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『学歴獲得の不平等』

 
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豊永耕平 著
『学歴獲得の不平等』

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まえがき
 
 だれもが努力すればイイ高校に進学でき,イイ大学に進学でき,イイ職業につけると信じられている。だが,こうした常識は正しいのだろうか。本書は,学歴獲得を通じた不平等生成メカニズムを解明することを目的にしている。
 現実には子どもには変えることができない家庭環境の違いという「生まれ」によって学歴には格差が生じてしまう。たとえば,恵まれた家庭の子どもほど良い学習環境にあり,学力や高校偏差値は高い傾向にある。結果的に恵まれた家庭に生まれた子どもは大学に進学しやすく,大学に進学しやすいことで社会経済的地位(職業・所得など)も高くなりやすい。しかし,社会経済的に恵まれない家庭の子どもは学習環境も悪く,学力や高校偏差値は低い傾向にある。大学にも進学しにくくなるので,社会経済的地位も低くなりやすい。このことは恵まれない家庭に生まれると,恵まれた家庭に生まれた場合よりも社会経済的地位は低くなりやすいことを意味する。近年では「親ガチャ」という言葉を耳にすることも増えてきたが,現代でも江戸時代のように「生まれ」によって子どもの将来は大きく左右されているのである。教育に格差が生じていることが原因だが,人びとが学校教育の公平性を信じることで不平等は正当化・隠蔽されてしまっている。これを,学歴獲得の不平等として本書は問題にする。
 一見すると,現代の日本社会は子どもの「生まれ」には関係なく自由に学歴を獲得できるようにみえる。それにもかかわらず,学歴獲得には格差が生じてしまうのはなぜなのだろうか。思いがちな説明は,家庭の経済状況による影響だろう。経済状況が豊かな家庭に生まれると進学塾に通えるし,そもそも大学に進学するためにはお金がかかる。さらに「教育格差」という言葉を耳にして真っ先に思い浮かぶのは,学力格差なのではないだろうか。恵まれた家庭では親が教育熱心だったりして子どもの学力は高くなりやすく,子どもが小学校に入学する前から漢字が書けたりするかもしれない。政策的にも家庭の経済状況による格差や子どもの学力格差は注目されやすい。しかし,本書はそれらだけに注目すると学歴獲得の不平等の問題を捉え損なってしまうことを主張する。
 具体的には,本書は親学歴による格差に注目し,家庭の経済力による格差が注目されてきた一方で,実際には,戦後一貫して親学歴による進学障壁もまた重要な役割を果たしてきたことを指摘する。さらに学歴獲得の不平等を問題にするのに中心的な説明だった学力格差を「半分のプロセス」として捉え直し,子どもの学力が同じくらいだったとしても生じる教育選択の格差を「もう半分のプロセス」として位置づける。その上で社会階層の2 次効果と呼ばれる後者がどのように生じているのかを,高校生とその母親を対象とした質問紙調査とインタビュー調査から解明する。学力格差,進路選択,子育て実践,高等教育の費用負担,そして社会階層論のいずれの領域にもインプリケーションがあるように書いたつもりである。まずは「近年では学歴の重要性が低下し,大学の進学障壁も緩和した」という世論が誤解であることから解きほぐしていこう。
 
〈付記〉
 本書は,筆者の勤務先である立教大学から出版助成を受けて刊行されるものである。本書を出版する機会をいただいたことに深く感謝申し上げたい。
 また本書の第1 章〜第3 章の分析では1985 〜2015 年の「社会階層と社会移動調査」(SSM 調査)の個票データ(2015 年SSM 調査データは2017 年2 月27 日版:バージョン 070)を用いる。JSPS 科研費特別推進研究事業(課題番号 JP25000001)に伴う成果のひとつであり,SSM 調査データの使用にあたっては2015 年SSM 調査データ管理委員会の許可を得た。さらに第2 章の分析は,統計法に基づいて独立行政法人統計センターから1997 年・2007 年の「就業構造基本調査」(総務省)に関する匿名データの提供を受け,筆者が独自に作成・加工した統計を使用する。行政機関が作成・公表する統計等とは異なる。
 なお,第Ⅱ部以降から使用する「親と子の進路選択についての調査」はJSPS 特別研究員奨励費(課題番号 JP18J11806)による成果のひとつである。また研究活動スタート支援(課題番号 JP20K22250)による成果も含んでいる。研究助成について記して感謝申し上げるとともに,「親と子の進路選択についての調査」に協力してくださった皆さまにも感謝申し上げたい。
 
 
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