準分析(スタート!)
 
絵はじゃがいものゆでたものではなく、シュークリームです。
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3つまとめて標準分析(ゴール!)
 
矢印は両方向。学生さんの直観にもかなっていて、これでよさそうに思える。

 
ゲティアもんだいを正しく悩むための2つのヤクソク(スタート!)
 
重要な悪役登場! 上枝本ではゲティア事例の紹介の後にこの約束が出てくるけれど、先にこっちを説明したほうがわかりやすいそう。
↓↓↓

 
ゲティアもんだいを正しく悩むための2つのヤクソク(ゴール!)
 

①SさんがPだと思っている。証拠があってPは正当化されているが、本当はPではない。真ではないが正当化されているPというのもあってよい。
②SはPを正当化されて信じている。PからQが論理的に出てくるので、Qも信じるようになった。このQも正当化されている。

この二つを認めておきましょう! 昔の科学で信じられていたことが、後になって間違いとわかることはよくある(①)。証拠から論理的に導いたことを正当化できないと、知識を広げていくことができない(②)。

 
ゲティア事例のしくみ(スタート!)
ジョーンズはいつもフォード車に自慢気に乗っていて、スミスはジョーンズがフォード車を所有していると思っている(Fj)。Fjが正当化されているので、Fj or Bbも論理的に出てくる。Bbは「ブラウンはバルセロナにいる」を意味する。
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ゲティア事例のしくみ(ゴール!)
 
Bb(付け加わった余計な可能性)がたまたま真だったために、Fj or Bbが真となる。まぐれ当たり。これを知識と呼びたくない、というのがゲティア問題。まぐれ当たりを知識からどう排除するか?
 
(質問に答えて)なんで「Fj or Bb」なんていう信念を形成するのか? 「なんとなく」。使い道のないこんな信念を普通は形成しないので、オリジナルのゲティア反例はすごく不自然。でも、現代認識論の主流は、これをまぐれ当たりの問題と捉えたうえで、これを知識からどう排除するかという問いを立てて展開してきた。

 
ゲティア事例に対処するには?
 
条件αを加えることでK(知識)と重ねたい。現代認識論はこれを縮めたりゆるめたりをずっとやってきた。

 
Ⅱ.上枝本の2.5、2.6は最大の難所!ここはムシする!
 
第二章前半でゲティア問題が提示された後、2.5と2.6節は条件αをくっつけて知識にしようとするうまくいかない試みの紹介で、最大の難所。ここで諦めるとこの本の美味しいところが味わえないので、最初に読むときはここは無視して先に進みましょう! 分析哲学の粋をこらした議論をしてもうまくいかない、ということだけわかればよいそうです。
(ちなみに伊勢田先生は、「ここまでちゃんとやってくれるんだ」、「いろいろありましたの一言で飛ばされがちなところを終わらせずにやってくれた」とこの部分を評価してくださっていました。戸田山先生いわく、「「分析哲学ってどんなことやるの?」というのを味わうためにはすごくいい部分」とのこと。)

 
 
と、中の巻はここまで。最終巻の下の巻も近日公開です。お楽しみにお待ちください。上の巻は〈こちら〉。[編集部]
 

戸田山和久(とだやま・かずひさ)
1958年生まれ。1989年、東京大学大学院人文科学研究科単位取得退学。現在、名古屋大学大学院情報科学研究科教授。著書:『知識の哲学』(産業図書)、『論理学をつくる』(名古屋大学出版会)、『新版 論文の教室』(NHKブックス)、『哲学入門』(ちくま新書)、『教養の書』(筑摩書房)、『思考の教室』(NHK出版)ほか。訳書:ラウダン『科学と価値』(勁草書房)、デネット『自由の余地』(名古屋大学出版会)ほか。
 
 
★『現代認識論入門』のたちよみ公開はこちら 》》》「まえがき」と「第1章」1節~4節
★『達成としての知識』のたちよみ公開はこちら 》》》「日本語版へのまえがき」

 
 

ゲティア問題以降、知識とは何かをめぐって認識論はどのような道程を辿ってきたのか。最新の動向までを丁寧に解説する待望の入門書!
上枝美典 著
『現代認識論入門 ゲティア問題から徳認識論まで』

2020年8月発売
A5判・256ページ
本体2,600円+税
ISBN:978-4-326-10283-9 →書誌情報

 
上枝美典(うええだ・よしのり)
1961年生まれ。1990年、京都大学大学院文学研究科単位取得退学。1996年、フォーダム大学大学院哲学科退学。慶應義塾大学文学部教授。著書に『「神」という謎[第二版]』(世界思想社、2007年)、『現代認識論入門』(勁草書房、2020年)、訳書にチザム『知識の理論 第3版』(世界思想社、2003年)、バンジョー&ソウザ『認識的正当化』(産業図書、2006年)ほか。