あとがきたちよみ
『企業法務入門20講』

About the Author: 勁草書房編集部

哲学・思想、社会学、法学、経済学、美学・芸術学、医療・福祉等、人文科学・社会科学分野を中心とした出版活動を行っています。
Published On: 2021/1/29

 
あとがき、はしがき、はじめに、おわりに、解説などのページをご紹介します。気軽にページをめくる感覚で、ぜひ本の雰囲気を感じてください。目次などの概要は「書誌情報」からもご覧いただけます。
 
 
菅原貴与志 著
『企業法務入門20講』[勁草法律実務シリーズ]

「はしがき」、「第1講 企業法務とは」より[1](pdfファイルへのリンク)〉
〈目次・書誌情報・オンライン書店へのリンクはこちら〉
 


はしがき
 
 企業の活動は多岐にわたりますが,商取引に関する紛争ばかりではなく,社内の不祥事,消費者からの苦情,不当な企業攻撃,さらには会社経営のグローバリゼーション,DX の進展など,現代企業の直面する法的問題は多様化し,複雑化し,そして国際化しています。
 そうした環境を踏まえ,本書は,企業法務の重要課題につき,主に初任の法務部員や総務部門の法務担当者を対象として,できる限り平易で分かりやすく解説したものです。
 内容としては,商事法務(第6・7・8・9 講),国際法務(第4・5 講),情報法務(第10 講),経済法・独禁法(第11 講),労働法務(第12・13 講),消費者保護(第14 講),債権管理・回収(第17 講),危機管理(第18・19 講)等々の法分野について,各講の冒頭に実務的な事例(【Case】)を掲げ,その考え方の要旨(本講のポイント)を示した後,具体的な解説を論述しました(解説)。末尾には今後検討すべき事項(発展課題)も付記しています。また,紛争解決,予防法務,戦略法務という企業法務の3 つの機能については,演習問題の形式で解説を試みました(第5・7・17 講)。
 なお,本書の執筆に際しては,筆者が担当した慶應義塾大学「企業法務ワークショップ・プログラム」や企業向けの各種研修・セミナーにおける講義内容と質疑応答も参考としたため,講義録のような口語体で記述しています。
 本書が広く企業法務に携わる方々に少しでも役立つものになるのであれば,著者として望外の喜びです。
 本書の企画・構成段階から出版に至るまで,勁草書房の山田政弘氏・中東小百合氏には,終始多大なるお世話になりました。心からお礼を申し上げます。
 
2020 年12 月
菅原貴与志
 
 
第1講 企業法務とは
 
【Case】そもそも企業法務とは何か。また,その担い手とは誰か。
 
本講のポイント
▶▶企業法務とは,多義的な概念である。
▶▶企業法務には,①紛争解決,②予防法務,③戦略法務の3 機能がある。
▶▶本当の意味での企業法務を担うことができるのは,企業内部に精通した法務スタッフである。
 
解説
 
[1]企業法務とは
(1)企業活動と法律
 企業の活動は多岐にわたりますが,その中心は対外的な商取引です。しかし,企業を悩ませるものは,取引先や競争相手との紛争ばかりではありません。社内の不祥事,消費者からの苦情,不当な企業攻撃,さらには会社経営のグローバリゼーション,DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展など,現代企業の直面する法的問題は多様化し,複雑化し,そして国際化しています。
 このように,現在,経済社会における企業法務の果たすべき役割は日ごとに増しており,そこに企業の法律問題を扱う専門家の活躍の場があります(1)。ただ一口に「企業法務」といいますが,これも実に多義的な概念ではあります。10 人集まれば,十人十色。若干のニュアンスの違いを伴いながら,各々の企業法務のイメージを思い浮かべるであろうと推察できます。
 
(2)多義的な企業法務の概念
 たとえば,会社法を中心とした商事法務の分野だけを指して,企業法務という言葉を使う場合があります。企業法務にとって,会社法制がもっとも重要な分野のひとつであることは間違いないのですが,それだけに限るものでもありません。
 また,企業を取り巻く法律問題のうち,末期的な病理現象を取り出して別に扱い,これと対立させて企業法務を概念する場合もあります。倒産法弁護士とか会社再建弁護士と称されるスペシャリスト集団が,ここでいう末期的な病理現象の分野を担っています。これに対するのが企業法務だとすれば,企業法務とは,健康診断や人間ドック,日常的な健康管理から病気にかかったときの内科的な処方,ときには比較的簡易な外科手術まで,相当に幅広い守備範囲を指すことになるでしょう。
 あるいは,企業法務について,対象企業との位置関係から論じる場合もあります。それによれば,企業の内部ないしこれに接着する立場で当該企業の法律事務を扱うのが,企業法務だといいます。主に企業人が「企業法務」という場合,多くはこの意味で用いられているようです。会社の法務部員が担っているのが本当の意味での企業法務であって,企業外部の弁護士の業務などは企業法務とは呼ばないということなのかもしれません。この点に,企業法務部門の自信や自負が窺えますし,それにはそれなりの理由もあるようです。
 このように,企業法務の概念はきわめて多義的です。したがって,結局のところ,「企業にかかわる法律問題を扱う業務」という,ごく当たり前のような定義づけしかできないわけです(2)。(以下、本文つづく)
 
(1)わが国現代企業の法務部門の実態については,経営法友会編著『会社法務部【第11 次】実態調査の分析報告』(別冊NBL160 号)が詳しい。
(2)企業法務の概念につき,菅原「企業の法務部門を強化するための企業法務再考論」月刊ザ・ローヤーズ4 巻9 号6 頁。
 
 
banner_atogakitachiyomi

About the Author: 勁草書房編集部

哲学・思想、社会学、法学、経済学、美学・芸術学、医療・福祉等、人文科学・社会科学分野を中心とした出版活動を行っています。
Go to Top