コロナ時代の疫学レビュー
第2回 パンデミックの転換点を、300語で読む――ファイザー社ワクチンのランダム化比較対照試験①

About the Author: 坪野吉孝

つぼの・よしたか  医師・博士(医学)。1962年東京生。1989年東北大学医学部卒業。国立がん研究センター、ハーバード大学公衆衛生大学院などを経て、2004年東北大学大学院教授(医学系研究科臨床疫学分野・法学研究科公共政策大学院)。2011年より精神科臨床医。2020年、厚生労働省参与(新型コロナウィルス感染症対策本部クラスター対策班)。現在、東北大学大学院客員教授(医学系研究科微生物学分野・歯学研究科国際歯科保健学分野・法学研究科公共政策大学院)および早稲田大学大学院客員教授(政治学研究科)。専門は疫学・健康政策。
Published On: 2021/7/6By

 
 
坪野吉孝さんの論文レビューが、今回から本格的に始まります。まずはなんと言っても新型コロナウイルス感染症対策の要であるワクチンについて。ワクチン接種済みの方もこれからの方も、研究成果の一端をぜひ味わってください。[編集部]
 
 
 新型コロナウイルス感染症によるパンデミック対策の転換点となったのは、米国ファイザー社とドイツのビオンテック社が開発したmRNAワクチンの開発の成功だった。
 
 ワクチンの有効性と安全性を評価した臨床試験の論文が『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』(NEJM)にオンライン公開されたのは2020年12月10日。筆者はこの日にさっそく論文を読み、これは歴史的な研究成果になると、しばし想いにふけった。
 

ロジカルからロジスティカルへ

 
 このワクチンを、たとえば1か月のあいだに世界人口の7割が接種すれば、パンデミックは収束するだろう――。むろん実際には、ワクチンの製造や供給には1か月よりはるかに長い時間がかかるので、これは現実的ではない。けれども、このワクチンの登場により、パンデミックは少なくとも医学的・ロジカルには解決したと思った。
 
 残された課題は、ワクチンを人口の大部分が接種するための実務的・ロジスティカルな性質のハードルだ。それが大きな課題であることは間違いない。とはいえ、パンデミック対策の中心が、医学的なロジカルな課題から、実務的なロジスティカルな課題へと、位相が変化したと感じた。
 
 論文の全文が、NEJMのサイトで公開されており、論文のPDFファイルもダウンロードできる。PDFファイルは、NEJMの印刷版に掲載される論文とまったく同じ内容だ。
 
 PDF論文は全体で13ページからなる。最初の1ページ目に、研究の概要を短く要約した「抄録」が掲載されている。抄録は「アブストラクト」と呼ばれる。2ページ目以降が、論文の本文にあたる。1ページ目の抄録の記述を、補足してたどりながら、論文の概要を紹介しよう。なお、抄録の日本語訳が、NEJM日本版を出版する医書出版社の南江堂のサイトに掲載されている。筆者は監修者として作成にかかわった。
https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa2034577
https://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa2034577
https://www.nejm.jp/abstract/vol383.p2603
 

論文の抄録でみる研究の概略

 
 抄録は、「背景」「方法」「結果」「結論」の4つのセクションに分かれている。
 

 「背景」は次の2つの文章からなる。「重症急性呼吸器症候群コロナウイルス 2(SARS-CoV-2)の感染で生ずる新型コロナウイルス感染症(Covid-19)はパンデミックとなり、世界で何千万もの人々が苦しんでいる。安全で有効なワクチンが緊急に必要とされている」。
 ↓ ↓ ↓
 
つづきは、単行本『疫学 新型コロナ論文で学ぶ基礎と応用』でごらんください。

 
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2021年12月22日発売
坪野吉孝 著 『疫学 新型コロナ論文で学ぶ基礎と応用』

 
A5判並製・240頁 本体価格2700円(税込2970円)
ISBN:978-4-326-70121-6 →[書誌情報]
【内容紹介】 ランダム化比較対照試験、前向きコホート研究、症例対照研究など、疫学で使われる研究デザインとは? 世界を代表する医学専門誌に掲載された新型コロナ論文を読み解きながら、疫学の考え方を非医療者も理解できるようわかりやすく解説する。データと論理と知性の力によって無数の人々の生命を救う、疫学の成果と課題を知るために。


【目次】
まえがき
 
Ⅰ 基礎編――疫学の基本事項
 1 疫学とは
 2 疾病頻度の指標
 3 関連性の指標
 4 因果性の競合的解釈
 5 偶然
 6 バイアス
 7 交絡
 8 研究デザイン
 9 ランダム化比較対照試験
 10 前向きコホート研究
 11 後向きコホート研究
 12 症例対照研究
 13 地域相関研究と時系列研究
 14 システマティック・レビューとメタアナリシス
 
Ⅱ 応用編――新型コロナの疫学論文を読み解く
 1 ランダム化比較対照試験[ワクチン]
  「これは勝利である」――ファイザー社mRNAワクチンの有効性
 2 後向きコホート研究[ワクチン]
  リアルワールドエビデンスの「マジック」――イスラエルの集団接種
 3 前向きコホート研究[ワクチン]
  Covid-19ワクチンによる「発症」予防と「感染」予防
 4 症例対照研究[ワクチン]
  急速に蔓延するデルタ株との闘い
 5 後向きコホート研究[治療]
  コロナ時代の最初の巨大な研究スキャンダル――血圧降下薬・ヒドロキシクロロキン・イベルメクチン
 6 ランダム化比較対照試験[治療]
  パンデミックの時こそ、緊急性と科学性を両立させる――デキサメタゾン
 
あとがき
索引
 
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About the Author: 坪野吉孝

つぼの・よしたか  医師・博士(医学)。1962年東京生。1989年東北大学医学部卒業。国立がん研究センター、ハーバード大学公衆衛生大学院などを経て、2004年東北大学大学院教授(医学系研究科臨床疫学分野・法学研究科公共政策大学院)。2011年より精神科臨床医。2020年、厚生労働省参与(新型コロナウィルス感染症対策本部クラスター対策班)。現在、東北大学大学院客員教授(医学系研究科微生物学分野・歯学研究科国際歯科保健学分野・法学研究科公共政策大学院)および早稲田大学大学院客員教授(政治学研究科)。専門は疫学・健康政策。
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