あとがきたちよみ
『ファッションロー　第2版』

　
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角田政芳・関 真也・内田 剛 著
『ファッションロー　第2版』
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第2版　はしがき
　
　本書の初版は、2017 年9 月に、わが国で初めてのファッションローを体系的に解説したものとして発行した。ファッションローは、その後6 年を経て、社会のデジタル化とインターネットの著しい発展とビジネスモデルの変化に伴なって大きな発展を遂げていることに鑑みて、改訂版を発行することとした。
　初版発行後のファッションローの発展は、当然ながらファッションビジネスの変化に対応した関連法の改正と新しい判例の発展である。
　ファッションビジネスの変化については、特にVR, AR, MR、そしてメタバースにおけるファッション・オブジェクトとしての仮想商品・仮想物品・仮想映像の取引が中心といえよう。2022 年1 月には、米国でファッションブランドのエルメスが、著名ブランド「Birkin」の商標権に基づいて、メタバース上で「MetaBirkins」を使用して模倣品であるNFT 商品を販売しているメイソン・ロスチャイルドに対して、販売差止めと損害賠償を請求した事件が発生した。その詳細については、第9 章の米国ファッションローを参照していただきたいが、ファッションビジネスモデルの変化の代表ともいえる事件である。
　ファッション関連法の主な改正としては、商標法における、ファッションデザイナーの氏名の商標登録可能性を緩和する2023 年5 月の「不正競争防止法等の一部を改正する法律」による改正があった。ファッションデザイナー等の氏名は、そのファッションデザイナーの世界感を表現した商品の出所・品質を現わす重要かつ大きな価値を有する知的財産であるにもかかわらず、その氏名と同一の氏名を有する他人が存在するときには、その全員の同意がなければそれら全員の人格的利益を侵害するとの理由で、従来商標登録を認めていたものを突然拒絶する実務が始まったものであり、改正法により緩和されたとのことであるが、比較法的にも大きな疑問を残した制度となっている。仮想商品を指定商品・役務とする商標登録も実務上開始されて、「ナイキ」や「CONVERSE」が登録されている。また、意匠法においても仮想物品の意匠登録を可能性が検討されている。著作権法は、2017 年以降、幾度となく改正されたが、直接ファッションに関するものはなかったといえよう。
　そして、ファッションに関する判例には、主に著作権と不競法関連のものが多い。
　ファッションに関する著作権の問題は、なんといっても応用美術に属するファッションデザインの著作物性であり、応用美術に関する判例の解釈判断がもっとも影響が大きい。また、ファッションデザインは、模倣が容易であり、その模倣の規模は国の内外を問わず大きく、その損害を与える著作権および不競法上の保護の問題が重大である。
　さらに、仮想商品や仮想物品のメタバース上の取引における著作権、商標権、意匠権、不競法上の権利侵害の問題がある。そして、そのメタバースのユーザーによる著作権、商標権、意匠権、不競法上の権利の侵害に対する、メタバース運営者であるプラット・フォーマーの侵害責任の問題も新しい困難な問題である。2019 年成立のEU 著作権指令（DSM）やドイツの2021 年制定の「サービス・プロバイダー著作権責任法」（UrhDaG）は、いわゆるヴァリューギャップの解消と著作者契約法の実現を目的として、ユーザーが著作権等侵害コンテンツをアップロードした場合には、プラット・フォーマーは独自に著作権の直接侵害責任を負うとする立法を実現しており、その影響は甚大である。
　改訂版である本書は、初版では取り上げなかった英国法を第9 章として追加した。英国のファッションローについては、目下ドイツのマックス・プランク留学中の東海大学法学部准教授の内田剛君に担当していただいた。米国法については、初版に引き続いて関真也弁護士にご担当いただいた。いずれも、最新で有益な情報を提供していただいており、この場を借りて感謝申し上げたい。
　また、この改訂版の発行については、初版と同様、勁草書房の竹田康夫様に大変お世話になった。心から感謝申し上げたい。
　
2023 年10 月6 日
角田 政芳