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あとがきたちよみ
『デザイン保護法』

 
あとがき、はしがき、はじめに、おわりに、解説などのページをご紹介します。気軽にページをめくる感覚で、ぜひ本の雰囲気を感じてください。目次などの概要は「書誌情報」からもご覧いただけます。
 
 
茶園成樹・上野達弘 編著
『デザイン保護法』

「はしがき」「序章 総論(第1節)」(pdfファイルへのリンク)〉
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はしがき
 
 近年、経済のグローバル化と製品のコモディティー化の進展に伴い、産業におけるデザインの価値はますます高まっている。そして、2019(令和元)年に意匠法の大幅な改正が行われた。こうした動きを受けて、デザインがどのように保護されており、保護されるべきかについて詳しく解説する書籍が企画され、本書が作成された。
 本書は、多様なデザインの保護を検討するものである。ここでの「多様」とは、デザインを保護する法律と保護されるデザインの種類の両方にかかわる。まず、デザインを保護する法律として、意匠法が中心的な位置にあるが、これに限られず、著作権法や商標法、不正競争防止法も含まれる。次に、デザインには、伝統的なプロダクト・デザインから最新のデジタル・デザインまで様々なものがあり、法的保護を考えるうえでは、これらの種類を区別する必要がある。
 そこで、本書は、このような二つの意味での「多様」な性質を帯びるデザインの保護の全体像を明らかにするために、次のような構成をとっている。最初に、序章において、デザインの保護にかかわる意匠法、著作権法、商標法、不正競争防止法、不法行為法の基本的な内容が説明される。そして、第1 章以下において、デザインの種類ごとに、その保護が検討される。具体的には、プロダクト・デザイン(第1 章)、パッケージ・デザイン(第2 章)、ファッション・デザイン(第3 章)、空間デザイン(第4 章)、画像デザイン(第5 章)、グラフィック・デザイン(第6 章)、キャラクター・デザイン(第7 章)である。
 知的財産法について詳しくない読者は、その知識を得るためにも、まず、序章を読んでいただきたい。これに対して、知的財産法の基礎を理解している読者は、序章を飛ばして、関心のある章から読み始めることも可能である。たとえば、2019 年改正により新たに意匠法の保護対象となった建築物や内装のデザインに興味のある方は、いきなり第4 章から読んでもらっても結構である。
 デザインの保護の研究者は、上述の多様な性質という特徴が原因なのかもしれないが、数として多くない。それにもかかわらず、本書の各章は、いずれも優れた研究実績のある大学研究者・実務家である方々に執筆していただくことができた。その方々には、本書の企画に賛同いただき、執筆を担当していただいたことに対して心より感謝申し上げる。
 本書の出版に際しては、勁草書房編集部の鈴木クニエさん、中東小百合さんに大変お世話になった。ここに記して、謝意を表したい。
 本書がデザインの保護に関心のある多くの方に読んでいただき、この分野の研究の発展に寄与できることを願っている。
 
2022 年1 月
茶園 成樹
上野 達弘
 
 
序章 総論
 
茶園成樹
 
第1 節 デザインとは何か
 
 デザインとは、広い意味では計画的行為全般を指すが、特に造形と結びついて、作ろうとするものの形態について、その実用目的に沿って構想することを意味する。
 そのような意味のデザインも多様なものであるが、一般的に、プロダクト・デザイン、ビジュアル(コミュニケーション)・デザイン、エンバイロメント・デザインの三つの分野に分けられるとされている。プロダクト・デザインは、製品のデザインであり使うためのデザインである。ビジュアル・デザインは、情報のデザインであり伝えるためのデザインである。エンバイロメント・デザインは、環境のデザインであり居住するためのデザインである。
 このうちプロダクト・デザインは、機器のデザインや家具のデザイン等、種々のものがある。服飾・ファッション分野のデザインであるファッション・デザインも、プロダクト・デザインの一種である。また、包装・容器を必要とする商品のデザインであるパッケージ・デザインは、商品の特性やコンセプトを表現するものであり、印刷物を媒体とするデザインを指すグラフィック・デザインも、主として視覚を通じて情報を伝達するものであるから、プロダクト・デザインの要素とともにビジュアル・デザインの要素も含んでいる。
 デザイン保護法制の中心である意匠法の主たる保護対象は、プロダクト・デザインである。意匠法は、従来、プロダクト・デザインだけを保護していたが、現在は、ビジュアル・デザインに含まれる、デジタルデバイス上に表示される絵や像からなるデザインである画像デザインも保護している。また、エンバイロメント・デザインに含まれる、建築物のデザインである建築デザインや建物内部の装飾・設備のデザインである内装デザインも保護対象としている。これらのデザインは、空間を扱うものであり、空間デザインとも呼ばれる。
 本書では、次に、デザインを保護する意匠法、著作権法、商標法、不正競争防止法、不法行為法(民709 条)の概要を説明する。その後に、特定のデザインの種類ごとに、保護のあり方について考察する。すなわち、「第1 章 プロダクト・デザイン」、「第2 章 パッケージ・デザイン」、「第3 章 ファッション・デザイン」、「第4 章 空間デザイン」、「第5 章 画像デザイン」、「第6 章 グラフィック・デザイン」、「第7 章 キャラクター・デザイン」である。この章立て自体は、デザインの対象によるものや、分野によるもの、媒体によるもの等が混ざっていて、単一の観点から分類されるような、論理性のあるものではない。しかしながら、それぞれのデザインは、保護の問題に影響を与える何らかの特徴を有しているもののほか、必ずしもそのような特徴がなくても、社会経済的に一つのまとまりとして認識されているものであり、これらを個別に考察することにより、多様なデザインの保護の全体像をよりよく理解することができるであろう。
 
第2 節 意匠法による保護
 
1 目的
 意匠法は、その1 条に規定されているように、意匠の保護と利用を図ることにより、意匠の創作を奨励し、それによって、産業の発達に寄与することを目的としている。意匠の保護は、創作された意匠の意匠登録出願について、特許庁が保護要件の審査をしたうえで意匠権の設定登録により意匠権を発生させるという方法によって行われる。
(以下、本文つづく。脚注は割愛しました)
 
 
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