報道倫理のグレーゾーンへようこそ。ジャーナリズム現場で直面する20の難問を巡る思考実験に、さらなる理論的考察を加え増補改訂!2026年1月17日発売
畑仲哲雄 著『増補改訂版 ジャーナリズムの道徳的ジレンマ』
A5判並製・256頁 本体価格2500円(税込2750円)
ISBN:978-4-326-60387-9 →[書誌情報]
「増補改訂版」刊行を記念して、著者の畑仲哲雄さんに本書ケース11「取材謝礼を要求されたら」にもとづいたミニ講義をお願いしました。みなさん、ぜひご覧ください。[編集部]
【『増補改訂版 ジャーナリズムの道徳的ジレンマ』ミニ講義】(YouTube 勁草書房チャンネル)
このたび『増補改訂版 ジャーナリズムの道徳的ジレンマ』を刊行するにあたり、ミニ講義の動画を作成しました。
すでに購入された方はもちろん、すこしでも興味・関心をもってくださった方にご視聴いただき、ご理解の一助となることを願います。
●――心の中のモヤモヤ
わたしがこの本を作った動機は2つあります。
1つはわたし自身の反省です。わたしは20年以上、取材や編集の仕事に人生を費やしました。その中で幾度も道徳的・倫理的な問題に直面したものの、それらを言語化したり原理的に考えたりする方法を知りませんでした。現場を離れて研究者を志したあとも、胸の奥にモヤモヤを抱えていました。
そんなとき、マイケル・サンデルの授業をNHKの番組で知りました。それがもう1つの動機となりました。サンデルの対話は「思考実験」と「対話」を中心にして、イマココにある正義をめぐる難問を哲学・倫理学の原理と接合し、自分事(じぶんごと)として考えるケースメソッドと呼ばれるタイプの講義を応用したものだと分かりました。
わたしが共同通信社に勤めながら大学院生をしていたとき、サンデルの特別講義を東京大学で受講する機会を得ました。そのとき、自分の中にあったジャーナリズムに関する道徳的なモヤモヤを、原理的に考えたいという思いが湧き上がりました。
●――ケースメソッド授業に使えるケースブック
ケースメソッド型講義は、ハーバード・ロースクール(法科大学院)で試行され、ビジネススクールで発展しました。歴史的に確立された学説や理論をトップダウンで教えるのではなく、今日的な課題を考えるために理論と現実を何度も往復しながら模索するボトムアップ型の授業といっていいでしょう。そうしたケースメソッド型授業で使われるのが、ケースブックと呼ばれるテキストです。
ケースブックはその名の通り、象徴的な難問を思考実験の形で検討するもので、すぐれたケースブックは独りで読んでも大きな示唆が得られますが、グループディスカッションに使うことで何倍もの学びをもたらしてくれます。
わたしは、勁草書房編集部ウェブサイト「けいそうビブリオフィル」でケースブックの土台となる記事を連載し、2018年に書籍化しました(旧版)。わたしが務めている龍谷大学や非常勤先の京都産業大学だけでなく、いくつもの大学で教科書として使っていただいています。
●――新しい難問と倫理学の理論をつなげる
今回、新たに「増補改訂版」を作ることにしたのは、新しい道徳的難問がいくつも現れ、そうした事例を盛り込む必要性を痛感したからです。そのため、旧版になかった「選挙ヘイト」や「記者攻撃」の問題、「内部告発」を行う市民の側のジレンマなどを盛り込みました。さらに、章末には倫理学の基礎の基礎といえる理論を紹介し、思想や理論などを発展的に考えるページも追加しました。
わたしの実務経験と研究者としての観察をもとに申せば、ジャーナリズムの難問の多くは報道機関の内側にいる人たちだけでクリアすることはできません。SNS時代に、どういうジャーナリズムが求められているのかを知るには、市民社会との対話が不可欠です。業界寄りの学者の権威を借りて特権的地位を守るのではなく、いま困難を強いられているマイノリティの声に耳を傾け、ふつうの市民をパートナーとすることが必要です。
●――よいジャーナリズムとは
いまから100年あまり昔のアメリカで、著名なジャーナリスト W.リップマンに対して教育哲学者 J.デューイが提起した議論があります。リップマン=デューイ論争と呼ばれるものです。当時、鉄道網や通信網が整備され、大都市では産業が発展し、社会が高度化し複雑化しました。その過程で、人々は分断され、砂粒のように孤立していきました。リップマンはそんな大衆に失望しましたが、デューイは人々が対話を重ねることで、よい市民になるべきだと信じ希望を捨てませんでした。
勃興するテック企業と生成AIによる大変動を前にした現在のジャーナリズムの課題に引きつけて考えれば、「よいジャーナリズム」とは、権力の中枢に肉薄するスーパーマンのような記者の営みよりも、むしろ、ふつうの人々と対話し続け、必要とされるジャーナリズムを模索し続ける名もなき記者たちの営みの中にあるのではないでしょうか。
この本は日本のメディア産業が直面している難問を市民社会の中で考えるためのもので、ジャーナリズム関連の大学の授業だけでなく、ニュース報道に関心を寄せる人たちに記者たちの道徳的苦悩の一端を感じてもらえますし、中高生のメディアリテラシー学習にも使えるはずです。もちろん、若いジャーナリストや記者教育に携わる組織ジャーナリストのベテランたちの役に立てば幸いです。
報道倫理のグレーゾーンへようこそ。ジャーナリズム現場で直面する20の難問を巡る思考実験に、さらなる理論的考察を加え増補改訂!
2026年1月17日発売
畑仲哲雄 著『増補改訂版 ジャーナリズムの道徳的ジレンマ』
A5判並製・256頁 本体価格2500円(税込2750円)
ISBN:978-4-326-60387-9 →[書誌情報]
【内容紹介】 フェイクやヘイトが跋扈する今、メディア不信を放置していいのか? 緊急時に避難するには訓練が必要なように、思考も訓練しなければならない。これまでにジャーナリストが直面したジレンマを徹底考察。旧版の事例を一部差し替え、理論解説を追加し、実名報道、取材謝礼、内部告発、オフレコ取材、性暴力報道などを倫理的に問い直す。
【目次】
はじめに――報道現場のグレーゾーンへようこそ
第1 章 人命と報道
CASE:01 最高の写真か、最低の撮影者か
CASE:02 人質解放のために報道腕章を警察に貸すべきか
CASE:03 原発事故が起きたら記者たちを退避させるべきか
CASE:04 家族が戦場ジャーナリストになると言い出したら
〈その先へ〉 物語の第二幕
第2 章 被害と危害
CASE:05 被災地に殺到する取材陣を追い返すか
CASE:06 遺族から実名を出さないでと懇願されたら
CASE:07 加害者家族を世間からどう守るか
CASE:08 企業倒産をどのタイミングで書くか
〈その先へ〉 不幸を減らす第三の選択肢はあるか
第3 章 約束と義務
CASE:09 オフレコ取材で重大な事実が発覚したら
CASE:10 記事の事前チェックを求められたら
CASE:11 取材謝礼を要求されたら
CASE:12 ジャーナリストに社会運動ができるか
〈その先へ〉 義務をはたす第三の選択肢はあるか
第4 章 原則と例外
CASE:13 「選挙ヘイト」とどう向き合うか
CASE:14 組織ジャーナリストに「自由」はあるか
CASE:15 事実の検証か、違法な取材か
CASE:16 その両論併記は大丈夫か
〈その先へ〉 専門職への長い道のり
第5 章 立場と属性
CASE:17 その性犯罪は、いつ暴くべきか
CASE:18 内部告発者の悲劇とジャーナリストの称賛
CASE:19 宗主国の記者は植民地で取材できるか
CASE:20 犯人が正当な主張を繰り広げたら
〈その先へ〉 善いジャーナリズムへの理論と思想
あとがき――ジャーナリズムはだれのものか
索引
■思考の道具箱■
傍観報道・特ダネ /メディアスクラム・合理的な愚か者 /犯罪被害者支援・サツ回り・発生もの /黄金律 /被疑者と容疑者・世間 /知る権利・取材源の秘匿 /ゲラ /小切手ジャーナリズム /地域紙 /倫理規程・良心条項 /DEI /コンプライアンス・マスコミ倫理 /ポストコロニアリズム

